第8話 EP3(3) モーテルにて  [コロ]

(あんな大きな人、見たこと無い!)

 ウォードとザックは互いの顔を見合ってうなずいたあとに、その巨体の男性に近づいた。


「あの、大丈夫ですか?」愚問である。大丈夫な訳がない。

「ああ、すみません。車いすが引っかかってしまって」

「手伝いますね」


 ウォードとザックが車いすを動かそうとするが、簡単にはいかない。


(狭い!)

(重い!)


 ミーモは心配そうに少し離れて見守る。


 少しかかってようやく引っ掛かっているところを避けて車いすを進めることができた。彼の部屋はすぐそこの103号室だった。しかし今度は車いすの角度を変えて部屋の中に入る必要がある。これが難関だった。車いすが入口の角に引っかかってしまい、向きを完全に変えることができない。

 十分間粘ったが、どうしようも無い。太った男性もウォードもザックも汗だくになった。すると男性が言った。


「仕方ないのでここで車いすから降ります」


 しかし、どう見てもこの狭い入口で、その巨体をうまく車いすから降ろすことが出来る様には思えない。ダメ元で体力がありそうなザックが部屋側に入って、男性が車いすから降りるのをサポートすることにした。


 男性の体を少しずつ車いすから降ろしていく。二百キロ以上の肉片をずりずりと引っ張るザックには嫌な予感しかしなかった。半分くらい体がずれたところで悲劇は起こった。

 車いすの重量バランスがくずれ、車いすが急に傾いたのだ。巨体がザックにのしかかった。


「ぐえー」


 部屋の狭い入口で二人の男が重なっている。下の男(ザック)は上の男の肉片に覆われ顔だけがかろうじて見える。


「すみません。すみません」

 男はしきりに謝るが、変な体勢で転んだ巨体は動かすことができない。


「重いー。ぐるじいよー」

 ザックが情けない声で助けを求める。しかし、ウォードにもどうしようもない。

「レスキュー呼ぶか?」ウォードがザックに言った。

「たのむー」ザックは即答した。


 そんな緊急事態を見守っていたニーモの足元を何かが突っついた。


「コロボックル! どうしてここに?」


 昼間、私を助けてくれた恩人の小人だ! どうしてここがわかったんだろう?

 コロボックルが私を見上げて即答した。


「ザックの匂いだ。そこに居るだろう。お前、昼間嘘ついたな?」

「ごめんなさい、まだあなたを信用できなくて」

「助けてやったのに、これだよ。無礼者め。まあいい、何してるんだ?」


「あの、太った人が部屋に入れなくて、転んでたいへんなの」

「お前が助ければいいじゃないか」

「え、私が?」


「そうだ。お前だ」

「そんな、私力無いし」

「こっち来い。あ、いや手の上に乗せろ」


「はい」

 ニーモは首の後ろの服を持ち上げる。

「あー、だからその持ち方は止めろって言っただろ!」

「あ、こうだっけ?」

 今度はわきの下。

「ぎゃははは。それも止めろって言っただろうが! ……つーか、お前わざとだろ」

 お約束は終わったので普通に持って手に乗せてあげた。コロボックルは溜息を吐いた。

「お前、顔に似合わず、やるな……名前を教えろ」

「私はニーモ、あなたは?」

「俺はコロモーション ウィズミーだ」

「コロモ……? ロコモーション*?……… 歌?」

「歌じゃない。フルネームは覚えなくていい。コロと呼べ」

「コロボックルのコロね」

「よし。ニーモ、ここを出てこの建物の横に行け」

「え、なんで?」

「少しお前を教育してもらう。ある人に来てもらう」



--------------------------------------

* "Loco-Motion" is a pop song

1962 by Little Eva, 1988 by Kylie Minogue, and more.

小人の名称を『コロ』に変更しました('24/3/18)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る