声
子供の頃、私が喋ると皆に笑われた。
発音、イントネーションがおかしいと。
特に私はラ行が言えなかった。
嘘ではなくて本当に。
なんで発音出来なかったのか。
知らない。
こっちが知りたいくらいだ。
おかしいと馬鹿にされる。
おかしいなら教えてと頼むも、誰も教えてくれない。
皆は笑う。当然のことが出来ない私を。
除け者を笑う。
「どうして出来ないの?」
「自然に出来ることでしょ?」
じゃあ、あんた達だって英語のRとLの発音は出来るの?
日本人だけどラ行が言えなかった私。
言えるようになったのは小3の時。音楽の授業で理解した。
先生が「上顎に舌をつけて」、「舌を反らせて」、「発音したら舌を元の位置に」と。
やっとラ行が発音出来るようになった。
けれど──それでも馬鹿にされる。
ロケット、シンデレラ、ランプ、これらを言えと言われる。
分かっている。
どうせきちんと発音しても、変だと馬鹿にするんだろ。
何度も何度も馬鹿にして、私をいじってくる。
一度貼られたレッテルは剥がせない。
だから私は喋らなくなった。
そしたら感じ悪い子になった。
性根の悪いやつに、悪者呼ばわり。小言や文句、嫌味を言われる。
そして私が怒ると逆ギレ呼ばわり。
喋っても文句、黙っても文句。
どないせい、いうねん。
そしてそんな私は──Vtuberになりました。歌枠で歌ってます。メン限でASMR配信してます。
かつての私を知る人は驚くだろうな。
まあ、皆が知ることはない。
Vの魂は秘密。
◯
雑談配信というものがある。
文字通り雑談を配信。
トークテーマを考えておき、コメントの反応を見つつ喋る。時折、こちらから疑問などを言ってコメントから返答を拾って読み、そして感謝する。
たくさんのリスナーを相手に語る。
ただ全員を相手にする必要はない。
私の会話に正しく反応するコメントを拾うだけ。
しかし、次々と流れるコメントに目を通すのはしんどいし、中には批判的なものも流れる。そして読みたくないものも読んでしまうこともある。
「そうそう、この前さ〜」
という前を置きを使って私は語る。
まるで今、思い出したかのように。
雑談配信が多いVはサムネイルが出来なかったのか、ゲーム実況が嫌になったか、時間に余裕がないのか、ただ単に喋るのが好きなだけなのかのどちらかだろう。
私は会話が苦手。幼少期からの人間関係で苦手になった。けれど1人であれこれ喋るのは好き。会話と喋りは違う。
私の話を聞け。
◯
配信がない日は何をしているのかというと、レッスンや提出物の作成、他のVtuberの動画を視聴して勉強、そして休日オフである。
レッスンはボイトレとダンスレッスンのこと。
ダンスレッスンがあるため引きこもってぶくぶく太ることはない。それにダンスレッスンは私だけでなく、他のVの方々と会うことがあり、彼女達に笑われないよう美意識は強く持っている。
もちろん中にはガワ被ってるからいいじゃんとか、もう歳だからという人もいる。
◯
「今回はありがとね〜」
1期生のリリィさんが待機室でスタンバイしている私達に言う。
待機室はダンスレッスン室の隣にある部屋。
今回はリリィさんの生誕祭ライブで私とトビさんの3人組ユニットで歌を歌う。
勿論、ダンス付き。
そして今日はその練習の日。
「いえいえ、でも珍しいですよね。今回はアメさん達とユニット組まないんですか?」
アメさんとはアメージャさんのことで、リリィさんとは昔から仲が良いという設定のV。これは設定ではあるが実際に仲は良い。
「いつもアメに手伝ってもらうのもあれだからね。今回は趣向を凝らしてメテちゃんとトビちゃんに手伝ってもらおうと思ったの」
「そうですか。今回はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
トビさんも頭を下げる。
「うん。よろしくね。もう少し待っててね」
そう言って、リリィさんは待機室で出ていく。
たぶん運営や先生方と打ち合わせがあるのだろう。
「ねえねえ、なんで私達なんだろうね?」
トビさんが小声で聞いてきた。
「さっき言っていた通りじゃない?」
「そうかな〜?」
どこか含むような言い方。
「
「まっさか〜。あの2人だよ」
「でも最近、オフで何もないじゃん」
「それは周りに言ってないだけ、オフで遊んでいるんじゃない?」
あまりオフでどこそこに言ったとかいうと身バレの危険があるから、詳しくは言わない。
だからオフで遊んでいないように感じるだけではないだろうか。
「先月、リリィ先輩はぱるるとか詩子とオフ旅行して、アメ先輩はサラサとゆるるとパコと旅行したじゃん」
確かに旅行は別々だ。
「日程が合わないとかじゃない?」
「そうかな〜? 最近、あの2人、オフで会ってないように見えるけど」
「そうなの?」
「分からなーい」
「……」
自分で言っておいて何だよそれ。
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