第4話 EP2 ウィズモア飛行場 (2/3)

「チチ、チチチ」


 小鳥が数羽さえずっている。ニーモは近くで餌を探している小鳥を見ていた。箱のスイッチは切っている。


 顔を上げて遠くを見た。アスファルトとその奥の緑が果てしなく続いていた。


(広いところだなあー)


 青空に雲がゆっくり流れる。

 鳥の声と微風が気持ちいい。

 遠くでウォード達が草刈り機を動かしている音が聞こえる。

 

 しばらく空を見ていると空を浮遊する巨大な人工えいがやってきた。バトイディア(通称レイ)と呼ばれるこの世界の飛行船だ。輸送の用途に使われることが多い。


(あれに乗りたい。いや前に乗ったかも?)


 バトイディアはゆっくりと上空を通過し、北の方に去って行った。


(ここはいい場所だ)


 一つの雲がふざけているザックに見えた。ニーモはザックの事を考えた。

(ザックって、昔から知っているような気がする。こんなところで一緒に遊んだような……)


 ニーモの子供の頃の記憶はおぼろげだ。うとうとしてきた。


「ワン、ワン」


 遠くで子犬が吠えている声が聞こえてきた。

 ニーモの目がゆっくり開く


「ワン、ワン」


 なおも吠え声が聞こえる。子犬のようだ。気になる。ニーモはゆっくり立ちあがって、声がする方を見た。草が動いている。あの辺にいる。

 十歳の体のニーモはゆっくり近づいて行った。


「いた! 可愛い!」


 茶色のぶちの可愛い犬。生後3カ月と言ったところか。首輪は無い。へびとにらめっこの最中。


(迷子かな? どうしたんだろう)


 しっぽの振り方が尋常じゃない。興奮しているんだね、きっと。子犬はニーモに気が付くと、今度はニーモにじゃれてきた。人懐っこい犬だ。


 ニーモはしばらくその犬と遊んだ。久しぶりにとても楽しかった。生まれてから一番楽しいかもしれない。名前をつけてあげた。小さいから『マメ』(豆)だ。


「マメ! おいで」


 ニーモが呼ぶと子犬はしっぽを目いっぱい振って走って来る。ニーモはマメと一緒に広い飛行場内を自由に走り回った。しばらくしてからニーモはふと気が付いた。


「ここはどこだろう?」

「ニーモ!」


 かすかに自分を呼ぶ声がした。女性の声だ。辺りを見回すが誰もいない。


「ニーモ!」


 もう一度聞こえたが、たぶん気のせいだ。気を取り直してマメを抱き上げた。


 ニーモは子犬と遊んでいる内に、いつのまにか離れた場所に移動してしまったことに気が付かなかった。しかも、やはり箱のスイッチを切っているので、なぜここにいるかさえも明確にわからなくなっていた。


「たしか、ウォードとザックが待っててって言っていたけど……」


 ニーモはマメを抱いてとぼとぼ歩き始めた。小鳥のさえずりも雲の流れも何も変わっていない。ニーモの感覚だけが変わってきた。少し現実感が戻ってきたのだ。


 しかし不思議と不安は無かった。いざとなれば箱のスイッチを入れて大人になればいい。未知の場所をニーモは楽しんで歩くことにした。


「ザックに何かあったら連絡してって言われたけど、操作がよくわからないし、まだ時間はたっぷりあるしいいや」


 単なる飛行場、でもニーモにとっては未知の場所。ニーモは小さな冒険者となっていた。


 少し歩き疲れて芝生の上にあおむけに寝た。マメもそばで休んでいる。青空を見つめる。雲が流れている。


「やっぱり気持ちいいや」


 また、空をバトイディアが通過していった。


「結構、たくさん通るなあ」

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