案件
昔、アメリカドラマで日本人が準レギュラー、もしくは重要な回でちょい役で出演するとそのドラマは今シーズンで打ち切りだというジンクスめいた考えがネットにあった。
それには私も同意見だった。私の好きなアメリカのドラマも日本人が出ると失速し、打ち切りになっていたからだ。
そしてそういうジンクスがソシャゲの中でもあり、それは『Vtuberとコラボするとサ終間近』というもの。
さすがにこのジンクスは否定したいが、意外とVtuberとコラボしてサ終したソシャゲが多いので一概には否定できない。
と、いうことはだ。
このジンクスが正しいのであれば、ミラクル・ブレイブ・ヒッター(通称ミラブレ)もサ終間近ということではないだろうか。
打ち合わせでは、私とサラサさんが選ばれたわけについては聞かれず、ミラブレの説明と配信日時、進行手順、注意事項の説明だけであった。
配信日時は再来週の日曜日。自身のゲーム実況とマネージャーが組み込んだゲーム幽鬼組曲もまだ終わってなくて、来週にも配信があり、正直少ししんどい。
進行はチュートリアル、ストーリー、ガチャ、曜日クエスト、レベル上げ、イベントクエストと決められた。
そして私とサラサそんの同時に進行でガチャについて報告し合うことになった。
要はどちらが先に目当てのキャラを手に入れるかというもの。
まあ、ソシャゲといえばガチャだもんね。
たぶん切り抜かれるのもガチャのところだろう。
「ふう」
打ち合わせが終わり、ミラブレのプロデューサーと広報が出て行って、私は大きく息を吐いた。
「楽しみだね」
サラサさんが私に向けて笑顔で言う。
「楽しみ……ですか。どうして? 今回のコラボに? サラサさん、ソシャゲ好きでしたか?」
「ううん」
「じゃあ、どうして?」
「私もソシャゲ案件やってみようと思ってね」
つまり仕事をするということだろう。
「天井分のお金はくれるんだよね?」
サラサさんは自身のマネージャに聞く。
「はい。天井分の9万円はこちらで用意します。ただ、それ以上のガチャはそちらの責任ですので」
「オッケー」
◯
ガチャ芸というものがある。
それはガチャを回しつつ、赤スパを手に入れること。
「メテちゃんはできる?」
「できません」
私は即否定した。
今は事務所近くの喫茶店で私とサラサさんは向かい合って、おしゃべりをしていた。
そしてソシャゲの赤スパについての話になったのだ。
というかサラサさんはこの話がしたかったのではないだろうか。
「ああいうのは天賦の才みたいなものですね」
「私はできるかな?」
「難しいですね。ユーリさんにでも聞いては?」
ユーリさんはサラサさんと同じ2期生のVtuber。ガチャ芸で赤スパを大量に手に入れている。
「ううん。ユーリにねえ〜」
サラサさんは難しい顔をする。
「ユーリに聞くのもなー」
箱の皆は仲良しこよしかと聞かれるなら、それは違う。
Vtuberだから陰キャのオタクというわけではない。
アイドル系、モデル系など様々な経歴を持つ人、もしくは今も配信以外の仕事をしている人もいる。
そういった人が集まる中、気の合う人もいれば、気の合わない人というものも少なからず現れる。
サラサさんにとってはユーリさんがそれであろう。
同期だから仲が良いわけではない。
同期だからこそ相手をよく妬むもの。
「メテちゃんからユーリに聞いてよ。で、教えて」
「うえっ」
思わず変な声を出してしまった。
「お願い」
サラサさんが手を合わせてお願いしてくる。
「聞くだけ聞いておきます」
◯
『何? サラサに聞けっていわれた?』
速攻でユーリさんにこの質問にサラサさんが関わっていることを勘付かれてしまった。
「違いますよ」
私は
「案件で今度、ミラブレの配信をするんです。それでガチャを回すんですけど、ガチャ芸の秘訣とかあれば教えてほしいなって」
『ふーん』
怪しまれてるな。
「それで秘訣とかありますか?」
『ないね』
「あー、そうですか」
残念そうに私は告げる。
『そもそもガチャ芸って、爆死も含めた配信を指すから私のはガチャ芸とは言わないよ』
「そうなんですか?」
実はガチャ芸ではないという事実が発覚。
『うん。どちらかというとあれは赤スパ祭だよ』
「なるほど」
『ねえ、そのコラボ案件って、サラサも関わっているんだよね?』
「……はい」
どうせ後で判明するんだし、ここで嘘をつくのも得策ではない、と私は考えた。
『いいなー。私もコラボ案件欲しかったなー』
「そうですか。ゲーム実況とかSNSでアピールすれば、今度は案件くるかもしれませんよ」
『くるといいなー』
「で──」
では、これでと言おうとしたら、
『なんでメテちゃんに案件がきたんだろう?』
「さあ?」
『それに先にオファーかきたのはサラサだったんでしょ? なんでかな?』
「え?」
『しらばっくれなくても分かるから」
サラサさんに案件が先にきたとは伝えてない。
カマをかけているのか?
『聞いたの』
「誰にですか?」
『秘密』
「……」
『ガチャ芸については本当に分からない。あれは運ね。一度出来たら、それ以降も出来るみたいな感じかな? それじゃあね』
そして通話は切れた。
私は息を吐き、肩を落とした。
「しんどい」
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