第23話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(12) グレーズドケースの能力
オーラによると、世界中でこの新しい箱をめぐって騒ぎが起きているという事だった。それはそうだ。通常の医療ではどうしようもなかった病気や問題が、グレーズドケースに入るだけで治癒していくからだ。
全てはウォードがエリモアのクリニックから学会に報告したことが始まりだった。ウォードがのんびり旅を続けている間に、世界はたいへんな事になっていたのだったのだ。
「ところで、ウォード君。君は今どこで何をしているんだ?」
「えーと、今はウィズモアですね。引っ越し中です」
「引っ越し? どこに?」
「あの~ 最終的にはアトランティスです」
「アトランティス? これはまた遠いところに…… 最終的に、とはどういう意味だ?」
「日数をかけてゆっくり移動しているんです。そうだ、ノースランドにも寄りますよ。お会いできますか?」
「ああ、もちろん、いつ頃だ?」
「まだ決めていませんが、二週間後くらいかな」
「わかった。事前に連絡をくれ。予定を調整しておく」
「連絡します。ところで先生自身はお変わりありませんか? 今でも形成外科と精神科の二刀流を続けられていますか?」
「ああ、変わりはないよ。君の傷もすっかり目立たなくなったね」
ウォードは子供の頃に顔に怪我をして、オーラ先生に手術で世話になったことがある。その切り傷は見事な腕で完璧に治療されていた。ウォードが医者の道に進んだきっかけがそのことだった。彼にとってオーラは先輩医師であり、個人的な恩人でもあった。
「先生のおかげです。ありがとうございます」
レベッカは後ろからオーラの腰のあたりに抱き着き始めた。オーラは優しくレベッカの手を外そうとしている。完全に子供に戻ったようだ。
「そうそう、ウォード君、グレーズドケースのすごい力を一つ教えてあげるよ」
「なんでしょう」
「この箱はレベッカのような特殊な能力を持った子は箱と箱の間で瞬間移動ができる」
「瞬間移動ですか? 本当に?」
「ああ、試してみたが問題無くできる。驚いただろ」
「ええ、驚きです。そんな事ができるんですか?」
ずっと話を聞いていたザックがウォードに伝えた。
「ウォード、そう言えばこの箱の使い方に物質移動が可能みたいな事が書かれていた。前に話したことがあるだろう。覚えているか?」
ウォードは思い出した。確かに物質移動が可能と書かれていた。しかしその時は、どうやればいいのかが分からなかった。何とグレーズドケース間で、しかも人間を瞬間転送することができるとは。
「レベッカを三人目の子のところに送ったり、逆に三人目をこちらに送ったりを試して成功したんだ」
「三人目……、そう三人目って誰なんですか?」
「アトランティスのシオンという、やはり女の子だ。アトランティスは君が先程、目的地と言っていたな」
「そうです。えーと、箱の持ち主は先生が知っている人ですか?」
「ああ、この箱の件で知り合ったんだが、ネイサン何とかって言ったな」
「ネイサンですって?」
ウォードは大きな声を上げた。
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