第30話 EP4 (19) 生まれ変わったアーシャ

「ふーっ」

 メルの細かい指導の元、縫合までわずか20分ほどで、顔の処置が完了した。まだ縫合痕はあるが、さすがに同じ体からの移植だ。肌感触や色合いは何の違和感も無い。


「何とかできたな」

 ウォードが一息つくと、メルが矢継ぎ早に追加指示を出す。


「ニーモ、縫合痕を消して! 一気に仕上げてしまって」

「えー? メルさん、もう疲れて無理~」


「そんな事でどうする! あんたねえ、将来一日に500人とか処置するようになるんだからね、この程度の治療は5分で終わらせないと!」


「え、将来って?」

「いいから早く! それからウォード、お尻っ、エリックの皮膚をレベッカが仕上げてくれたからそれをアーシャのお尻に移植して! すぐ!」


「まじですか。僕、精神科医なんだけど……」

「すぐって言ってるでしょ! つべこべ言わない!」


 コロがザックに耳打ちした。

「あれがニーモと同一人物とは到底思えんな」

「ああ、女は変わるんだ。昔からそうだ」


 ザックのお腹に激痛が走った。

 メルを見ると、ザックを見て睨んでいる。

「遠隔パンチだ。地獄耳だな」


 ◇ ◇ ◇


 全てが終った。ウォードとニーモは疲れて崩れている。

 メルがアーシャの麻酔の効力を消し去り、彼女を優しく起こした。


 アーシャがゆっくり目を開ける。

 ザックが、レベッカが、皆アーシャに注目する。


「可愛い……」


 クレアが羨望のまなざしを送る。

 髪を上げたアーシャはまるで人形のような顔立ちだった。痣の痕跡も全く無い。


 エリックも驚いた。アーシャは好みの女性だったが、まさかこれほどの美人だとは思っていなかった。


「鏡、見てみる?」


 メルがアーシャに鏡を渡した。

 鏡を見たアーシャは、やはり痣がきれいに無くなった自分の顔に驚き、言った。


「あ、こんな……」


 声に詰まっていた。無理もない。生まれてずっと二十年近く、鏡を見ては心を沈ませていたのだから。ウォードとニーモも自分達が一生懸命処置した結果を見て、頑張って良かったと心から感じた。


 みんなが静かに、生まれ変わったアーシャを見守った。


「みなさん、ありがとうございました」


 アーシャは丁寧にお辞儀をすると、エリックに付き添われて、モーテルを後にした。

「いいカップルね」

 クレアが言った。


「じゃあ、私達もそろそろ帰るわ。ニーモまたね」

 メルがそう言うとレベッカもニーモにウインクした。


「うん。また」

 ニーモも手を振って返す。

 まずメルが静かに消えていった。


 コロがレベッカに一言告げる。

「レベッカ。また会おう」

「ん? コロちゃん? え、ええ。また会いましょう」


 レベッカは小さいコロを見て微笑んだ。コロはじっとレベッカを見つめ返す。

 そして、レベッカはコロとザックの操作で箱から転送されていった。


 ニーモが箱に潜り込み、休憩を始めた。

 体力回復の充電モードである。

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