ユリアンの答え

 「まさかあそこまでとは……」


 台所で、日和がお粥を作っていた。


 「……」


 彼女は無言で、先ほど・・・の出来事を思い出していた。


 (なんか、複雑な気持ち……)


 彼女はユリアンに言った。

 "ぶつかってこい"と、しかし……まさか二人がベットで、あんなこと・・・・・をしてるとは思っていなかった。


 (…別に、気にしてないけど……)


 彼女はそう自分に言い聞かせた。

 なぜなら、"応援したい気持ち"もあったからだ。

 彼女は二階の方を見上げ、ユリアンのことを考えていた。


 (ユリアンさん、上手く気持ち伝えられるかな)


 そう思い、彼女はお粥作りに戻った。

 一方その頃、二階の方では、ユリアンが春兎をベットに押し倒していた。


 「っ……うぅ…」


 彼女の涙は未だ止まっておらず、目の前で泣いている。


 (ユリアン…)


 なぜ彼女はみずから《スキル》を受けたのだろうか、なぜ目の前で泣いているのだろうか、そんなことを考えていると、彼女から思わぬ言葉・・・・・が聞こえてきた。


 「私は多分、君が好きだ・・・・・

 「え…?」


 春兎を見ながら、彼女は涙を指で拭い、そのまま少し体を起こした後、上から春兎を見上げていた。


 「でも、これが恋愛感情・・・・の"好き"なのか、私にはわからないんだ」

 「……」


 "好き"には、いろんな感情が存在する。

 "推し"に対する好き、"女友達"に対する好き、"ぬいぐるみ"に対する好き、飼っている"犬や猫"に対する好きなど、好きには……様々な感情・・・・・が存在する。

 そんな彼女に対し、彼は優しく声をかけた。


 「ユリアンは、どうしたい?」

 「──え…?」


 その言葉を聞いて、彼女は彼の顔を見ていた。

 彼は手を伸ばし、そのまま彼女の頭を優しく・・・撫でながら、彼女に向けて言葉を伝える。


 「君は……"今の感情"を消したい?」

 「……」


 彼の言葉を聞いて、彼女は首を横に張った。


 「わからない……消したい気持ちもあるが──それとは別に、消したくない・・・・・・自分もいるんだ」

 「それは、どうして?」

 「……安心する・・・・んだ。ハルト、君といると」

 「……安心する?」

 「……」


 俺の言葉で、彼女はコクンと頷き、彼の頬に手を添えた。


 「私は、ハルトに触れていたい・・・・・・。でも、それは出来ない」

 「…何で?」

 「だってハルトには、ヒヨリがいるだろ」


 そう言って、彼女は彼の上に倒れ、そのまま彼を抱きしめる形で横になった。


 「私は、二人が羨ましい……」

 「羨ましい?俺と日和さんが?」

 「…ああ」


 彼女は一度目を閉じ、そしてゆっくりと目を開けた。


 「君達は……まるで恋人のようで、互いを思い合い、互いを大事にしている……」

 「あっ、やっぱ恋人っぽく見えるんですね……」


 彼はその言葉を聞いて、少し頬が赤くなった。

 そんな彼を見ながら、彼女は少し笑っていた。


 「実はと言うと、少し憧れていたんだ。恋人のいる人生に……」


 彼女は目を閉じて、顔を近づけていた。


 「ちょっ、少し近すぎる気が……」


 彼女の行動に、彼は焦っていた。

 そんな彼を見ながら、彼女はもう一度笑った。


 「私の家は、代々人々を守るための家系でな、生まれた者は男でも女でも、必ず騎士にならなければならない」

 「そうなんですか?」

 「…あぁ」


 彼女は修行していた時のことを思い出していた。

 当時彼女は王国の騎士になるため、父親から修行を言い渡されていた。


 「良いかユリアンよ。我々の家系は人々を守るためだけに存在している」

 「わかっています。お父様」


 当時の彼女は12歳、日本で言えば小学6年生ぐらいの年頃である。

 当時のことを、彼女はこう語った。


 「私は別に、騎士になったことに後悔はしていない、でも──」


 彼女はある日、魔物から襲われている人々を助けたことがあった。

 助けた後、彼女は避難場所に人々を誘導し、避難所の入り口で警備をしていた。


 (今のところ、魔物の気配は無いな)


 そう思い、辺りを見渡した。

 そんな時、近くの草むらから少し音が聞こえてきた。


 (──ッ!魔物か…!?)


 そう思い、恐る恐る音のする方へ、一歩一歩足を進め、いざ草むらの影から、音のする方へ視線を向けた。

 向けた先では、二人の男女がいた。


 (何だ人か、全く……)


 そう思い、彼女は二人に声をかけようとした。

 次の瞬間、二人は唐突にキスをし始めた。


 (ッッッ!!??)


 思わず足を止め、そのままキスしてる二人をジッと見ていた。

 二人の会話が聞こえる。


 「ねぇ、私もう我慢出来ない……」

 「あぁ、俺もだハニーよ」

 (なっ…なっ……)


彼女は顔を真っ赤にしながら、急いでその場から走り去った。


 「……」


 あの二人がその後何をしたのか、彼女は知らない、少し走った後、彼女は近くの木に横たわり、そのまま腰を抜かしていた。

 自分の唇・・・・に、そっと指を近づけながら──。


 (あ、あの二人は……恋人なのだろうか……)


 彼女は動揺していた。

 今まで修行ばかりしていた彼女にとって、キスは刺激が強かった。

 それと同時に、少し憧れもあった・・・・・・・・


 (こ、恋人というのは……あんな風にキスをするのだな)


 彼女はキスをしていた二人を、鮮明に覚えていた。

 二人のキスは生々しく、下を入れ、そのまま性行為セックスをする勢いだった。

 そんな二人を思い出しながら、彼女は心の中で感じた。


 (私も、いつか出来るだろか……)


 そう思い、夜空を見上げていた。


 「おぉ、それはだいぶインパクト強いような……」

 「だな、今でも忘れられんよ。あの二人は」


 話をしていた彼女は笑っていた。

 笑いながら、春兎を見つめていた。


 「何だか、少し落ち着いた気がする」

 「え?そ…そうなんだ」

 「……」


 彼女は先ほどよりも落ち着いていた。

 落ち着いた様子で、彼に頼み込んだ。


 「なぁ、ハルトは……"私にキス"してくれるか?」

 「えっ、キス!?」


 彼女の言葉で、彼は凄く動揺していた。


 「頼む、ハルトにしか頼めないんだ」

 「いや、でも…」


 彼は少し考えていた。

 日和のこともあるため、彼女にキスすべきか、別に日和と付き合ってるわけでは無いが、罪悪感を感じる気がした。


 「…いやか?」

 「ん、ん──……」


 断るのも申し訳ない気がしてきた。

 そう思った彼は、彼女を励ますため、した方が良いのかもしれないと考えた。


 「じゃあ、一回だけ……」

 「…うん、頼む」

 「……」


 いざ彼女の頬に手を添え、そのまま顔を近づける。


 「……」


 彼女の顔を見ていると、日和とは異なる美人さんだった。

 肌がツヤツヤしてて、髪は金色に輝いていて、何より青く輝く瞳が美しく、まるで宝石のようだった。


 「…ふっ」


 彼がキスをする直前で、彼女は彼のおでこにデコピンをかました。


 「痛、え?」


 いきなりデコピンをされて、戸惑っている彼を見ながら、彼女は少し笑っていた。


 「冗談だ」


 そう言って立ち上がり、扉の方に向かう。


 「え、えぇ…?」


 未だ混乱している彼に対し、彼女はからかうように言ってきた。


 「全く、これじゃあヒヨリが悲しむかもな〜」

 「え?」

 「すぐ別の女性とキスをするんだ。最悪嫌われるかもな」

 「えぇ!?」

 「……ありがとう」


 彼女は彼の方に振り向き、お礼の言葉を述べた。


 「ハルトのおかげで少し落ち着いた。まぁ……キスしたかったのは本当かもな」


 そう言い残し、彼女は手を振りながら、部屋を出て行った。


 「……」


 彼は唖然としながら、ベットの上に倒れた。

 倒れながら、彼女のことを考えた。


 (まぁ、元気になったから良いか……)


 ベットに倒れたまま、彼は少し安心していた。


 「……」


 扉を背に、そのまま床に座る。

 そして唇に指を近づけながら、彼女は少し笑顔になる。


 (もう少しだけ、このままの距離感で……)


 そう思い、彼女は一階へと降りる。

 一階に降りると、日和がお粥を作ってる最中だった。


 「ヒヨリ、何か手伝うよ」

 「あれ、ユリアンさん…?」


 声を聞いて、日和が彼女の方を向いた。

 彼女を見ていると、何だが笑っているように感じた。

 そんな彼女に、日和は口を開いた。


 「…元気になって、良かったです」

 「ッ、そうだな……」

 「お皿、お願いできますか?」

 「…あぁ」


 日和に言われて、彼女は棚からお皿を取る。


 「日和、ありがとう」

 「えっ?」


 彼女がボソッと呟いたため、日和がこちらを向いた。


 「ユリアンさん、何か言って──」


 日和がこちらを向いた。

 その時ふと、日和の目線が、彼女の"首元"に向けられた。


 「…え!?」


 日和は動揺していた。

 彼女の首元には、ハード型のネックレスが付けられていた。

 日和の視線を感じて、彼女は淡々と説明をした。


 「あぁこれか?ハルトと奴隷契約した」

 「え?」

 「だから私も、君と一緒だな」

 「え……え!?」


 笑いながら話すため、日和は動揺を隠しきれていなかった。


 「ユリアンさん、それってどう言うこと──」

 「ちゅっ」


 日和が問い詰めようとした瞬間、彼女は日和の唇にキスをした。


 「ッッッ!!??」


 慌てて彼女から離れ、動揺したまま日和は彼女を見たが、彼女は少し笑っていた。


 「そうそう、二階でハルトにキスを迫られたぞ」

 「え!?春兎くんが!?」

 「あぁ、真っ直ぐ見つめてきて、私を抱きしめたんだ」

 「ちょっ、その話詳しく──」

 「ははっ、冗談だ」


 そう言って、彼女は皿の用意を始めてしまった。

 その姿を、日和は後ろから眺めるしかなかった。


 「えー…」


 日和は動揺したまま、しばらくそこに立ち尽くしていた。

 そんな姿をチラッと見ながら、彼女は心の中で笑顔になった。


 (今は、これで良い)


 そう自身の心に、誓ったのだった。

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