第20話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(9)

 クレアはまたウォードに訊いた。


「なんでさ、アトランティス行くのにちんたら時間かけていくわけ? かえってお金がかかるんじゃない?」


 すると、ウォードはどう答えようか少し考えてからクレアの方を見た。ザックは既に知っていると見え、興味が無いとでもいう様な表情でビールを飲んでいる。ニーモはクレアとウォードの顔をちらちらとうかがっている。


「えーと、アトランティスまでは遠いだろ。途中に色々な場所があるよね。僕さ、せっかく時間的な余裕があるんだから、寄りたいところがいくつかあるんだ。あと資金が少ないからバトイディア*とか使わずに持ち金を節約したいっていう事もある」


 *バトイディア:航空機、巨大なえいのような形状をしている。俗称はレイ。


「どこに寄りたいの?」

「ノースランドとかミルファートとか……」

「ノースランド! ノースランドに行くの?」


 クレアがやけに強く反応する。ウォードはやや引き気味になる。


「あ、ああ。そのつもりだけど……」

「どうしてノースランドに行くのっ?」


 クレアは急ににこにこして大声で訊く。ウォードはクレアの表情をいぶかりながら答える。


「だって、有名な観光地だろう。それにあの山岳地帯には珍しい動植物があるからね」

「当たり前でしょ!」


 クレアの受け答えにザックが反応した。

「クレア。お前、ノースランドに詳しいのか?」


 すると今度は机にちょこんと乗っているコロが言った。


「このお姉ちゃんは、ノースランドの出身だ」

「当ったり~ よく知ってるね。私の故郷よ!」

「ええ~ いいなあ」


 ニーモが羨ましがった。ノースランドは世界的にも有名な観光地で、美しい山々と自然が魅力の北の国だ。アトランティスに行くには少々遠回りな気もするが……


「そういや、さっきウォードが話していたオーラ博士、確かノースランドじゃなかったか?」


 ザックが思い出したように言った。するとウォードも、はっとして答えた。


「そうだ。そうだよ。博士はノースランド大学病院だ。忘れていたよ」


 ちょうどその時だった。コロが座っていた『箱デバイス』全体が光り始めた。点滅している。コロが驚いてお尻のまわりの光をキョロキョロ見た。それを見たニーモが叫んだ。


「コロちゃん。ホタルみたい!」

「いや、光っているのは俺の尻じゃない! 箱だ」

「何だろうな? コロ、ちょっと見せてくれ」

 

 コロが立ち上がって少し離れると、ウォードは箱デバイスを手に取ってザックと調べ始めた。光は強くなったり弱くなったりしている。どうも周りの声に反応している様だ。


「ザック、この点滅何だ?」

「さあ、こんな光り方は見たこと無いな」


 ザックはそう言いながらデバイスをあちこちいじりだした。彼は内部回路の一部まではこのデバイスに詳しい。


「何か通信機能か?……」


 そこまで言った時に、ザックはデバイスの反応に気が付いて単語を繰り返した。



 すると言葉に同期して光が点滅する。


「つう・しん・き・のう」イントネーションに同期して4回光った。


「……ゃっ……」


 何かデバイスから聞こえた。ザックが耳を近づける。すると今度は「つながった!」と、大きな声が聞こえた。ザックがびっくりして耳を離す。なおもデバイスから声が聞こえる。


「おーい、ウォード! 聞こえるか?」デバイスからの声。


 誰だ? ウォードもザックもわからない。ザックがウォードにデバイスを渡す。

ウォードが携帯電話のようにデバイスに話す。


「あ、はい。ウォードですが……」

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