シガレッツ・パンク
藤二井秋明
シガレッツ・パンク
とびっきりのプレ価がついてやがんのさこのタバコには。なんせもうタバコの現行品なんてものは無えから、コレクターだの転売ヤーだのがこぞって古い時代の紙タバコを奪い合ってるんだ。忘れちゃいけねえ、警察だってそうだぜ。こんなものが存在するのが許せねえとばかりに目を血走らせて追ってくる。このちっちゃい紙箱がそんなに憎いかね?憎いとしたら一体ナゼ?
かくいう俺も吸ったことはねえ。
地下街の廃墟を探検してたとき、ウン十年前のコンビニに隠されていた在庫をそっくり頂戴してきただけだ。以来、売ろうか吸おうか捌き方に悩んじまって、結局知合いにひと箱売ってみたのが半年前。なかなかいいモンだって噂だ。近所の住人も吸いたがって、今じゃ俺はちょっとしたオークションのオーナーさ。そう、競売にかけてなるべく高値で売ってやんのさ。
「はあ……はあ……」
なんで息切らしてんのかって? 逃げてるからだよ。 誰からって? サツからだよ!
あの喫茶店のジジイが俺を売りやがったんだ。あんまりぼったくるんで頭に来たんだろう。まあジジイもタバコは吸いたいだろうから、俺が大量の在庫を隠してることは喋ってねえはずだ。だとしたらサツが追っかけてるのは今俺のポケットに入ってる一箱だけ。銘柄はピース。『初めて試したタバコは~♪』って歌があったらしい。さてどこに逃げようか。
× × ×
潜伏した裏路地で、俺は名案を思い付いた! それは全部吸っちまうこと!
モノが無けりゃ警察だって逮捕は出来ねえ。幸いにしてここはサイバー・シティのスラム街。壊れかけのネオン管や電気の配線から始終火花が散ってる。あそこだ。あそこがいい。
昔親父が通ってた娼館。俺は人目が無いのを確認して、女の形に曲げられたネオン管の股の部分から漏電した電気でタバコに火をつけた。着火時はしっかり吸いながら、だ。
「……ふう」
……なるほどこういう感じか。悪くねえ。ちと喉が熱いが甘い香りがちゃんとする。
「……」
おお、クラクラしてきた。
「……」
喫茶店のジジイが言ってた「なかなかいいモン」ってのはこういうことだな。妙に頭がすっきりするっていうか……あ、サツが来ちまった。っていうか、余裕こいてたら取り囲まれちまった。
『おい貴様……』
「ははは。やあ皆さん。お揃いで」
『貴様の持っているそのタバコ』
「ええ。“最後の一箱”なんです」
『俺たちにも吸わせてくれ。政府が内密に栽培してるタバコは、我々には回ってこんのだ』
シガレッツ・パンク 藤二井秋明 @FujiiSyumei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます