幸せの時間

 「この匂いは…」


 とある森の中、ある者が"匂い"を感じて、そのまま歩き出す。


 「早く、早く食わねば……」


 その言葉を残して、その者は匂いの方へ向かった。


 「ジ──」


 俺がお粥を食べていると、何故か日和はこちらをジッと近くで見つめてくる。

 

 「あのさ、食べずらいんだけど……」

 「……」

 「ねぇ、聞いてる?」


 彼女は全く返事をせず、俺が食べ終わるまでずっと見続けていた。


 「ご馳走様」


 食べ終わり、食器を机の上に置く。


 「美味しかった?」


 隣にいた彼女がようやく口を開いた。

 少し恥ずかしかったが、俺は素直な感想を言った。


 「まぁ……美味しかったけど」


 頬を指で掻きながら、彼女の方を見る。

 彼女は俺の感想を聞いて、少し安堵していた。


 「良かった。不味かったらどうしようとか思ってたから……」

 「いや、君の料理なら不味くても食ったけど」

 「ッ!!」

 (……あれ?)


 彼女の反応がおかしい、もしかして言葉を間違えたか?

 そう思っていると、彼女は少し頬を赤くしニヤついていた。


 「わ、私の料理なら…か……」

 「うん、そう言ったよ?」

 「……」


 彼女は背を向け、チラッとこちらを見ながら話しかける。


 「じゃあ今度…また作って良い?」

 「…良いの?」

 「う、うん…」

 「……」


 正直言うと、作ってもらえるのは嬉しい、しかし何もしないのは申し訳なく思えたため、俺は彼女にある提案することにした。


 「ならさ、俺に何か手伝えさせてよ。もしくはお礼?として何かやるけど──」


 そう言うと、彼女はくるっとこちらを向き、顔をグッと近づけた。


 「お礼なら、明日一緒に買い物行かない?まだこの世界のこと詳しくないから」

 「買い物?良いよ」


 俺は即座に答えた。

 俺の返事で、彼女は笑顔になった。


 「ありがとう、私そろそろ寝るね」

 「え、おやすみ」

 「……」

 「…?」


 彼女はジッとこちらを見つめていた。

 疑問に思い、俺は彼女に問いかける。


 「どうかした?」

 「……ん」


 彼女は両手を大きく広げ、何かを待っていた。


 「えっと…」

 「んっ!」

 「……」


 俺は知っていた。

 彼女が"何を待っているのか"、しかし自分からやるのは…なんか、恥ずい……。


 「……」


 俺はゆっくりと両手を彼女の背中に回し、そのまま優しく抱きしめた。


 「…ふふっ」


 彼女は笑っていた。

 顔は見えないが、おそらく幸福感…?を感じてると思う。

 何となくだけど、彼女が今どんな気持ちなのかわかった気がした。


 「……」


 そろそろ辞めようと思い、彼女から離れようとしたが、彼女の方はなかなか両手を離してくれなかった。


 「ねぇ、寝ないの?」

 「……」

 「…ん?」


 よく耳を覚ましてみると、彼女から吐息が聞こえてきた。


 「もしかして、寝てる?」


 気になって、彼女の顔を横から確認した。

 ──抱きしめたまま目を瞑っていた。


 (いや、普通この状態で寝る?)

 「スゥー…スゥー……」


 彼女は寝息を立てていた。

 仕方がないため、彼女を抱えて二階に上がる。


 「…何だろう、少し重い」

 「……」

 「…痛いっ」


 突然耳を噛まれた。

 部屋に入り、ベットに彼女を運ぶ、が──。


 「ぜ、全然腕が離れない…」


 何故だか彼女の腕が、俺の体から離れてくれなかった。


 (絶対起きてるよね…?)


 そう思いつつ、俺は彼女を抱えたまま、一緒にベットに入った。

 約束が全然違う。

 起きた後と寝る前に抱きしめる約束だったが、結局ベットでも抱きしめてる。

 いや寝る前だから良いのか…?


 (俺、眠くないんだけどな……)


 朝から気絶していたため、全く眠くない、仕方がないため彼女の顔を観察することにした。

 ちなみに抱きしめられた状態で寝ているため、いつ離れてくれるのかわからない、なので彼女が満足するまで、多分このままだと思う。


 (幸せそうな顔してるなぁ──…)


 そう思い、彼女の顔を見つめる。


 「暖かい…」


 彼女に抱きしめられると、いつも感じていた。

 暖かさと柔──……優しさを、時々思っていたけど、"俺は彼女が好きなのか"?

 そこがよくわからない、わからないから時々自分で良いのか悩んでる。


 「俺、幸せにできるかな……」


 彼女を抱きしめながら、ボソッと小声で呟く。


 「…できるよ。絶対」


 彼女から声が聞こえてきた。

 やっぱり起きてた。


 「やっぱ起きてたか……」


 彼女の顔を見ると、目を開けてこちらを見ていた。

 こちらを見ながら、彼女は微笑んでいた。


 「ごめん、もっと春兎くんと一緒にいたくて……迷惑だった?」

 「…ん──」


 迷惑、ではなかった。

 むしろ嬉しいと言うか、何と言いますか、とにかく彼女と一緒にいると、いつも落ち着く、そう思っているのは間違いではなく、俺の本心だ。


 「迷惑じゃないよ。むしろ嬉しいくらいで……」

 「じゃあ、もう少しだけ」


 そう言って、彼女の腕が強くなった。


 「…さっき、幸せにできるか悩んでたけど……」

 「ん?」

 「私から、言わせてもらうね……ちゅっ」


 そう言って、彼女は一度キスをした。

 そして顔を離し、こちらを見つめる。


 「幸せだよ。私は──君といると、いつも幸せを感じてるの、だから──」

 「……」

 「だから、私も君を……幸せにする・・・・・

 「ッ!」


 彼女から、"幸せにする"と言われた。


 「きっと、ユリアンさんも、同じ…気持ち……」

 「…?、日和?」

 「……」


 返事が無いため、彼女の顔を見てみると、寝息を立てながら寝ていた。


 (今度こそ、寝た…?)


 そう思い、ゆっくりと彼女から離れる。


 「……」


 どうやら今度こそ寝たらしい、俺は静かに扉を開け、そのまま一階へと降りて行った。


 「さて、どうするかな……」


 まだ寝る気にはなれない、そこで俺は外に出ることにした。

 玄関のドアを開け、外に出ると、丁度ユリアンが外で稽古していた。


 「あれ?ユリアンさん寝ないんですか?」


 俺の言葉を聞いて、彼女はこちらを向いた。


 「あっ、ハルト……」


 彼女は稽古を止めて、こちらに近づいてきた。


 「ヒヨリは?」

 「日和は寝ましたよ」

 「そうか…」

 「……」


 どうしよう、特に話題が思いつかない、そう思っていると、彼女は俺に持っていた木刀を渡してきた。


 「え、なに──」


 いきなり木刀を渡され、その場で固まっていた時だった。


 「んっ」

 「ッ!?」


 なんと、突然彼女からキスされた。


 「え、え!?何で!?」


 日和はともかく、彼女にまでキスされるとは思っていなかった。

 俺が困惑してるのを楽しんでるのか、あるいは面白がっているとか、彼女は少し笑っていた。


 「どうした?」

 「いやどうし…え?」


 なにが何だか未だにわかっていない俺を、彼女はずっと見ていた。


 「私は寝る、君は一人で練習したらどうだ?」

 「いや、どうだって言われても……」

 「…じゃあな」


 そう言って、彼女は家の中に入って行った。


 「えぇ──」


 彼女の考えてることが、俺にはわからない、唯一わかるのは、"何かが吹っ切れた"とだけ、でも何なのかは、流石にわからなかった。

 俺は木刀を手に、とりあえずその場で振っていた。


 「はっ!やっ!!」


 その場で何となく振り回す、何回か振り回していると、流石に疲れた。


 「はぁ…何してんだろ」


 星空を見ながら、暗い中木刀を振り回している。

 この時間は何だ?と考えつつ、俺は木刀を手に玄関へ向かう。


 「家に入るか……」


 そう思い、扉に手をかける。


 『ガサガサ』


 すると近くの草むらから、何かが動いてる音が聞こえてきた。


 「え、何だ?」


 恐る恐る音のする方に近づき、静かに身を潜める。


 『ガサガサ』


 音は未だに聞こえてくる。


 「ゴク…」


 俺は唾を飲み、その場で木刀を構える。

 音はゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 そして──草むらから謎の影が現れた。


 「…ん?ここか──」

 「やああああ!!」


 思わず影に向けて木刀を振り下ろした。

 木刀が強く当たって、影は悲鳴を上げた。


 「ぎゃああああああ!!!!」


 急所に当たったのか、影はその場で倒れた。


 「はぁ…はぁ……」


 影を倒し、俺はそっと近づく、そして暗闇に目が慣れたのか、だんだんと影がハッキリ・・・・と見えるようになった。


 「…あれ、人?」


 倒れている"少女"を見て、俺は驚いた。


 「うぅ〜……」


 少女は気絶したまま、目を覚ます気配がなかった。

 いや、俺が驚いているのはそこじゃない・・・・・・、問題は少女の"見た目"である。


 「……ツノ?」


 少女の頭には、"二本のツノ"が生えていた。

 そのツノを見て、俺はあることを思い出した。


 「もしかして……魔族・・?」


 何となくだが、目の前の少女が魔族だと思った。


 「あれ、これヤバくない?」


 そう思い、冷や汗が出た。


 「……」


 俺はゆっくりと少女を抱え込み、そのまま家に入れることにした。


 (まぁ、放置は無理だよな。これ俺のせいだし……)


 少し罪悪感を感じながら、俺は少女を家に入れた。

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