第29話 EP4 (18) アーシャの手術

「はい、準備完了~」とメル。


 無菌室の中にウォードとニーモが白衣を着てスタンバイしている。立派な医者と補助だ。ニーモは白衣が少しぶかぶかで似合わない。


 ベッドにはアーシャが寝ているが、緊張している面持ちだ。手術を見守るのはザック、エリック、クレア、そして総指揮役のメル。そのメルが指示する。


「コロ! デバイスでレベッカを呼び出してこっちに来るように言って! エリック、おなか消毒しておいて! あとで切り刻むから」


「切り刻む!」

 エリックは引いた。メルの言葉遣いが怖い。


「じゃあ、始めるよ、いいウォード?」

「お、おう」


「ニーモ、ウォードに言われた器具を彼に渡してね。あと、ほら麻酔始めて」

「え、どうやって?」

「こうやって!」


 メルはニーモの手元にある麻酔器具をアーシャに付けるように指示した。ニーモが言われた通りにアーシャに処置すると、アーシャは一瞬で眠りについた。


 メルは細かくウォードに指示しながら、まずはアーシャの臀部の皮膚の採取を行った。顔のあざよりもかなり面積が小さい。


「はい、ニーモ。その皮膚細胞を急速増殖させて! 私も手伝うから」


 二人でアーシャの皮膚片を増殖して面積を広げていった。


「コロ、レベッカ来た?」

「来たぞ」


 レベッカが現れた。


「はーい! 初めまして、レベッカ登場です! ニーモは? あれ、もう始めてんじゃん。 メルさん、そのせつはどーもー」


 コロとザックがレベッカに状況を説明した。


「ふーん。じゃあ私は、このエリックって言う人のお腹の皮膚をアーシャのおしりに合うようにすればいいだけね。色は合わせなくていいの?」


「大体でいい。後で調整できる」

 コロが言った。


「オーケー。じゃあエリックさん、おなか出してね、わーたくさんあるじゃん」


 メルが除菌処理をするとレベッカが処置を始めた。たるんだおなかの皮膚を切り取り、急速増殖、リフレッシュ処理を行う。エリックのすっきりしたお腹の皮膚は、丁寧に縫合する。


 クレアがメルに訊いた。レベッカについてだ。


「なぜこの子こんなことができるの?」


「レベッカは器用で少し教えると何でもできるのよ。二週間前に基礎は叩き込んだわ」

「レベッカにはもう会ってたんだ」

「ええ、ニーモが最後よ。もう一人、厄介な子だけどシオンとも会ったわ」


 ウォードはアーシャの臀部の処置が終ると、次に顔のあざの部分の除去を進めた。


「そう、その調子。ウォード上手いじゃない」

 メルが褒める。


 間もなく痣の部分がきれいに取れた。そして並行してニーモの細胞増殖もかなり進んだ。ニーモはその作業に全エネルギーを費やしている。


「ニーモ、サイズはどう?」

 メルが訊くとニーモは息を切らしながら答える。


「どうですか? これ。かなり広がりましたけど」

「どれどれ、ああいいんじゃない? 頑張ったねえ」


 皮膚は痣の面積を十分カバーするくらいに増殖拡大した。


「ウォード、じゃあ移植して! 責任重大だからね。丁寧に」

「うひゃ~。オーラ先生呼んでよ」


「一般人は転送できん! 今更だし」

「わかったよ~ アーシャさん、失敗したらごめんね~」


 すると全身麻酔がかかっているはずのアーシャの目が一瞬開いてウォードを睨む。


「ひいっ、起きたっ」

 ウォードが飛びあがる。しかし、アーシャの目はすぐ閉じた。


 クレアがひそひそ言う。

「麻酔かかっているのに目が開いたよ。怖くない?」


 メルが言った。

「アーシャさんも只者ではないかもだね」


 エリックが引きつっている。もしかしたらとんでもない人を彼女に選んだかも……

 

 手術はその後、滞りなく進んだ。ほっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る