サイバー・パンク・キャット
藤二井秋明
サイバー・パンク・キャット
「なんで泣いてるんだ」
『……泣いてないよ』
「嘘つけ。心が泣いてる。お前の感情が入ってきてるんだよ」
四隅が丸くなった窓は、はめ殺しになっている。開けることは出来ない。この街の住人には窓を開ける自由すらない。空気が汚過ぎるからだ。
あると言えば精々部屋のドアを開けて、下の売店に降りていく自由くらいか。それと自分の肩に猫を乗せておく権利。
『わたしのお母さんの口癖教えてあげる。『猫に泣いてる暇はない』っていうの。泣くのは弱い人間だけに許された行為だって』
「強い人間でも泣くことはあるぜ」
『そういう意味じゃない……。でも、どんなに弱い猫でも泣きはしないわ』
ふーん、そうかい、と俺は気のない返事をした。しかし実際には俺はこの迷い猫を結構気にかけていた。こんなにも人間臭い猫がいたとは、さぞつらい経験をしてこの
心が泣いた猫も涙を流すことはない。それは人間と猫とに隔たる生物学的な限界の壁とも言える。しかしこうして深い悲しみの中にいる一匹の雌猫が涙を流さないからといって、その痛みに見て見ぬふりが出来るほど人間は腐ってない。腐ってない……はずだといいのだが。
『あなた……どうして泣いてるの?』
「ほっとけ。泣ける奴が泣けばいいんだ。お前の感情で俺が泣いてやるから」
サイバー・パンク・キャット 藤二井秋明 @FujiiSyumei
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