新転山

 「ユリアンはちゃんと見張り役しとるかのぉ…」


 王室で、王様はユリアンのことを考えていた。


 「まぁ、心配ないと思うが──」

 「国王、大変です!!」


 王様の元に、突如兵士の一人が慌てて訪ねてきた。


 「どうした?転移者達に何かあったのか?」

 「そ、それが…」


 兵士はある情報を・・・・・、王様に伝えた。

 その情報を聞いて、王様はひどく焦った。


 「なんじゃと!?それは本当か!?」

 「はっ、先ほど、人族の領域・・・・・侵入してきた・・・・・・魔族が確認されました!!」

 「うーむ──…」


 王様は頭を抱えた。

 人族の領域に入ってきた魔族はおそらく──。


 「侵入してきた魔族は、魔王の手先・・・・・か?」


 王様は考えた。

 異世界から連れてきた転移者達の存在を、魔王に知ら・・れてしまった・・・・・・のではないかと─……。


 「それは、まだわかりません、しかし……侵入してきたのが魔族なのは確かなようです」

 「…ひとまず調査を続けよ。その魔族が何者なのか確かめるのじゃ」

 「はっ!!」


 兵士はすぐさま王室を離れて行った。

 兵士が行った後、王様は顔を青ざめた。


 「もし魔王の手先なら、大変なことが・・・・・・起こるかもしれない……」


 一方その頃、春兎はユリアンと話をしていた。


 「そうか、体調は大丈夫だったのか?」

 「まぁ、多分大丈夫だとは思いますけど……」


 俺はユリアンに、日和が倒れたことを伝え、その後あることを彼女に聞いていた。


 「しかし、元の世界に・・・・・帰る方法・・・・、か……」

 「はい、あるかどうかはわかりませんが、あるなら教えてほしいんです」


 俺がユリアンに聞いていたのは、"元の世界"に帰る方法だった。


 「一応、あるにはあるのだが──…」


 ユリアンは何やら困った顔をしていた。

 きっとかなり難しい方法なのだろう、しかし俺はなんとしてでも知りたかった。


 「お願いしますユリアンさん、帰る方法を教えてください」


 俺は真剣な表情で、ユリアンに訴えた。

 その訴えが通じたのか、ユリアンは観念して話してくれた。


 「わかった…ただしかなり危険な方法だ。できれば教えたくはない、それでも知りたいか?」


 ユリアンは俺に確認を取る。

 俺は彼女の意思を汲んだ上で、その場でコクンと頷いた。

 そんな俺に、彼女は意を決して答えた。


 「帰る方法、それは──」


 元の世界に帰る方法、それは危険で、かなり危ない方法だった。


 「魔族を束ねる魔王を、"新転山しんてんざん"に放り込むことだ」

 「しん、てんざん…?」


 新転山しんてんざん、通常"新しい転生"、または"転移を迎える"山脈、と呼ばれてる。


 「よく聞け、転移とは、膨大なエネルギーを使って行うものだ。そのエネルギーは無から生まれるものではない、人々が願う"祈りの力"を、新転山に送ることで一度だけ、転移または転生を可能にしている」

 「…じゃあ、俺達がこの世界に転移できたのは──」

 「……新転山に送るエネルギー、つまり平和を望む人々の力・・・・で、君達はこの世界に連れてこられたんだ」

 「な、なるほど…?」


 話が少しずつ大きくなってる気がする。


 「でも、それが魔王と何の関係が?」

 「……」


 俺の問いを聞いて、ユリアンは話を続けた。


 「さっきも言ったが、転移には膨大なエネルギーが必要だ。もしそのエネルギーが、魔王一人・・・・で補える量だとしたら…?」

 「魔王一人で……補える量…」


 俺は何となく、ユリアンの言っているとが理解できた気がした。


 「魔王の中には、膨大なエネルギーが眠っている。それを新転山に全て注ぎ込めば、転移するためのエネルギーが集まり、ハルト達を元の世界に返すことができる」

 「な、なるほど…?」


 何となくだけど、ユリアンの言ってることがわかった気がした。


 「つまり、魔王を生贄・・・・・にすれば、元の世界に転移することが出来るってことですか?」

 「まぁ…簡単に言えばそうなるな」


 魔王を生贄にして転移する、確かに危険な方法だ。

 言うなれば、魔王と戦う・・・・・必要があり、しかも魔王に勝利する必要・・・・・・があり、まさにとんでもない方法だ。

 ユリアンの顔を見てみると、俺が魔王に挑んでしまうのではないかと心配してるように見えた。


 「まぁ…私的には、危険なことしてほしくないのだがな」


 彼女は少し笑っていた。


 「……大丈夫ですよ。流石に魔王へ挑もうとは思いませんから」

 「──そう…だな。そろそろ寝るとしよう、私は風呂に入ってから寝るが……ハルトはどうする?」

 「えっと……俺は──」


 ユリアンが風呂に入り、俺は二階まで上がった後、日和がいる部屋の扉の前へ来た。

 ノックをして彼女の名前を言う。


 「日和さん、中に入っても良い?」


 俺は中に聞こえるように声を出した。


 「…?」


 が、どう言うわけか返事が帰ってこなかった。

 おかしいと思いしばらく扉の前にいると、後ろから誰かに両目を手で隠された。

 しばらくして、後ろから元気な声が聞こえてきた。


 「はい、私は誰でしょうか?」

 「いや、誰も何も…」


 俺は後ろにいるであろう彼女・・に声をかけながら、両目を塞いでいる手をどかし、後ろを振り向いた。


 「全然声が聞こえないと思ってたけど、何して──……え!?」


 後ろを向いた俺は、少し驚いた。

 俺の反応に満足し、彼女は笑顔で口を開いた。


 「じゃーん、どう?似合う?」

 「あっ…えっと……」


 俺が驚いた理由、それは彼女の"服装"にあった。


 「あー……似合ってるね。パジャマ・・・・

 「…ありがとう、これユリアンさんが買ってきたんだって、可愛いでしょ?」

 「……」


 正直言って、彼女の言う通りだ。

 俺は思ったことをそのまま、彼女に伝えることにした。


 「…可愛い」


 俺の言葉を聞いて、彼女は少し照れていた。


 「あはは、そんな正直に答えられると……ちょっと照れるな」


 彼女は笑っていた。

 多分彼女の中で、一番言ってほしい言葉だったのだろう、とても嬉しそうだ。


 「…じゃあ、入ろうか」


 そう言って彼女は俺の腕を掴み、扉を開け、俺を引っ張る形で中に入れてくれた。

 そしてベットの近くまで行くと、彼女はこちらに顔を向ける。


 「じゃあ……添い寝、してくれますか…?」


 少し緊張してるのか、何だかぎこちない、そんな彼女に、俺は優しく答えた。


 「うん、約束したしね」


 しばらくして、俺達は今、同じベットに一緒に入ってる。

 昨日は彼女がベットにすぐ寝てしまったため、俺は床で寝たが、今日は俺もベットで寝ることになる。

 昨日と違って、よく寝れそうだ。


 「ところで、一つ気になったんだけど……」

 「うん?なに?」


 俺達は互いに横になり、お互いを見つめ合う形で寝ている。

 と言うか女子と一緒に寝てる状況に、俺は若干緊張していた。

 しかし気になることはあったため、俺は彼女に質問した。


 「なんか、やけに積極的に見えるんだけど……」


 俺は彼女が風呂場の時からずっと、積極的になっている気がした。

 積極的にキスをし、積極的にベットに誘っている。

 もちろん《スキル》の影響かもしれないけど、俺には彼女が、《スキル》とは関係なく動いてるように思えた。

 そんな俺の考えを読むかのように、彼女は目を瞑り、首元につけてるネックレスを触りながら、俺に言った。


 「多分、"本音で気持ち"を伝えたからだと思う」

 「……本音で伝えた。か」


 彼女が言ってる本音とはおそらく、風呂場で言った言葉だろう。


 「それって、俺のことが好き・・・・・・・、てやつ?」

 「──ッ、あはは…」


 俺の言葉に、彼女は少し笑っていた。


 「私は、今も君が好き、大好き、だから……一緒にいるこの時間が、今一番幸せなの」

 「そう、なんだ……」

 「……」


 すると彼女は、突然俺の頭を撫で始めた。


 「え!?ど、どうしたの!?」

 「……」


 彼女は無言で、ずっと頭を撫でる。

 まるで小さい子供を見てるかのように、何度も、何度も撫でた。

 しばらくして、ようやく撫でるのを止めると、今度は目を瞑りながら、唐突にキスをしてきた。


 「んっ…」


 またキスしてきたので、俺は驚いた。


 「んん!?」


 この時、俺は思った。

 まさかまた、何度もキスをしてくるのでは無いか、そう思った俺は、その場で目を閉じた。

 しかし意外にも彼女は──すぐキスを止めてしまった。


 「…えへへ」


 キスが出来て満足したのか、彼女は幸せそうに笑っていた。

 彼女の瞳を見ていると、少し輝いているように見える。

 何だか……彼女が甘い声で喋ってる気がして、俺は少し頬が赤くなった。

 そんな俺を見ながら、彼女は俺の体を強く抱きしめ、そのまま耳元で囁く。


 「私ね、好きな人とこうやって……一緒に過ごすのが、ずっと夢だった」

 「……」


 俺は彼女の言葉を、静かに聞いていた。


 「だから…ね?寝る前に──私からのお願い、聞いてくれる?」

 「……」


 彼女に抱きしめられ、俺も彼女を抱きしめる。

 自分でも気づかないうちに、俺は彼女の願いを──叶えたいと思った。

 俺は優しく返事を返す。


 「うん…なにしてほしい?」

 「…ふふっ、あのね?私の願いは──」


 少し笑いながら、彼女は俺の耳元で再度囁く。


 「私、君と──セックス・・・・したい」

 「……」

 「……」

 「…ん?」


 聞き間違いかと思い、俺はもう一度彼女に尋ねた。


 「え──と、ごめん……もう一度言ってくれる?」


 流石の俺も混乱し、少し汗をかいた。

 いやありえない、きっと聞き間違いだ。

 そうだ。そうに違いない!!

 しかし俺の考えは、次の彼女の言葉で、一瞬で崩壊した。


 「だから、その……せ、セックス・・・・……」


 聞き返されると思っていなかったのか、彼女は少し恥ずかしがっていた。


 「……」


 え、マジで…?

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