闘技場にいた少女
城の闘技場にて、試験官の声が響いた。
「これより、入団試験を始める!!」
「いよいよか…」
騎士団への入団希望者は、ざっと数えて50人くらいいた。
それぞれが試験官の指示に従い行動を始める。
試験内容はとてもシンプルで、参加者による一対一の対決で決められる。
そして最後まで勝ち残った計10名が合格者となり、騎士団への入団が認められる仕組みになっている。
「次、ユリアン・アリアレス!!」
「はいっ!」
ユリアンは順調に勝ち進み、勝敗を重ねた。
そして参加者が残り11名となり、ユリアンは試験最後の戦いに備えるため、闘技場の控え室で休憩していた。
「これに勝てば、入団確定か……」
今まで以上に緊張感に襲われた。
勝てば入団、負ければ敗退、気合を入れて剣を磨き、呼吸を整える。
「…きゃっ!!」
廊下の方で叫び声が聞こえた。
気になって控え室のドアを開け、廊下を確認すると、目の前で怯えながらしゃがみ込んでいる少女がいた。
「君は…?」
思わず声をかけた。
少女は怯えながらこちらを振り向いた。
「あ…と……」
少女は未だ震えていた。
私はどうにかして、目の前の少女を落ち着かせようとし、何か話題を振ることにした。
少女の前でしゃがみ込み、同じ目線で話をした。
「えっと…そのドレス綺麗だな。どこの店のやつだ?」
私はまず、少女の服装に注目した。
これは…チュールワンピースだろうか?白くて鮮やかだ。
そう思っていると、少女は口を開いてくれた。
「えっと…ヘルメル通りの店で……」
「そうか、あそこはいろんな店があるからな。私もよく買い物とかで出かけることがあるよ」
「……」
目の前の少女が落ち着くように、私は優しく声を
「……」
少女はしばらく何も喋らなかった。
(もっと話題を振ってみるか…?)
私は更に話題を振ることにした。
(そう言えば、綺麗な髪色だな)
少女の髪色は銀色に輝いて綺麗だった。
私は思わず綺麗な髪を見つめていた。
「綺麗だ…」
「っ…」
思わずそう口にしていた。
すぐに「はっ」とし、慌てて声をかけた。
「いや綺麗な髪だと思って……」
「……」
しばらく少女はこちらを向いていた。
(これは警戒されたか?)
一瞬だけそう思った。
しかし少女の反応は、意外にもシンプルなものだった。
「えっと、髪は使用人が洗ってくれて……」
少女は少し怯えつつも、こちらの目を見て話してくれた。
「いつも使用人が髪をとかしてくれて、手入れとかいろいろ…」
「使用人が?君は──」
少女と更に話をしようとした瞬間、こちらに近づいてくる兵士を見つけた。
「エレーナ姫っ!!、またこんな所にいたのですか!?」
「あっ…」
兵士は少女に近づき、大きな声で怒鳴りかけた。
「いつも勝手に出歩くなと言ってるはずです!!何かあったら自分が国王様に怒られるんですっ!!少しは自覚を持って行動してください!!」
「ひっ…」
少女は怯えていた。
目の前の兵士はおそらく、少女を護衛をしてる人だろうか?
少女を凄い目で睨んでいた。
「ほら、早く戻りますよ!!」
そう言って、少女の手首を強引に掴んで引っ張ろうとする。
「まてっ!!」
私は思わず、その兵士に木剣を向けていた。
「なっ、何をする!?」
兵士は驚いて固まっていた。
私はすぐに少女の方を見て、優しく声をかけた。
「すぐ終わるから、待っててくれ」
そう言って、少女の手首を掴んでいる手に思いっきり木剣を振り下ろした。
「いっでぇ!!」
木剣が兵士の手に思いっきり当たった。
そしてすぐさま少女の手を握り、自分の後ろに隠れるように引っ張った。
「き、貴様何をする!!」
「いくら何でもやりすぎだ。それに怒鳴る必要はあったのか?」
「な、何だと?」
まだこちらを睨んでいたため、私も強く睨み返した。
「何ださっきの態度は!!貴様は国を守る兵士だろ!!子供に向かって怒鳴ったり手首を無理矢理掴んだり……恥ずかしくないのかっ!!」
「うぐっ、それは…」
言葉に圧倒されたのか、目の前の兵士は黙ってしまった。
「そもそも、この子がここにいるのは貴様の管理不足だろうが!!まともに護衛すら出来ないのに偉そうにするな!!」
「うっ…」
図星を突かれたような顔だ。
この兵士と少女がどんな関係なのかは知らない、しかし
私は足で強く地面を踏み、怒鳴るように声を荒げた。
「謝罪」
「えっ…」
「この子に謝罪しろと言っている!!」
「っ…も、申し訳ありません!!」
「違う土下座でだ!!乱暴な行為をしたことを含めこの子に謝れ!!」
「うぐ……乱暴な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした!!」
兵士はその場で土下座していた。
気になって少女の方を見ると、呆然として固まっていた。
「もしまた乱暴な真似をこの子にしてみろ、本気で叩き切ってやる」
そう言って、未だ土下座している兵士を睨んだ。
「わ、わかりました……」
目の前の兵士からは、先ほどの態度が感じられなかった。
私は少女を目の前に出し、そのまま話しかけた。
「急に割り込んですまなかったな、後は好きにしてくれ」
冷静になって考えると、少しやり過ぎな気がした。
本当にこうすべきだったのか、後になって考えた。
そんな私を、少女はずっと見つめていた。
「ぜ…」
「?」
「絶対、合格してね」
「っ……」
少女の言葉で、少しだけ救われた。
私は少女の頭を撫でながら、その場で誓った。
「あぁ、必ず入団試験を突破してみせるっ!!」
「……」
少女は兵士の手を掴みながら、こちらに手を振った。
「またね…」
未だ元気の無い兵士を引っ張る形で、少女はその場を去って行った。
その瞬間、鐘の音が聞こえてきた。
「やばっ、早く行かないと!!」
私は急いで支度をし、そのまま闘技場に向かった。
(しかし、あの子は何者だったのだろうか……)
そんな疑問を抱えたまま、私は走り出した。
まぁ──結果は惨敗で失格、入団することも出来なかった。
そして10名の参加者がいる入団式に出席した後、いざ帰ろうとしたところで、近くの兵士に呼び止められた。
「失礼、ユリアン・アリアレス様ですね、国王様がお呼びです」
「え…国王様が!?」
いきなり呼ばれたことに驚きつつ、私は国王様がいるであろう場所に向かった。
そして祭壇らしき場所に着くと、目の前には王冠を被りながら立っている人物がいた。
私は咄嗟に跪き、そのまま頭を下げた。
「お初にお目にかかり光栄です、国王様」
無礼の無いよう、慎重に言葉を選んだ。
「いや、
「そ、そんなことは…」
「さて、お主を呼び出した理由だが──」
そう言って、後ろに隠れていた少女が目の前に現れた。
「あっ、君は…」
私はその少女を見て驚いた。
いや
その少女の正体に──。
「紹介しよう、
(っ、やっぱりそうか!!)
目の前にいる少女の名は、エレーナ・レグナント、王様の実の娘で、
「気軽にエレーナと呼んで下さい、ユリアンさん」
闘技場で怯えていた姿と違い、目の前の少女は凛々しく、そして逞しく、そして何より、私はその姿を──美しいと思った。
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