砂の箱より

水白 建人

第1話

 立方体キューブとは外側のみを見て判断される概念だ。

 中空ホロウであるかソリッドであるか、までは定義できない。

 一方、箱とはものを入れる器である。

 よって中空ホロウを前提とする。

 まったくの砂でできていようとも。


《砂の箱》は自ずから崩れゆく。

 崩れゆく《砂の箱》の外側に当たる部分の砂を《砂の箱》の内側にいるものが動かせるのなら話は別だが、夢物語なのは――びんの外側に貼られたラベルが内側からでははがせないことを思えば――火を見るよりも明らかだ。


《砂の箱》の外側に当たる部分の砂が崩れゆくのを止めるのはまず不可能。

 では《砂の箱》の内側にいるものが《砂の箱》を保つにはどうすればよいのか。

 キーポイントはずばり中空ホロウだ。

 この空間を箱のかたちにしたならば、外側からはうかがえずとも《砂の箱》は確かにあると定義できよう。


 崩れゆく《砂の箱》の外側に当たる部分の砂は、自然の流れに従うとするときゅうりょうを作るかのようにつぶれながら広がっていく。

 広がりようは初めに《砂の箱》があった位置を中心とした放射状を示すはずである。

 そこで《砂の箱》の内側にいるものが、崩れゆく砂と同じか、それ以上のスピードで内側の砂を動かせるとしよう。

 すると《砂の箱》が完全につぶれてしまうまでの間は《砂の箱》を内側に保つことができる。

 左官よろしく六面を絶えず整えてゆくイメージだ。

 ただし、これでも《砂の箱》がつぶれる運命は変えられない。

《砂の箱》の外側に当たる部分の砂が崩れゆくベクトルに逆らうように内側の砂を動かすならば、《砂の箱》は個を保ったままつぶれるだろう。

《砂の箱》の外側に当たる部分の砂が崩れゆくベクトルに従って掘り進むかのように内側の砂を動かすならば、《砂の箱》は完全につぶれるそのときまで分離を繰り返すだろう。


 ゆえに人は《砂の箱》をあいまいにする。

 内側にいるものが外側へと行き来できるような穴を作る。

 自分たちにとっての《砂の箱》を一秒でも長く保つのに必要な砂を、まわりから奪い取れるように。

 させるものかと砂を固めてもむだだ。

 技術を磨き、ひしと防備された異邦の《砂の箱》に必ずや穴をうがつ。

 個を保ったままの自壊を選んでもむだだ。

 遠路はるばる、かつての異邦が夢の跡に必ずや砂を求めてくる。


 ゆえに人は《砂の箱》をあいまいにする。

 外側のみを見て判断される不動の象徴キューブをとりもなおさず《国》と呼ぶ。

 ただの入れものケース宝箱チェストとして、真っ黒な秘密の象徴ボックスの底に収めるかのように。


《地球》の青さとソリッドな姿に宇宙飛行士が感激するわけだ。

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