《スキル》のデメリット

 「食事の時間です。各自それぞれ夜食を取って下さい」


 この世界に転移してきたその日の夜、クラスメイトの元に食事を運んでいく兵士達、兵士達の食事を取って椅子に座り、クラスメイトは次々とご飯を口にしていき、それぞれが今後の話をしだした。


 「なぁお前の《スキル》どんな強さなん?」

 「多分巨大な岩を粉々にできるくらいには強いぜ」

 「ねぇ私達本当に国を救わなきゃダメかな?」

 「んー、元の世界に戻れないとなると、多分そうだと思う」

 「……はぁ」


 その中で一人だけ、ため息を吐いてる少女がいた。


 「大丈夫かな……」


 何かを心配してる様子、そんな少女の近くで、兵士達が会話を始めた。


 「この食事、誰が運ぶ?」

 「俺が運んでこよう、リーダーのことも心配だしな」

 「…?」


 少女ら彼らの会話に耳をすませてみる。


 「確か【劣情王】だっけ?」

 「女性とメスを性的奴隷にさせる《スキル》か、リーダーは確かに強いが、万が一のこともあるからな」

 (やっぱりこれって…!)


 何かに気付き、少女は兵士達の元に近づいて行く。


 「あっあの、私が食事を運んでも良いですか?」


 少女に話しかけられ、話をしていた兵士は少し驚いた。


 「え…君が運ぶのか?」

 「ダメですか?」

 「いや、そう言う訳ではないが……」


 兵士は少し考え、少女に告げた。


 「わかった。その代わり私も共に行こう、リーダーのことも気になるしな」

 「──ッ、ありがとうございます!!」


 少女は深々と兵士に頭を下げた。


 「それじゃあ案内する、付いてきてくれ」


兵士が歩き出し、少女は後ろから後を追った。


 「──轟くん……」


 一方その頃、彼はベットに仰向けで寝ていた。

 腹から音が鳴る。


 「腹減ったな……」


 お腹が空(す)いて、動く気が起きない、そんな時、部屋の扉が開き、ユリアンが話しかけてきた。


 「腹の音が聞こえたのだが、大丈夫か?」

 「えっ?まぁ……」

 「そうか、もうすぐ食事が運ばれてくるはずだから、もう少しだけ待っててくれ」

 「わかりました」


 返事をした後(のち)、ユリアンは再び扉を閉めた。


 「しっかし、やる事が無いな…」


 元いた世界と違って、この世界にはテレビも漫画も無い、なので寝ることしかできない。


 「食事、まだかな……」


 そんな時、部屋の外からユリアンが誰かと話してる声が聞こえてきた。


 「お願いします。今日だけでいいんです」

 「いや、だがな……」


 耳をすまして会話をよく聞いてみると、聞いたことのある声が聞こえてきた。


 「この声、もしかして──」


 扉の前まで移動し、ドアノブに手を置いて少し開けた。


 「ユリアンさん、どうかしましたか?」

 「あっ…ハルト、いや実は──」

 「轟くん!?良かった……」


 ユリアンと話をしていた少女は、こちらの声に気がつくと、安堵の声を上げた。


 「てっきり酷いことされてると思ってたけど、無事で安心した」

 「君は確か……」


 この子は同じクラスのクラスメイト、名前は──。


 「日和(ひより)、琴波(ことは)」


 日和(ひより)琴波(ことは)、同じ委員会で一緒に活動した事があるが、接点があったのはその時だけで、それ以外ではあんまり話した事がなかった。

 近くにいた兵士がユリアンに事情を説明する。


 「実は食事を運ぼうとしたら、この子も一緒に行くって言って、無理に断るわけにもいかず」

 「…なるほどね。なら私が後で送って行くから、とりあえず他のクラスメイトの元に行ってくれ、こちらは私だけで大丈夫だ」

 「わかりました。見たところ問題は無さそうなので、私は失礼します。何かあれば報告をお願いします」

 「わかった。そっちは任せたぞ」


 ユリアンに言われ、兵士は元の場所に戻って行った。


 「さて、ヒヨリ……だったかな?食事を運んでくれてありがとう、あとは私が──」

 「あっあの!!中に入れてもらえませんか!?」


 ユリアンが食事を受け取ろうとするが、日和(ひより)は俺のいる部屋に入りたいらしく、ユリアンを説得していた。


 「悪いが、それは無理だ」


 ユリアンは日和(ひより)の頼みを速攻で断った。


 「さっきも話したが、彼の《スキル》は危険なんだ。もし君に何かあれば、見張り役を頼まれた私は責任を問われるだろう、もしかしたら……最悪私は騎士を辞めなければ・・・・・・ならない」

 (あっ、これ多分嘘だな)


 何となくだがそう感じる。

 ユリアンは俺が《スキル》を使わないことを知っている、しかしあえてこう言うってことは、ユリアンなりの気遣いだろうか?

 しかし、日和(ひより)はため息を吐いた。


 「嘘を付いても無駄です」

 「…嘘?私が?」

 「はい、あなたは嘘を付いてます」

 「何を根拠に……」

 「根拠はあります」


 そう言うと、日和(ひより)の両目に黄色い星のマークが出現した。


 「私の《スキル》、知ってますか?」

 「君の《スキル》?いや知らないが」

 「……《スキル》オープン」


 日和(ひより)の目の前に、《スキル》説明欄が出現した。


 「ッ、これは…」


 ユリアンは説明欄を見て、少し驚いていた。


 《スキル》【心眼(しんがん)】

 『真実を見抜き、相手の嘘や疑惑を暴くことができる力』


 「あなたが私に嘘を付いてるのはわかっています。そして轟くんが《スキル》を使わないことも」

 「だから、"自分は大丈夫"ってことか?」

 「……」

 「はぁ……仕方ない」


 ユリアンはドアノブを握り、そのまま扉を開けた。


 「彼が寝たら部屋から出てこい、それなら王様も許してくれるはずだ」

 「──ッ、ありがとうございます!!」


 日和(ひより)が部屋に入ると同時に、ユリアンは扉を閉めた。


 「えっと、とりあえずベットで話さない?」

 「え?」

 「ほら早く」

 「え、え?」


 右手を握られ、俺は日和(ひより)、もとい彼女と一緒にベットに座った。


 (これは…どういう状況だ?)


 俺が困惑していると、彼女は俺の方を向いた。


 「ねぇ、君の《スキル》説明欄もう一度見せてくれない?」

 「え?どうして?」

 「えっと、気になる事があるの」

 「…?」


 俺は彼女に言われ、《スキル》説明欄を出現させた。

 俺の持つ《スキル》は【劣情王】、左手で触れた相手の性的な欲望、または好奇心を強制的に向上させる《スキル》で、触れた者が女やメスだった場合、強制的に性的奴隷にさせることができるとんでもない《スキル》だ。

 彼女は俺の《スキル》説明欄をじっくりと読み込んだ。


 「うーん、やっぱり……」


 何かに気づいたのか、《スキル》説明欄の一番下・・・に指差した。


 「気づいてた?ここに小さな字で何か書かれているの」

 「え、あっ本当だ!!」


 《スキル》説明欄の一番下に、もの凄く小さい字で何か書いてあった。

 小さすぎて「誰が気付くんだよ」と一瞬思ったが、俺はそこに書いてある文字を読んだ。


 「えーと、『この《スキル》は一定の期間使わないでいると、強制的に発動・・・・・・する可能性があります。その場合は相手に触れなくても、近づいただけで発動します』だって」

 「……」

 「……」


 俺達は無言になり、しばらくして彼女が口を開いた。


 「まぁつまり、轟くんの《スキル》はどの道発動するから、十分注意してってこと」

 「いや注意しろって、どうしろと──」

 「ガシ」


 俺が言い終わろうとした瞬間、彼女に左手首をガシって掴まれた。


 「ちょっ、いったい何して」


 次の瞬間だった。

 彼女は俺の左手を、自分の頬(ほほ)に触れさせた。


 「!!??」


 俺が驚いていると、脳に謎のメッセージが流れ込んできた。


 『《スキル》発動を確認、これより相手との奴隷契約・・・・を結びます』

 「な、何を言って──」


 メッセージが終わると同時に、彼女の首元に突如ネックレスが出現し、そのネックレスをよく見てみると、小さくハートの形をした物がぶら下がっていた。

 再びメッセージが脳に流れ込んできた。


 『契約完了、これにて《スキル》発動を終了します』

 「……終わった?」


 周りを確認して、彼女に恐る恐る話しかける。


 「ひ、日和(ひより)さん…?」

 「……」


 返事がない、しばらくして、彼女が口を開いた。


 「ごめんなさい」


 開口一番聞こえてきたのは、彼女からの謝罪だった。

 下を向いたまま、彼女は話を続ける。


 「強制発動・・・・させない為には、《スキル》を使うしかない、だからこうするしか方法が無かった」

 「えっと、日和(ひより)さん?」

 「……」


 名前を呼んでも返事がない、すると彼女は両手で俺の頬を掴み、そしてグッと顔を近づけると、次の瞬間──。


 「んっ…」


 彼女に、唇を奪われた。

 言い方を変えると、彼女から"キス"された。


 「んんんん!!??」


 突然のことで思うように言葉が出ない、そんな俺にお構いなく彼女は、何度も、何度も、自分と俺の唇を重ねた。


 「ん……ぷはぁ……んっ……」

 「……」


 甘い吐息が聞こえる。

 もう何回キスをしたかわからない、流石に頭がぼーとし始め、俺は何も考えられなくなっていく、そして何回しただろうか、突然彼女はキスを辞めた。


 (おわ……た…?)

 「はぁ…はぁ……」


 未だに吐息が聞こえ、彼女は甘い声を発(はっ)する。

 そう思っていると、今度は彼女からベットに押し倒された。

 流石にヤバいと思い、俺は彼女に再度話しかけた。


 「ちょ、待て待て待て待て!!!!」


 何をするのかわからないため、俺は必死に声をかけ続ける。


 「ごめん、でも……もう我慢・・できない……」

 「だ、ダメだーーーー!!!!」


 ベットに押し倒された俺、そんな俺を見つめる彼女、何も起きないはずがなく、俺はただ……この流れに身を任せる・・・・・ことしかできない──。

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