姫の護衛①

 「あの、ユリアンってそもそも何歳なんですか?」


 過去話を聞いてる内に、ユリアンが今何歳なのか、そして試験が何年前なのか気になった。


 「言ってなかったな、試験が14歳の時にあって5年前だから……今は19歳だな」

 「あーじゃあ年上ですね。俺と日和17歳なので」


 今回で初めて、ユリアンの年齢が19歳だとわかった。

 ユリアンはこちらを見ながら、くすくすと笑う。


 「すまない、ちょっとおかしくて」

 「おかしい?」

 「あぁ、姫様と同じ年齢・・・・・・・なんだなと思ったら」

 「え、姫様って私達と同い年なんですか?」


 唐突に知った姫様の年齢、同じ年齢で姫を務めてるって、どんな人なんだ?


 「…さて、話の続きだが」


 私は国王様に呼ばれた後、エレーナ姫に告げられた。


 「あなた、私の護衛をしてみませんか?」

 「えっ、私がですか!?」


 いきなり護衛の話をされて、流石に驚いた。


 「しかし私は試験を…」


 入団試験、最後の最後で私は負けた。

 残り一人という枠を勝ち取れず、私は試験に落ちたんだ。

 そんな私がいきなり護衛をするなど、姫様は何を考えているのだろうか……。


 「それに他の参加者達や、合格した者達に示しが……」


 試験には、私の顔を覚えている者達が多くいるだろう。

 今ここで護衛を引き受ければ、姫様の評判を下げかねない、姫様に申し訳ないが、ここは断ろう。


 「すいませんが、私は──」


 護衛の話を断ろうとした。

 その時、後ろから大声を上げながら近づいてくる男がいた。


 「国王様、これはどういうことですか!?」


 気になって後ろを振り返ると、男は見覚えのある顔をしていた。


 (あいつは…)


 控え室の前で、少女を怒鳴り込んでいた男がこちらに近づいていた。

 男は国王様の前まで行くと、一枚の封筒を床に勢いよく叩きつけた。


 「『今回限りでエレーナの護衛を解任する』など、納得できません!!」

 「書かれている内容通りだ。貴様には娘の護衛を辞めてもらう」

 「し、しかし…」


 男は納得していないのか、拳を握りしめていた。


 「私はこれまで、一生懸命任務を遂行してきました。護衛を任され5年、私は姫様を妹のように思い、ずっとおそばでお守りしてきました。それをなぜ今更!!」

 「……」


 国王様はふところから、数枚の紙を取り出し、床にばら撒いた。

 気になって一枚手に取ってみると、紙には"報告書"と書かれていた。


 「うわっ…」


 報告書を読んで、その内容に・・・・・ドン引きした・・・・・・

 そして国王様は、鋭い目で男を睨みつけていた。


 「この報告書には、貴様が娘の風呂を覗き込んだ・・・・・と書かれているが?」

 「そ、それは…」

 「その上、他にも・・・していたようだな?」


 国王様は床に散らばった紙を全て手に取り、一枚一枚内容を読み始めた。


 「『体をべたべたと触った』、『着替えを覗き込んだ』、『寝ている間にキスをしていた』など、とても"妹に対する対応"とは思えんな?」

 「うわぁ…」


 思わず口から声が漏れた。

 私は軽蔑の目で見つめながら、少し男から離れた。そして少し寒気を感じた。

 てか普通にドン引きした。

 シンプルにキモい、気持ち悪くて近づきたくないと思った。

 国王様はなおも男を睨んでおり、そして蔑んでいた。


 「貴様もしや、娘に惚れいた・・・・・・・のではないか・・・・・・?」

 「うっ…」


 図星を突かれたのか、男は汗をかき、少し焦っていた。


 「ち、違うっ!!その報告書はデタラメだ!!」


 男は強く否定した。


 「私はそんなことをしていない!!本当です!!」

 「……」


 国王様は最後に、私の持っていた報告書を手にし、書かれていた内容を読みながら、再度男を睨みつけた。


 「この報告書には、貴様が娘の『下着を盗んだ』と書かれている」

 「そ、それもデタラメだ!!」

 「であれば!!貴様の部屋・・・・・を調べても、何も無いな?」

 「は?何を言って──」

 「国王様!!」


 男が固まっていると、後ろから鎧を着た兵士が走ってやってきた。


 「メイドの者達に、この男の部屋を調べさせましたところ、大量の下着・・・・・が見つかりました!!おそらくは姫様の物かと思われます!!」

 「なっ…」


 男は兵士を見ながら固まっていた。

 どうやら本当に下着を盗んでいたらしい……。


 「……きもっ」


 男を見ながら、私はボソッと呟いた。

 こいつマジでキモい、女の敵、最低、つか◯ね。


 「ふ、ふはははは!!」


 男は突然笑い出し、懐から剣を取り出した・・・・・・・


 「こうなったら、こうなったら…!!」


 男は剣を振りかざしながら、勢いよく姫様に・・・向かっていった・・・・・・・


 「"私の物"にならないなら、このまま死ね!!」

 「っ、危ない!!」


 私は咄嗟に男の腕を掴み、そのまま後ろに思いっきり投げた。


 「うわああああああ!!??」


 男は悲鳴を上げ、地面に勢いよくぶつかった。

 すぐさま馬乗りになり、そのまま男を羽交締めにした。


 「姫様に…近づくなっ!!」


 そう言って、しっかりと両手両足で拘束し、動けないようにした。


 「いででででででで!!!!」


 男は何度も床を手で叩いていた。


 「ちょっ、ギブ、ギブギブ!!」

 「……」

 「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」


 私は更に力を強め、そのまま大きい声で男を怒鳴った。


 「なら二度と姫様に近づくなっ!!私が姫様の護衛・・・・・である限り……これ以上好き勝手出来ると思うなっ!!わかったか!!」

 「はっ、護衛…!?」


 男は目を丸めてこちらを見ていた。

 つい護衛と名乗ってしまったが、この場合は仕方ない、今は姫様からこの男を離れさせた方が良い。


 「……」


 何か姫様がキラキラした目でこちらを見ている。


 「…とにかく、二度と姫様に近づくな。わかったか?」


 私はそのまま男を睨みつける。

 男は観念したのか、両手を上に上げるように動かしていた。


 「わかった俺が悪かった!!もう姫に近づかないし何もしない、だから離してくれ!!」

 「……」


 その言葉を信じ、私は男から離れた。

 そして国王様が男に近づき、近くの兵士に視線を向けた。


 「…連れて行け」


 国王様の命令で、兵士は男の腕を掴み、そのまま連れて行った。

 男は反撃することなく、そのまま連れて行かれた。


 「はぁ…」


 私は腰が抜けて、床に尻餅を付いた。

 そんな私の元に、姫様は手を差し伸べる。


 「助けてくれてありがとう。私の護衛さん・・・・・・

 「……」


 姫様は笑っていた。

 私が自ら護衛を名乗ったからだろう、とても嬉しそうだ。

 私はしばらく考え、姫様の手を取った。


 「よろしくお願いします。姫様…」


 私の手を強く引っ張り、起き上げた後、私をまっすぐ見つめ、笑顔で語りかけた。


 「"エレーナ"ですよ、ユリアン」

 「……」


 私は勇気を振り絞って、エレーナの・・・・・名を呼んだ・・・・・


 「え、エレーナ…」

 「っっっ!!!!」


 名前を呼ばれた彼女は、私に向かって強く抱きついてきた。


 「これからよろしく、ユリアン!!」


 そして…私の名前を呼ぶ、国王様の方を見ると、何やらニヤニヤしていた。


 (あー、結局護衛引き受けてしまった……)


 これで良かったのか、はたまた良くなかったのか、私にはわからない、とりあえず頑張って護衛を続けよう。

 そう思えた。

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