"二人目"の奴隷契約

 『グゥゥー……』

 「あっ」


 俺の腹が鳴った。


 「もしかして、お腹空いた?」

 「……」


 日和の言葉と腹の音で、俺は思い出した。

 朝から何も食べていない、そう思った後、俺はその場に座り込み、気弱そうな声で喋った。


 「腹減った……」


 そうボソッと口にし、そんな俺を見ながら、彼女は座り込み、俺と同じ姿勢になった。


 「私…何か作ろうか?」


 彼女の言葉で、俺は目を丸くした。


 「えっ、料理できるの?」


 彼女が料理できることに、俺は驚いた。

 俺の言葉で、彼女は少し笑顔になり、恥ずかしそうにしていた。


 「あんまり自信無いけど……お粥なら作れると思う」

 「……」

 「えっと、嫌かな…?」


 彼女は俺の反応を待っていた。

 正直に言えば、彼女の手料理を食べてみたい自分がいた。

 しかし反対に、自分が食べても良いのか、とも思う。

 俺はしばらく考え、その場で頷いた。


 「じゃあ、お願いします」


 俺は彼女に対し、深々と頭を下げた。

 俺の返事で、彼女は少し喜んでいた。


 「じゃあキッチンで作ってくるから、君はここで待ってて!!」


 彼女はすぐさま扉まで移動する。


 「…俺も何か手伝おうか?」


 俺は作ってもらう手前、流石に何もしないわけにはいかないと思い、彼女に声をかけた。

 彼女はくるっと一回転し、こちらに視線を向ける。


 「それはありがたいけど、君の驚いた顔見たいし、大丈夫だよ」

 「あっ…そう……」

 「…ふふっ」


 最後に少し笑った彼女は、部屋を出て一回のキッチンに向かった。


 「本当に良いのかな……」


 彼女に任せっきりで、何だか申し訳なく感じた。


 「やっぱり俺も──」

 「やめておけ」


 突然、後ろから声が聞こえた。


 「あっ、起きてたんですか」


 後ろを振り返ると、ユリアンがベットに座っていた。

 しかもいつの間にか服を着ている、いつ起きたんだろうか?

 そう思っていると、彼女は指でこっちにくるよう合図していた。


 「隣に来てくれ、ハルトと話がしたい」

 「え、でも……」


 俺はまた《スキル》が発動するのではないかと思い、少し警戒していた。

 俺の考えを読んでか、彼女はベットをトントンと叩いていた。


 「そう早く何度も《スキル》が発動するとは考えにくい、だから今のうちに話しておきたいのだ」

 「……」


 確かにそんなすぐ発動するとは思えない、ここは彼女に従った方が良さそうだ。


 「わかりました。隣失礼します」


 そう言って、俺は彼女の隣に座った。


 「──すまなかった」

 「…え?」


 俺が隣に座ると同時に、彼女は謝ってきた。


 「《スキル》の影響とは言え、君に迷惑をかけた。許してくれ……」

 「そ、それは……」


 下を向いて謝ってくる彼女に対し、俺は励ましの言葉をかけた。


 「ユリアンは悪くない、むしろ悪いのは……俺の方です」


 そう言って、俺は彼女に頭を下げた。


 「《スキル》がフェーズ2になっていながら、俺はそのことをすぐ知らせなかった」

 「…ハルト……」

 「迷惑かけて、ごめん」


 俺は誠心誠意せいしんせいい、彼女に謝罪した。

 そもそも彼女が謝る必要はどこにもない、俺を襲ったのはあくまでも、《スキル》がフェーズ2に移行したからだ。

 そこに関して、彼女が謝る必要性は無く、むしろ俺が謝る立場だ。


 「──なぁ、一つ確かめておきたいことがあるのだが、聞いて良いか?」

 「…?、確かめたいこと……?」


 何だろう、おそらく《スキル》と関係のあることだと思うし、とりあえず彼女の話を聞いてみよう、そう思った。


 「…フェーズ2の効果は、もしかして……君と奴隷契約を結べば・・・・・・・・防げるのか?」

 「え?まぁ多分……」


 確かフェーズ2の効果には、『契約者以外の女性だった場合』と書かれてあった。

 つまり俺と奴隷契約を結べば、その効果を防ぐ事ができる。

 しかし、これはオススメ出来ない、何故ならもう一つの効果、『強制的に子供を孕ませる』があるからだ。

 もし俺と奴隷契約すれば、性行為セックスで子供を強制的に産んでしまう。

 もちろん俺が性行為セックスしなければ良い話で、それに俺は日和と約束したんだ。 

 《スキル》を解除できたら、性行為セックスしようと、まぁ──毎日はやりすぎだと思うが、いつ解除方法が見つかるかわからないし、多分これで良かったのかもしれない、気がする……。


 「あの、どうしてそんなこと聞くんですか?」

 「……」


 俺の言葉で、彼女は黙ってしまった。

 しばらくして、彼女が口を開き、俺の顔を両手で覆い隠した。


 「すまない、目を閉じて・・・・・もらえないか?」

 「え、どうして──」

 「頼む、どうしても必要なことなんだ」


 彼女は真剣な表情で俺に頼み込んでいた。

 俺はそんな彼女に何も言えず、彼女の言う通りに目を閉じた。

 視界が暗闇に染まり、俺は彼女が何をするのか気になっていた。


 (いったい、何するんだ?)


 そう思っていると、彼女は俺の左腕を掴み、次の瞬間、左手に謎の感触がした。

 何かが左手に当たっているようだった。


 (なんか、むにゅって感触がするんだが……)


 やけに柔らかい物が左手に当たってる気がする。

 そんなことを考えていると、"突然頭の中"に謎のメッセージ・・・・・・・が聞こえてきた。


 『《スキル》発動を確認、これより相手との奴隷契約を結びます』

 「……は?」


 俺はゆっくりと目を開けた。


 「な、何してるの?」


 目の前で、ユリアンが俺の左手を胸に押し付けていた。


 「……ッ!」


 彼女の首元を見てみると、ハート型の・・・・・ネックレス・・・・・が出現した。


 「そ、そのネックレスは……」


 先ほどのメッセージ・・・・・、そして首元に出現したネックレス・・・・・、これは……日和と契約・・・・・を交わした・・・・・時と同じだった。

 そして日和の時と同じように、最後にメッセージが流れた。


 『契約完了、これにて《スキル》発動を終了します』


 これで、彼女との契約が完了した。


 「…ユリアン、どうして──」


 彼女が何を思ってこんなことをしたのか、俺にはわからなかった。

 彼女自身も知っていたはずだ。

 俺の《スキル》の"危険性"を、それなのに……何故彼女はこんなことを──。

 そう思っていると、ようやく彼女が喋ってくれた。


 「…教えてくれ、ハルト、私は──……、この気持ち・・・・・は、どうすれば消えてくれる…っ」

 「え…?」


 何故だろうか、彼女は泣いていた・・・・・

 そして泣きながら、俺をベットに押し倒した。


 「ゆ…ユリアン?」

 「うっ……っ…」


 俺は混乱したまま、泣いてる彼女の名を口にした。

 何故彼女は泣いているのだろうか、なぜ苦しそう・・・・なのだろうか、俺には全然わからなかった。

 わからない俺を他所に、彼女は"涙を流しながら"、話を続けた。


 「君とヒヨリを見ていると、何故か胸がギュッ・・・と締め付けられ、"苦しく"なるんだ」

 「……」

 「二人がキスをしていた時・・・・・・・・も、二人が抱きついて・・・・・いた時・・・も、ずっと胸が苦しいんだ」

 「……」

 「──だから、教えてくれ」


 彼女は泣きながら、俺の胸に顔を置き、服を両手で掴み、その場で叫んだ。


 「私は…私は……どうすれば良い!!この気持ちを──どうやって・・・・・消せば良いんだっ…!!」

 「…ユリアン」

 「…うっ……っ」


 その言葉を最後に、彼女はずっと、ずっと涙を流していた──。

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