第一章.冒険の始まり
ユリアンと日和
移動すること数十分、ある建物の前に馬車が止まった。
「ハルト、住居に到着したぞ!!」
馬車の中にいる春兎に聞こえる声で話しかける。
「……」
「ハルト?」
「……」
「ハルト!!」
なかなか春兎が返事をしないため、ユリアンは馬車を思いっきり持っていた剣で叩いた。
「バンッ!!」の大きな音と共に、馬車が大きく揺らいだ。
「はっ、何だ!?」
寝ていた春兎は大きい音で起き上がり、そのまま馬車から降りると、近くに大きな一軒家が立っていた。
「返事ぐらいしたらどうだ?」
俺が目の前に立っている住居を見つめていると、隣でユリアンが話しかけてきた。
「良い家だろ?我々が探してきた中で、一番良い家を選んだからな」
「はい、とっても良い家だと思います!!」
「あははは、そうだろ?」
ユリアンは誇らしげに笑っていた。
「さて、じゃあ荷物を中に運ぼうか」
そう言って、ユリアンは馬車に置いていた荷物を次々と家の前に置いていく、俺も手伝うため馬車に置いていた大きなカバンに手を置く、そしていざカバンを持ち上げようとするが、なかなか重たくて持ち上げられなかった。
「意外と重いな…」
そして今度は思いっきり下から持ち上げようと、カバンの下に手をやる。
「せーのっ」
何とかカバンを持ち上げ、そして馬車から降りようとしたが、あまりの重さにバランスを崩してしまった。
「あっヤバ、手が滑った。」
バランスを崩した結果、思いっきりカバンが地面に落ちた。
「いったー!!」
「え?」
落ちたカバンがドーンと地面にぶつかり、中から謎の声が聞こえた。
声が気になった俺は、ゆっくりとカバンのファスナーを開けた。
「え!?」
カバンの中を確認して、俺は驚いた。
カバンの中には一人の少女がおり、しかもこの少女に、
「な、何でいるの?"日和さん"」
「あっ、えへへ……ついてきちゃった」
「いや「ついてきちゃった」じゃなくて!!」
目の前で笑っている少女は日和(ひより)さん、昨日の夜に、俺の《スキル》で"奴隷契約"を交わした少女だ。
「わー、結構良い家だね」
彼女はカバンから出た後、目の前に立ってる一軒家に近づいていき、俺はその後ろを追いかけるようについて行った。
「ねぇ、本当に何でいるの?」
どうしてカバンの中に潜んでいたのが尋ねると、荷物を確認していたユリアンが日和に気づいて話しかけてきた。
「ハルト、その子は同居人だ。これから
「え、ユリアンさんもしかして知ってたの!?」
「ま、まぁ……」
「何で教えてくれなかったの!?」
「あぁーえっと、実はな…?」
ユリアンは混乱してる俺に、昨日あった出来事を話してくれた。
それは昨日、ユリアンが王様と話をしていた時のことである。
「一緒に住ませる?正気ですか?」
「仕方ないじゃろ、《スキル》はあの少年にしか解除できない、しかもその方法は見つかっておらんのだろ?」
「それはそうですが……」
王様が言うには、日和を自分達と一緒に城から追い出すことにした方が良いんじゃないか、とのことらしい。
「それに彼女"自身"が奴隷契約を望んだ。なら少年と一緒に住ましてやる方が、彼女の為だと思わんかね?」
「……」
ユリアンは考えた。
確かにヒヨリとハルトを一緒にした方がいいかもしれない、しかし彼女の仲間達には何と説明するべきだ?行方不明か、あるいは素直に「彼女が自ら《スキル》を受けた」と言う方が良いのか…?
「もちろん彼女が望めばの話だが」
「──わかりました。今からヒヨリに確認してきます」
「うむ、頼んだぞ」
「……失礼します」
ユリアンは少年のいる部屋まで戻り、部屋の扉を開けて中に入った。
「あっ…」
ヒヨリの声が聞こえた。
床に寝てるハルトと、それをしゃがんで見つめているヒヨリが、ユリアンの目の前にいた。
「ハルトが寝たら戻るように、って言わなかったか?」
私は彼女に近づいた。
そんな私に慌てながら、彼女は焦りだした。
「ご、ご、ごめんなさい!!ちゃんと戻るつもりだったんですけど──」
「いや、丁度良かった。君に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと…?」
私は彼女に、王様から言われた事を告げた。
「──ってことなんだが、大丈夫か?」
「あ……良いですよ!!私もついて行きたいと思っていたので」
「……」
「どうしました?」
私は気になって、彼女にある事を聞いた。
"私自身が"、一番気になってる事を。
「君は、怖くないのか?」
「え?」
「だからその……ハルトの奴隷になったこと」
今の彼女は、《スキル》【劣情王】の影響で、ハルトと奴隷契約を交わしている。
私の世界で、自ら奴隷になった人間はまず存在しない、奴隷とは……主人の命令に従い、決して逆らってはならない、逃げることは許されず、人として扱われず、檻の中で寒さに耐えながら、ただ辛い思いをし続ける。
それがこの世界での奴隷だ。
彼女が奴隷になってまで、ハルトと一緒になりたい理由が、私にはわからなかった。
そんな私を見ながら、彼女はキョトンとしていた。
「怖くないですよ、ぜんぜん」
私の質問に、彼女はケロッと答えた。
そして自分が付けているネックレスを右手で持ち、私に見せるように自分の顔の前まで持ち上げた。
「このハートのネックレス、春兎くんと契約した時、首元に出現したんです」
「?、それは私も知っているが?」
「…ふふっ」
彼女はネックレスを見ながら、少し笑った。
「これは契約の証として勝手に付いた物ですけど、私からすれば……これは"プレゼント"なんです」
「ぷ、プレゼント??」
彼女の言い分を聞いて、私は混乱した。
そんな私を他所に、ネックレスをジッと見つめながら、彼女は小声で呟いた。
「"──な人"から貰った。大切な宝物……」
「え…?」
「……」
彼女はネックレスをそのまま服の中に入れ、私の方を見た。
「私は春兎くんと一緒にいたい、だからお願いします。私も一緒に連れてってください」
「……」
真っ直ぐこちらを見つめてくる彼女に、私は何も言えなかった。
「──まったく、契約の証であるネックレスをプレゼントと言うなんて、とんでもない少女だ」
「……」
笑いながら話をするユリアンを、春兎は黙って聞いていた。
そんな春兎を見て、ユリアンは少し笑顔になる。
「君は、とても信頼されてるのだな」
「──そう……ですかね」
ユリアンの話を聞きながら、俺は日和の方を見た。
「二階建てか〜、私の部屋あるかな……」
彼女はこれから住む家をマジマジと見ていた。
そんな彼女を見ながら、俺はその場で呟く。
「俺は……彼女を奴隷扱いするつもりはありませんし、これからも、するつもりはありません」
「……」
「だから、
俺はユリアンの方に向き直した後、彼女の目を真っ直ぐ見つめながら、ある事を決心し、それを彼女に告げた。
「俺は日和も
「──ッッッ!!??」
俺の言葉を聞いて、ユリアンは後ろを向いてしまった。
ユリアンは口元に手を置いて、そのまま小声で呟いた。
「まったく、これじゃあまるで私が……」
しばらくして、ユリアンはこちらに向き直すと、春兎のおでこにデカピンした。
「痛った。なにするんですか」
「……」
俺はおでこを両手で押さえた。
そしてユリアンは玄関の方まで歩き出し、下に置いていた荷物を持った。
「…さっさと中に荷物入れるぞ、ヒヨリも手伝ってくれ」
「あっ、わかりました!!」
「ハルト、君はしばらく外にいてくれ」
「えっ、何で!?」
そのままユリアンは日和と一緒に、家の中に入った。
俺はと言うと、外に放り出されたまま鍵を閉められ、中に入れなかった。
「おーい、なんで俺だけ外なの?」
俺の声を聞いて、ユリアンが近くにあった窓を開けながら、呆れた顔でこちらを見ていた。
「ハルトのせいだ」
「え?俺のせい?」
「……」
そして彼女はそのまま窓を閉めてしまった。
「お、おいちょっと!?」
しばらく俺は家の中に入れず、ずっと外に放置された。
家に入れた時には、すっかり昼になっていた。
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