第24話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(13) シオン、そしてザックの秘密

「ネイサン?」

 ウォードが叫んだ。オーラが驚く。


「そうだ。知っているのか?」

「え、いや、わかりません。似たような名前がありますので。とにかくシオンとネイサンですね」


「ああ、箱を使って連絡を取ってみるといい。ただ、一つ注意してくれ。シオンは何というか、一言で言うと……ダークサイドだ」


「ダークサイドですか?」

「ああ、彼女の治療には大きな副作用がある」

「どういう風にでしょうか?」


「彼女、シオンの治療は、患者の病気を治すが、同時にその患者の悪を目覚めさせる」

「悪を、目覚めさせる……?」


「そう、病気の善人を、元気な悪人に変えてしまうんだ」

「元気な悪人ですか、それはちょっといけませんね」

「困ったものだ」


 クレアが言った。


「シオンはヒール(heel)のヒーラー(Healer)ね」

「ウォード君、それじゃあそろそろこの辺で切り上げるよ。食事の邪魔して悪かったね」


「いえ、先生色々教えていただいてありがとうございました」

「とんでもない。箱の連絡方法は先ほど送ったから見ておいてくれ」


「はい、わかりました」

「じゃあな」

「それでは」


 通信が切れた。ウォード達はまた楽しい食事に戻った。と言っても、ニーモとクレアはもうほとんど平らげている。 ザックもとっくに食事は終わり、アルコールをお代わりだ。クレアが叫んだ。


「デザートお願いしまーす!」


 ウォードは追いつけとばかりに必死に食べ始めた。そのウォードの様子を見ながらクレアは呟いた。


「ノースランド久しぶりだな~ 懐かしい」


 ザックが訊いた。


「いつぶりだ?」

「2年、いや3年振りくらいかな~」

「親とかいるのか?」

「いるよ。二人とも元気」


「会いに行ったらどうだ」

「もちろん。ザックも一緒に行く?」

「俺が? 何故?」

「何でもいいでしょ。友達とか、仕事仲間とか」


「いや、遠慮するよ」

「そう言えば、ザックって出身はどこなの? ニーモの親戚でしょ。エリモア?」

「あ、いやそうだな。エリモアかな」

「かな?」


 そのやりとりを見ていたコロがクックッと笑う。コロだけが知っている。ザックはここに居る他の誰とも違って特殊な存在なのを。彼は元々この時代の人間ではない。昔からコロ達とともに長く生きている。時を超えて生きる守り人なのだ。


 何を守るかって?

 人間だ。


 誰を守るかって?

 今はニーモだ。


 でも、ようやく今の仕事の終わりが見え始めた。ニーモがヒーラーとして一人前になれば、彼の仕事は終わりである。ザックは楽しそうに笑うニーモを見て思った。


「俺の仕事ももう少しで終わるな」

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