第22話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(11)

「そうですか、こちらでも今日ニーモの能力に驚いたところですよ」

「そうか。ところで、今日伝えたかったのはグレーズドケースの騒ぎだ」

「たくさん見つかっているそうですね」


「そうだ。日に日に増えているし、奪い合いというか、その応用に人が群がっている。何て言ったって、その治療効果が抜群だからだ」

「箱で治療を受けたい人が大勢いるってことですか?」


 オーラ博士によると、箱(グレーズドケース)には精神病だけではなく他の病気や怪我にも治療効果があり、その応用が進んでいるとのことだった。


「そう。もう公に知れ渡っているので、箱の所有者に治療希望者が殺到しているんだ。しかもこの箱は精神病患者だけでなくて、ちょっとした病気も治してしまうし、少し悩みがあるような人まで気分を良くさせるもんだから、健常者ですら利用を希望している」


「ああ、そうなるのか……」

「発見される箱の数は増えているが、一部、収拾がつかなくなっている所もある」

「先生のところは大丈夫ですか?」


「ああ、こちらは大学の方で制限をかけているからパニックにはなっていない。ただな少し問題が……」

「どうしたんですか?」


「レベッカの方だ」

「レベッカの方?」

「そうだ。彼女の能力が高すぎて、治しすぎるんだ」


 治しすぎる? レベッカは自分の事なのに素知らぬ顔で聞いている。手持ち無沙汰なのか、オーラの服をいじり始めた。どうやら彼女もニーモと同様、治療前の精神的な症状が少し残っている様だ。オーラは体を少し捩るなどして、優しくレベッカをいなす。


「レベッカは積極的に人を治しに行ってしまうんだが、その治癒能力に歯止めが効かなくて、だれかれ構わず対価をもらっては治療をしまくってしまうんだ」


「うーん、悪い事ではないようにも思いますけど」

「いやあ、高額をつめば怪しい金持ちもピンピンに治しちゃうんだ」


 レベッカやニーモなど箱によってヒール能力を授かった人は、箱そのものの能力よりもはるかに高い治療能力を有しており、その成果には目を見張るものがあるようだ。


「おこづかいでしょ。病気を治してあげてんだからいいじゃない」


 レベッカはそう言って今度はオーラの腰あたりにまとわりつく。子供の様だ。


「それで、弱っていた裏筋の人なんかも元気すぎるくらいに治しちゃうんもんだから、その後、裏組織のバランスがくずれちゃうんだ」


「なるほど」

 ウォードは事情を理解した。


「まあ、レベッカの事はいい。それよりもウォード君、いずれ君のところにも治療を求めてくる人が殺到する可能性があるから気を付けてくれ」

「はい。そう言う事ですか。分かりました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る