第14話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(3)

 ザックは早速ビールをあおっている。

 さらにつまみを食べながらクレアに言った。


「クレア、ところで今日は飲むのか?」

「どうしよっかな~。飲みたい気分になっちゃった。少しね」

「帰りどうする?」


 クレアはおいしそうにザックが飲むビールを見てうらやましくなった。バイクで来たので、泊まるか別の手段で帰らなければいけない。別の手段で帰るのは結構面倒くさい。翌日バイクを取りに来るのも手間がかかる。


「面倒だな~。ザック泊めてくんない?」

「俺!? いや、モーテルの部屋は狭いんだぞ。俺に床で寝ろってか?」

「いや別に一緒でもいいけど……」


 ブーッ、とザックはビールを吹き出した。クレアとはそういう関係では全くない。


「なーんて冗談よ、ザック」


 クレアは今度は淡々とジュースを飲んでいるニーモの方を向いて言った。


「ニーモちゃん? ねえ、お願いがあるんだけどさあ」

「何ですか?」

「あの~、ニーモの部屋に泊めてくんないかなあ。同じベッドで♡」

「狭いから嫌ですよ」


 ニーモは平然として答えた。クレアの事は好きだが、おねだり口調の時はちょっと警戒している。クレアは時々、まるでニーモが自分のペットであるかのように絡んでくるからだ。


「つれないなあ。病院で面倒みてあげたじゃない」

「クレアさんは大したことしてなかったでしょ。私はザックに面倒見てもらいましたっ!」


 ニーモがまだ体調が悪かったときは、保護者代わりのザックがたいていニーモの面倒を見ていた。看護師として本来ニーモの面倒をみてあげないといけないクレアはラッキーとばかり、ニーモの世話をザックに全面的に任せていた。

 クレアは懇願する。


「そんな事言わないで。何なら小さくなってくれれば、よしよししてあげるわよ」

「要りません」


 クレアはニーモの説得を中断し、一度ザックの方に向きなおった。


「何でこの娘、こんなにツンツンしてるの?」

「さあ、知らん。おまえのそのネチネチした迫り方が嫌なんだろ」


 クレアは再びニーモに媚びた。


「ニーモさん、お願い。私、ウォードやみんなと飲んで楽しむのが久しぶりなの。何もいたずらしないから、部屋に泊めて」

「本当に何もしませんか?」


「絶対しない。約束するよ」

「床で寝てくれますか?」

「うっ、それは……」


 優しいニーモもクレアには慣れたもので、それなりにきつめのカウンターを返すことがある。でもすぐに折れるところがニーモの良いところだ。


「冗談です。仕方ない……一緒でいいですよ。でも変な事はしないでくださいね?」

「やったあ。さすが私のニーモちゃーん」


 でも、やっぱりニーモは優しい。

 クレアはニーモに飛びつきキスをしまくった。


「だから、そういうのは止めてくださいって!」


 ニーモはクレアを引き剝がそうと手でクレアの顔を押しのける。

 クレアは立ち上がり振り返ると手を高く挙げた。


「嬉しいっ、お店の人! ビール持ってきてえ、大ジョッキでね!」

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