約束

 「──つまり応急処置的な感じで、助けてただけなの、わかってくれた?」


 俺はこれまでの経緯を全て日和に話した。

 《スキル》がフェーズ2に移行したこと、ユリアンが突然襲ってきた理由、そして俺が勃起してた理由も細かく話した。

 話を聞いてる間、ずっと彼女は元気がなかった。


 「じゃあ…ユリアンさんのこと、どう思ってる?」

 「どう思ってるって……」


 俺はチラッとユリアンの方を見た。


 「……」


 彼女は気を失ったまま、ベットで寝ている。

 おそらくまだ目を覚さないだろうと思い、俺は日和に伝えた。


 「良い人だよ。だから──」


 俺とって、ユリアンも…日和も、"どっち"も大切な人だ。

 こんな俺を受け入れ、優しく接してくれた。

 俺は真剣な表情で、まっすぐ気持ちを伝えた。


 「ユリアンも日和も、どっちも絶対ぜったいに、俺が幸せにする・・・・・・・


 俺は彼女にきちんと伝えた。

 俺の言葉を聞いて、彼女は少し驚いていた。


 「どっちも、幸せに……」


 そう言って、彼女は下を向いてしまった。

 俺は恐る恐る、彼女に確認を取る。


 「えっと、それじゃダメかな?」

 「……うーん」


 彼女はしばらく考えたのち、こちらに顔を向けた。


 「じゃあ、"一つだけ"約束して」

 「…一つだけ?」

 「うん……」

 (一つだけなら、まぁ良いか……)


 そう思い、俺は彼女に返事を返した。


 「わかった。何を約束すればいいの?」

 「……」


 彼女は真剣な眼差しでこちらを見ていた。

 そして俺の頬に右手を当て、そして──。


 「んっ…」


 そして、ぎゅっと俺を抱きしめた。


 (──あれ?)


 てっきり俺は、彼女からキスを求められると思っていた。

 しばらく抱きしめた彼女は、ゆっくりと俺から体を離した。


 「起きた時と寝る前、どっちも一回・・・・・・で良いから……君を抱きしめたい」

 「……」

 「…良い?」

 「あ、うん……」


 俺はその約束を了解した。


 「……」


 しばらく俺は呆然と立っていた。


 (あれ、何で俺……"ガッカリ"してるんだ…?)


 俺は、自分が少し落ち込んでることに気づいた。

 彼女を見ながら考える。


 (もしかして俺、彼女とキス・・・・・したかったのか?)


 何故だか、そう思った。


 「やっぱり、キスの方が良かった?」

 「えっ」


 何で考えてることがわかったのか、俺が驚いていると、彼女の瞳から、黄色い星のマークが出現した。


 「あっ、その目は…」

 「うん、私の《スキル》だよ」


 しばらく忘れていた。

 彼女の持つ《スキル》【心眼しんがん】は、『真実を見抜き、相手の嘘や疑惑を暴くことができる力』、だから俺の考えてることがわかったのだろう、彼女も《スキル》持ちだったのを、俺はすっかり忘れていた。


 「ちゅっ」


 俺が落ち込んでいると知って、彼女は俺にキスをした。

 何度もしてるので、流石に慣れた。

 そんな俺を見て、彼女は顔を赤くしていた。


 「落ち込むなら、自分からキスしてよ。私ばっかり……恥ずかしいよ……」

 「……」

 「…んっ」


 そう言って目を瞑り、俺がキスしてくるのを待っていた。


 「…ちゅっ」


 俺は彼女の肩を両手で掴み、そこままゆっくりとキスをした。


 「んっ……ん…っ」


 何度も、何度も唇を重ね、そしてキリのいいところで、俺達はキスをめた。


 「えっと、これで良い?」


 俺は彼女に確認を求めた。

 彼女はそんな俺を見て、少し頬を赤くしていた。


 「…うん、ありがとう……」


 そのまま指で唇を触りながら、彼女は少し笑っていた。


 「ねぇ、性行為セックスは──」

 「……」

 「ダメ…だよね。ごめん……」


 俺の反応で、彼女は下を向き、少し落ち込んでしまった。


 「……」


 彼女を喜ばせるなら、きっと性行為セックスをした方が良いのだろう。

 でもそれはできない、今彼女と性行為セックスしてしまえば、フェーズ2の影響で、彼女は"たったの一回"で、子供をお腹に宿してしまう・・・・・・

 「じゃあゴムありは?」とも思ったが、フェーズ2の《スキル》が、ゴムで防げるとは思えない、と言うかゴムが破ける可能性もある。

 だから俺は、彼女と性行為セックスすることはできない、でも……"気持ちを伝える"ことは出来るはずだ。


 「もし、もし《スキル》の解除方法がわかったら……」


 そう言って、俺は彼女の手を握った。


 「その時は、ちゃんと君と性行為セックスしたい」

 「──ッ」


 俺の言葉で、彼女は少し上を向いて、俺を見てくれた。


 「君が満足するまで、性行為セックスすると約束する。だから──」

 「ちゅっ」


 言い終わる前に、彼女がキスをした。

 そして俺から顔を少し離すと、何だか恥ずかしがっていた。

 でも内心は嬉しかったのか、少し口元がニヤけていた。


 「…ねぇ、満足するまで……してくれるんだよね?」

 「え?うん…」

 「じゃ、じゃあさ……」


 彼女はモジモジしていた。

 モジモジしながら、俺に言った。


 「その…"毎日"しても、良いよね?」

 「え、毎日?」

 「す、《スキル》を解除できた後、できれば…その、毎日……性行為セックス、したい……」

 「……」


 彼女は死にそうなくらい、顔を真っ赤にしていた。

 まさか毎日したいって言ってくるとは思わなかった。確かに俺は、"満足するまで"と言ったけど、毎日か……。


 「まぁ、良いけど……」

 「──ッ、ほ、本当に?」


 俺の言葉が信じられないのか、彼女は何度も確認してきた。


 「本当に、毎日私としてくれる?」

 「す、するって……」

 「毎日だよ?本当に良いの?」

 「ちょっ、グイグイすぎじゃない?」


 まさかここまで食いついてくるなんて、思っていなかった。

 彼女の目がいつもより輝いて見え、俺はしどろもどろになりながら、反応に困っていた。


 「…と、とにかく約束する。だからこれ以上聞いてこないで!!」


 そう言って、俺は後ろを向いてしまった。

 流石にこれ以上言うのは恥ずかしかった。


 「……」


 彼女はそんな俺を、後ろから抱きしめてきた。


 「うん、約束ね」

 「……」


 彼女の声は、少し高くなっていた気がする。

 よっぽど嬉しかったのだろう、しばらくそのまま、抱きしめるのをめなかった。


 (うーむ、どうしよう……)


 一方、ユリアンはとっくに目を覚まし、寝たフリを続けていた。


 (起きるタイミング、完全に間違えたかもしれない……)


 二人が突然イチャイチャしたため、彼女はどこで声をかけて良いのか判断に迷っていた。


 (……)


 二人の会話を、ユリアンは思い出していた。


 (《スキル》が無ければ、二人はここで性行為セックスしたのだろうか……)


 おそらく雰囲気的に、二人はそういう気分なのだろう、声からそれを察することができた。


 (…ギュッ)


 何故だか、胸が締め付けられる感じがした。

 彼女は自分の両手を、ずっと心臓のある位置に置いていた。


 (やっぱり・・・・、私は……)


 彼女自身もわかっていた・・・・・・。これが"どんな感情"なのか、不安、そして苦しみ、彼女は自らに問いかけた。


 (私は、ハルトのことが・・・・・・・──)


 彼女にとって、春兎はどんな存在なのだろう。

 それを彼女が知るのは、もうすぐである・・・・・・・──。

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