第21話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(10)

「あ、はい。ウォードですが……」


 ウォードが返事をすると、デバイスから今度はホログラムのような投射映像が近くの空間に映し出された。


 声の主は噂していたノースランド大学のオーラ博士だった。その姿を見てウォードが驚く。まさかオーラ博士からグレーズドケース経由で連絡が入るとは。


 ――オーラ博士が笑顔で話し出した。

「私だ。オーラだよ。ジョン、久しぶりだな」


「オーラさん‼ お久しぶりです。驚いたな、この箱、通信機能があるんですか?」


「そうだ。君はグレーズドケースのパイオニアのくせに知らなかったのか?」

「知りませんでした……」


「このケース同士で通信が可能だ。あとでやり方をメールしておく」

「ありがとうございます」


 映像に映っているオーラは50歳前後ながら見た目は若く、知性的で優しい風貌で語る。ウォードのフルネームはジョン・ウォードと言った。


 たいていウォードと呼ばれるが、オーラからはジョンと名前で呼ばれることも多い。オーラ博士がウォードに用件を語り始めた。


「食事中のようだが、少しいいかね?」

「はい、もちろん」

「学会からの連絡はもう見たのか?」

「はい。先ほど」


「箱の研究会の主幹はやってくれるんだな?」

「ええ、無知なパイオニアですが、お力になれるなら……」


「よし、良く聞いてくれ。君のところの患者、ニーモさんと言ったか、それと私の患者ともう一人の合計三人に特殊な能力が確認されている。いずれも元は重い精神病患者だ」


「え、三人目がいるんですか?」

「ああ、アトランティスで発見された」


「アトランティスですか。それは…… あの、みなニーモと同じように細胞を変質させたり、他人を癒すような能力があるのですか?」


「その通りだ」

「すごい。なんてことだ」

「紹介する。レベッカ、こっちに来い」

「はーい」


 映像に一人の女性が映ってきた。やはりかなり若くて可愛らしい。ただニーモと比べると一見、快活でものおじするようなタイプではないことが見て取れる。


 ザックやクレアがレベッカを見てひそひそ話している。ウォードはニーモにこちらに来るように促した。ニーモの姿もあちらに映っているはずだ。レベッカが挨拶した。


「こんにちは! いえ、こんばんは、かな? 私はレベッカ。有能力者でーす」


 軽い。態度がとても軽い。ニーモが少し戸惑っているのが見て分かる。


「こんにちは。僕はウォードだ。そしてこちらがニーモ。君と同じ能力持ちだ」

「あ、ニーモです。初めまして……」


 ニーモは少し緊張しているようだ。まだ対人慣れは完全では無い様だ。


「ニーモ、可愛いね。もうヒーラーの仕事してるの?」

「ヒーラー…… うん。今日初めて一人処置してあげた」


「おめでとう! 私はもう何人もやってるよ。これから仲良くしてね」

「……はい。仲良くします」


 ウォードがニーモに微笑んだ。オーラが再び話しかけてくる。


「ウォード、レベッカの能力はすごい。回復する見込みが低い患者を特殊な能力で次々と治療していくんだ。その内、私達医者の仕事は無くなるぞ」

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