エピソード4『箱』狂騒曲とウェイトレス

第12話 EP4『箱』狂騒曲とウェイトレス(1)

 【エピソード4】 レストラン『ラサリア』にて


 モーテル『リトルアメリカ』でのひと騒ぎが一件落着し、夕食を取ろうとしていた4人と1匹。犬のマメは先に餌をもらいモーテルの部屋でお留守番。人間達は今日一日の楽しかったできごとに話の花が咲くことだろう。 


 モーテルの道を挟んで向かいにあるレストランバー「ラサリア」。周りの木々はレストランの温かみを強調し、店の前に植えられた季節の花が店の明かりに浮き出ている。この店には懐かしく優しいたたずまいがある。


 郊外ではオアシスのような存在であるその小さなレストランには、程よく客が訪れており、店の中にいる客も知り合いばかりではないかと錯覚するような温かい雰囲気が醸し出されている。


 ニーモとザックとクレアの三人はラサリアに入った。背が高くてスリムなウェイトレスが奥のテーブル座席を案内してくれた。彼女の顔は髪で隠れており口元しか見えないが、優しく愛嬌のある声だった。少し訛りがある。


「いらっしゃいませ。モーテルのお客様ですね。ラサリアをお選びいただきありがとうございます。三名様でよろしいでしょうか?」 


「四名になります」ザックが言った。


「え、あ、四名様ですか。もう一名いらっしゃるのですね。承知いたしました。奥のテーブル席でよろしいでしょうか? 案内いたします。足元にお気を付けください」


 クレアはニーモと話をしながらウエートレスの後ろに続いた。

 

「雰囲気がいいお店ね、ね、ニーモ」

「そうですね。いい匂いもします」


 焼き立てのパンの香りが店内に広がっている。ガーリックとハーブの香り、ステーキのジューシーな匂いが鼻をくすぐる。ウェイトレスが歩きながら話しかけてきた。


「おなかが空いておられますか? 今日は色々と美味しい料理をご用意できますのでお楽しみにしてください」


 クレアがその言葉に飛びついた。


「ニーモ、美味しい料理だってさ。期待だね?」

「おなかが鳴っっちゃうよ」


「ウォードが来るまではおあずけだからな」

「わかってるって」


 ザックの言葉にニーモは苦笑いした。今日は夕方にたっぷり寝たので調子がいい。今も『箱』を使わずに18歳程度の体でストレスなく動ける。モーテルでは人助け、そうエリックさんを助けることができたし、自分の能力の使い方もわかった。


 メル、あの人一体誰なんだろう。急に現れたり消えたり…… 顔は私そっくりだった。コロちゃんは何か知っているようだったけど、聞いてみようかな?


 三人はテーブル席に着いた。テーブルは清潔で白いテーブルクロスで覆われており、照明が優しくテーブルを照らしている。ナプキンやカトラリーが整然と並べられている。


 ザックとクレアはニーモの顔をじっと見た。以前のうつろな表情とは異なり、血色も顔色もいいニーモの表情が不思議であり、嬉しい気持ちでもある。


「二人とも、どうして私の顔を見つめるんですか?」


 ニーモが言うと、ザックは慌てて視線を外した。

「いやいや、何でもないよ」


 クレアが言った。

「ニーモが可愛いんだよ。ザックは」


「な……!」

 ニーモは急に照れた。照れたが、背けたザックの顔を見直した。いつもはクールな表情だが、目が泳ぎ少し慌てた様子がおかしい。


「クレアさん、恥ずかしい事言わないで下さい!」


 ニーモが頬を膨らました時、ウェイトレスがオーダーを取りに来た。


 三人は慌ててメニューを見始めた。

「まだウォードが来ないから、まずは飲み物でも……」

「そうね」


 ウォードはどうしているのか?

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