追放

 「だ、ダメだーーーー!!!!」


 俺は両目を強く瞑った。

 ベットに押し倒され、しかも手足は彼女によって抑えられている。

 この状況を受け入れるしかないと覚悟した時、彼女はぼそっと笑いながら、小声で呟いた。


 「ふふっ、かわいい…」


 彼女はその後、俺のほっぺたに軽く『ちゅっ』とキスをし、そのままベットから起き上がると、頭に軽く手を当てた。


 「あ〜…なんだろ、もの凄く頭がボーとする。《スキル》のせいかな…?」


 そう口にした後、彼女は勢いよく仰向けでベットに倒れてしまった。


 「あの…日和さん?」


 俺が声をかけると、彼女は体を横にし小さく声を漏らした。


 「ごめん、今日はここで寝させて……」

 「え?」

 「……」


 彼女は目を瞑り、そのまま寝てしまった。


 「えぇ……」


 彼女の行動に戸惑いながらも、俺は寝ている彼女の横で《スキル》説明欄を出現させ、《スキル》の再確認を始めた。


 「やっぱり無い……」


 俺は頭を抱えた。

 『性的奴隷』は、《スキル》所有者以外解除できないと書かれてはいるものの、その解除方法がどこにも・・・・書いていないのだ。


 「どうすんだよこれ……」


 俺は彼女に付けられたハート型のネックレスを見ながら、一つの仮説を立てた。


 (多分このネックレスが奴隷契約の証なんだろうけど、もしかしてネックレスを壊せば、契約が解除されるんじゃないか?もしくはもう一度左手で彼女に触れば……)


 俺はそのまま左手で彼女に触れようと手を伸ばす。


 (しかし、これは……)

 「スゥ……スゥ……」


 横で寝息をつきながら寝てる女の子に触るのは、何かこう……よく無い気がする。


 「……はぁ」


 俺はベットから離れ、そのまま部屋の外にいたユリアンに話しかけた。


 「ユリアンさん、ちょっと良いですか?」

 「どうした?えらく疲れているようだが」

 「あぁ……実は──」


 俺は日和が部屋に入った後のことをユリアンに相談した。


 「なるほど……わかった。これから兵士達の元に行って、ヒヨリの事を報告してくる、だからハルトも早く寝ろ」

 「え、でもベットには……」


 俺はベットに寝てる日和をチラッと見る。

 何かを察してか、ユリアンはニヤリと笑いながら、一言俺に言った。


 「それなら、私が膝枕してやろうか?」

 「膝枕!?」


 突然の言葉に驚く俺を見ながら、ユリアンはクスクスを笑い出した。


 「冗談だ。それじゃあ行ってくる」


 そう言って、ユリアンは城の廊下を歩いて行った。

 ユリアンが去った後、俺はそのまま扉を閉めた。


 「とりあえず、床で寝るしかないよな……」


 俺はベットで寝ている日和を見ながら、床に仰向けで寝た。


 「起きたら背中痛いよな…」


 そんなことを考えながら、俺は眠りについた。


 「それじゃあ、私は国王に報告してくる」


 一方その頃、ユリアンは部下である兵士達と話をしていた。


 「わかりました。少女の仲間達には、我々から教えておきます」

 「助かる。くれぐれも・・・・・、《スキル》のことは報告するな、ヒヨリは自らの意思で、彼と奴隷契約を交わしたんだからな」

 「はぁ……しかし本当なのでしょうか?」


 兵士は少し納得していない様子だ。


 「自分から奴隷になりたいなど、我々の国では考えられません」

 「まぁ、そうだな」


 ユリアンは来た道をまっすぐ見つめながら、兵士に告げた。


 「でも私は……ハルトが無理矢理、ヒヨリに《スキル》を使ったとは思えない」

 「それは、何故ですか?」

 「何故、だろうな……」


 ユリアンはハルトのことを考え、笑いながら兵士に告げた。


 「一つ言えることは、彼が悪い人間ではない・・・・・・・・、ってことだ」

 「あの、どう言う意味ですか?」

 「そのままの意味だ」

 「はぁ…」


 しばらくして、ユリアンは王様に今回のことを報告した。


 「そうか、報告ご苦労だったな」

 「あの……どうなさいますか?」

 「うーむ…」


 王様はしばらく考えた後、ある事を思い付き、ユリアンにそれを伝えた。


 「ならば、こう言うのはどうじゃ?」


 次の日、床で寝ていた俺は、背中の痛みと共に目を覚ました。


 「うぅ…背中痛い」


 俺は背中にゆっくりと手を当てた。

 すると横から女性の声が聞こえてきた。

 

 「じゃあベットで寝れば良かったじゃん…」

 「……あっ、日和さん」


 横で彼女が腰を低くしながらこちらを見ていた。

 てかベットで寝れなかったのは誰のせいだと思ってるんだ。


 「立てる…?」

 「まぁ、一応……」


 俺は背中を押さえながら、ゆっくりと起き上がった。


 「えっと、どうかした」

 「……」


 彼女は不服そうな顔でこちらをジッと見ていた。


 「別に?そんなことより、自分のこと心配したら?」

 「え、それって──」

 「失礼するぞ」


 扉が開いて、部屋の外から王様がユリアンと一緒に入ってきた。


 「おはよう、よく眠れたかな?」

 「王様…」

 「さて、昨日も言ったが……」


 王様はユリアンから一枚の紙を貰い、それをこちらに渡してきた。


 「今日でこの城から出て行ってもらう、紙に住む住居を記しておいたから、そこに向かうが良い」

 「は、はい」


 手紙を受け取り、次に王様は大きな白い袋をこちらに渡してきた。

 袋が気になって、俺は王様に聞いてしまった。


 「あの、この袋は…?」


 中からジャリジャリと音が聞こえてくる。

 これはもしかして、お金だろうか?


 「袋の中には金貨が100コイン入っている。ちなみに金貨はお主の世界で1コイン一万円の価値がある。まぁ簡単に言うなら100万円じゃな」

 「ひゃ、100万円!?」


 思わず大きな声が出た。

 唐突に大金を手に入れ、何だか申し訳ない気持ちになった。


 「あと他に銅と銀のコインがこの国にあるが、銅は100円で銀は1000円の価値じゃ、この国で住むなら、よく覚えておいたほうが良いじゃろ」

 「わ、わかりました……」


 俺は金貨100コイン入った袋を抱え、王様にお礼を言った。


 「あの、いろいろとありがとうございます」

 「何を言っている。お礼を言うのはむしろワシの方じゃ」

 「え?」


 王様は被っていた王冠を取り、その場で深々と頭を下げた。


 「ワシの力不足でお主達を巻き込み、挙げ句の果てにこのような扱い、本当なら恨まれ、憎まれても仕方ないじゃろ」

 「王様…」

 「しかしお主は、そんなワシにお礼を言った。こんなワシのことを信用してくれて、感謝する」

 「……」


 俺は王様に近づいて、一言告げた。


 「こちらの方こそ、危険な《スキル》を持っている俺に優しくしてくれて、感謝します」

 「──ッ、オーホホホ」


 突然王様は笑い出した。


 「ユリアンの言った通り、お主は不思議な人間じゃな」

 「え、ユリアンさんが?」


 気になってユリアンの方を見ると、こちらを見ながらウィンクをしていた。


 「さて、そろそろ移動するとしよう。ユリアン、後のことは頼んだぞ」

 「はい、お任せください」

 「それとそちらの娘、ちょっと良いかの?」

 「え、私ですか?」


 王様は日和を連れて、何処かに行ってしまった。


 「じゃあ行くか、城の入り口に案内するから、ついてきてくれ」

 「はい、行きましょう」


 俺はユリアンの後ろをついて行き、城の入り口まで移動した。

 入り口につくと、俺は初めて見た外の景色に少し感動した。


 「おぉ〜」


 城から見える景色には、大きな塀に囲まれながら、さまざまな建物が立っており、いろんな人々が歩いていた。


 「ハッ!!」


 しばらくして、ユリアンが馬車に乗りながらこちらに近づいてきた。

 馬車から降りた後、ユリアンはそのまま扉を開けた。


 「荷物を馬車に乗せてくれ、住居は少し遠いからな、移動しながら周りの景色を楽しむと良い」

 「あっ、ありがとうございます!!」


 扉を開け、馬車に乗ろうとした瞬間、城からチャックの付いた大きなカバンを抱えて、二人の兵士がこちらに近づいてきた。


 「失礼、国王様から追加の荷物を預かってきました」

 「む?そのカバンかなり大きいな、何が入っているんだ?」

 「えっと、実は──」


 兵士はカバンの中身をユリアンに教えた。


 「──なるほど、わかった。一緒に馬車に乗せておこう」


 ユリアンは兵士と一緒にカバンを馬車に乗せた。


 「さて、これで終わりだな。ハッ!!」


 ユリアンは馬車を発進させ、俺は外の景色を見ながら、今後のことを考える。


 「まずは、この世界のことを知らないとダメだな……」


 知らない場所、知らない土地で、遂に俺とユリアンの生活が始まった。

 この先どうなるかわからないけど、まずはこの国がどうなっているのか、ちゃんと調べるとしよう。

 そう思い、俺は馬車の中で眠りについた。

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