第10話 EP3(5) モーテルにて  [ヒーリング]

 間もなくコロが口を挟んだ。


「メル、懐かしいところ申し訳無いが、そろそろニーモに指導をたのむ。あまりゆっくりしていられない。ザックがぺちゃんこになってしまう」


 コロの言葉にメルは我に返った。


「あ、ごめん。わかった」

「え、指導?」

「ニーモ、良く聞いて。あなたは特別な人なの。いつかマスターヒーラーにならなければいけない。その箱に選ばれたのよ」


(マスターヒーラー? ヒーラーって?)

 何が特別、何で私が箱に選ばれたと言うのだろう。メルさんが真剣な顔で続ける。


「あなた、自分の細胞を変化させることができることはもう分かってるよね?」

「ええ、子供の体や大人の体に変化させるとかはできる」

「あなたに限っては他人の細胞も変えることができるのよ」


「え? 他人の細胞を!?」

「そう。物理的な変化もできるし、質的な変化もできる。一番重要なのは脳細胞、すなわち精神状態を変えることができるということよ。何なら記憶もいじれる」


「え、何それ。怖い……」

「本当、ある意味、怖い能力よ。悪用したり、よく考えずにやるとね」

「どうやってその能力を使うの……?」

「基本だけ教えるから、こっち来て」


 メルはニーモを少し離れたところに引っ張って行った。

 テクニカルな説明を身振り手振りを交えてニーモに細かくティーチングする。


 コロはその様子を満足そうに眺めた。遥かな昔から未来に向けて、その技術は受け継がれていくことを知っている。しかし今回の教師と弟子の関係は珍しい。自分が過去の自分に伝えているからだ。こういうパターンもあるのかとコロは初めて知った。――即席のレクチャーは終わった。コロのところに二人が戻ってくると、メルがニーモに言った。


「もし分からないことがあったら、コロ経由でまた私を呼んでね。忙しく無ければ飛んでくるわ」

「ありがとう、でもメルさんは普段はどこにいるんですか?」

「私? えっと、場所的には近くよ。とっても近く。でも世界中を飛び回っているから、特定の場所にはあまりいないかな」


 抽象的な表現だ。時間的には遠いからね。


「じゃあ、ニーモまたね。まずはザックを潰している体の大きな人を何とかして。私はこれで……」


 そう言うとメルはたちまち光に包まれて消えた。ニーモはポカンと口を開けて、先ほどまでメルがいた空間を見つめたままである。(私はヒーラーなんだ……)


「さあニーモ、早くザックを助けに行こう。もう手遅れかもな」

「やばっ」

 ニーモ達は我に返るとダッシュでモーテル内に戻った。

 ちょうどクレアがエアバイクで到着しておりウォードと二人で心配そうにザックと巨体の男を見守っている。


「ザック、生きてるかー」


 コロが小さい体で大声を出した。

 ウォードやクレアが驚く。


「小人だっ」


 ザックがわずかなすきまからコロを見る。


「おお、コロじゃないか。久しぶりだな」

「ああ、ザック。久しぶりでそのざまは無いな」

「ほっとけ、というか何とかしろ」

「ザック、今回はこの姉ちゃんにやってもらう」


 ニーモがもじもじしながら近づいた。


「ニーモ! ということは?」

「ああ、メルって知ってるか? 彼女からさっきヒーリングを教えてもらった」

「メル…… よく知らんな、とにかくニーモ、何かできるなら早く何とかしてくれ」

「あ、はい。では」


 ニーモは巨体の男に近づき、膝を床について両手を男に触れた。ニーモの手がピンク色の光に輝く。ニーモは目を瞑って何かをしばらく呟いた。ウォードもクレアもそれを驚きを持って見つめていた。


 次にニーモは男の体に自分の体を密着させた。相手は巨体だが両手を伸ばして優しく慈しむように抱いた。すると……


 男の体が少しずつ、少しずつ縮んできた。ゆっくりと痩せてきたのだ。

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