第7話 EP3(2) モーテルにて [巨体!]

 ウォードがキャスターがついたスーツケースを引っ張って、モーテルの入口を入った。コーヒーのいい香りが漂う。モーテルでも高級ホテルでも、一日の旅の終わりに宿泊施設のロビーに来るといつもほっとする。古今東西問わず宿は旅の疲れを物理的、精神的に癒してくれる場所なのだ。

 こじんまりとした受付には誰もいない。呼び出しベルを押すと、スタッフの控室からそわそわと受付係の女性が出てきた。


「いらっしゃいませ」

「あのー、予約していたウォードと言いますが、チェックインを……」


 受付の女性は手元のモニターでそそくさと予約を確認して言った。

「はい、ウォードさんね。三部屋で二泊ですね。支払いは事前に済んでいますね。じゃあ……」


 女性はテキパキとルーチンの作業を行った。


「部屋は奥の108号室から110号室です。そこを曲がって奥ね、はい、電子キー。無くさないようにお願いします」


 女性が指さした方から何か変な音がする。誰かが作業か何かしているのだろう。ウォードは音はひとまず気にせず、女性にさらに訊いた。


「食事はどこで取るのが良さそうですかね?」

「向かいのレストランバーがいいですよ。夜は十一時まで、朝は六時からやっています」

「やっぱりね。どうもありがとう」


 そんなお決まりのやり取りをしている内にザックとニーモもやってきた。受付の女性が上着を着ながら声を掛けてきた。残念ながらコーヒーの香りはどこかに去っていった。例の音はまだしている。誰かが通路に居る様だ。


「あなた達が今日最後のお客様になります。私はここを出ますので何かありましたらここに記載されている連絡先に連絡ください。ではおくつろぎください」


女性は急ぎ足でモーテルを出て行った。フロントのテーブルに貼られた紙に緊急連絡先の電話番号が書かれている。こういう宿泊先もよくある。夜間はスタッフが不在になるのだ。ザックがウォードに言った。


「クレアと連絡とったんだけど、三十分か四十分くらいで来るってさ。夕食を一緒に食べようって」

「了解。じゃあ、まずは部屋に行きますか?」


 ウォードは電子キーをトランプのように六枚広げてザックとニーモに見せた。マメを抱いているニーモは今は十七歳程度のサイズに体を変化させている。ニーモが質問。


「それキー? そんなに部屋があるの?」

「一部屋に二枚さ。三部屋しか借りていないよ」

「なんだ、そう言う事か」


 ウォードが奥の方にスーツケースを持って歩いて行く。曲がり角があり、そこを左に曲がると客室が続いているはずなのだが、何か大きなものが通路を塞いでいる。


(何だ? あれは)


 ウォードはあやうく口に出しそうになったが、ぎりぎりで留まった。それは人間だった。とても体が大きな男の人。おそらく体重は二百キログラムをゆうに超えているだろう。車いすにのったその男性はその巨体を持て余し、通路を通って自分の部屋に行くのに四苦八苦しているのだった。ザックは目が点になり、ミーモは大きく開けた口に手をやった。男性のお腹あたりは直径が一メートル以上あるだろう。通路の先は彼の体で見えない。車いすも通常のものよりかなり幅が広い。特注だろう。その車輪が通路の壁やら何やらに引っかかって、進むことができなくなったようだ。

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