金銭事情とお仕事

 Vtuberの収入源といえばスパチャを一般的に思い浮かべるだろう。


 特に赤スパは一万円。それが記念やクリア報酬などで大量に投げられる。


 一般の人はそれらを見るとVtuberはゲームをやってるだけで楽に稼いでいるなと思うだろう。


 でも、実際はそう呑気な話ではない。


 個人勢なら税金等も含めると4分の1程度。企業勢は運営事務所も含まれるので5分の1以下が手元に入ってくる。


 そして動画の広告収入もさほど多くはない。ショートに至っては五千円稼げばすごいと言われるほど。


 なら個人勢の方がまだ得なのかと聞かれると、必ずしもそうではない。


 企業勢にはグッズ展開を事務所に任せられるし、コラボ案件も持ってきてくれる。上手くいけばCDデビュー。


 ……CDデビューという言葉ももう古いか。


 つまりオリジナル曲を出せるということ。

 歌がバズって、アーティスト扱いされるVtuberもいる。コンサートやテレビにも出演。


 だから顔に自信はなくても、ガワを被って歌うVtuberは大勢いる。


 あとメン限についても色々と手伝ってくれるのも企業勢の特権。


 しかし、企業勢の強みといえばやはりという存在だ。


 有象無象のVtuberではなく、箱のVtuber。

 箱推しがいれば周知化される。


 さらに箱内でコラボもある。

 新衣装や3Dモデルも作ってくれる。


 収入は減るけど安定した配信生活が送れる。


 ただ、それは箱が人気であればの話。

 私の所属する事務所は残念ながら人気はさほどない。いや、あるよりのなしかな?


 まあ、私は1人ではやっていけない駄目な人間なのでバックアップしてくれる箱の存在は非常に助かる。


『明後日、事務所に来てもらいます』

「……明後日ですか? 何か案件でもきました?」

『はい。スマートフォンアプリのゲーム、ミラクル・ブレイブ・ヒッターの案件です』


 マネージャーが喜ばしいことのように言う。

 確かに案件は嬉しいことである。


「ソシャゲ……ねえ」


 けど私はあまり乗り気ではなかった。


 ミラクル・ブレイブ・ヒッターは人気のソシャゲ。やったことはなくても名前くらいは聞いたことがある。


 それを今さらコラボでプレイしても、リスナーからは完全な仕事として見られる。

 自由で楽しんでいる私ではなく、仕事で楽しんでいるフリの私。


 勿論、全てが自由ではない。切り抜きのためにプレイすることや流行りに乗ったりすることもある。


『今回は桜町さんの他にサラサさんも一緒に担当することになっております』

「サラサさんも?」

『はい』


 サラサとは2期生の完熟サラサのこと。


「珍しい。サラサさんって、ソシャゲ系はやらない人でしょ?」

『はい。向こうからオファーが来て、サラサさんもオファーを受けると言っておりました』

「どうして?」

『さあ?』


 謎だ。


『とにかく明後日お願いしますね』


 とマネージャーが言って、通話は切れた。


「えっ!? あっ……切れた」


 サラサさんにはオファーの断りを聞いているのに私にはないのかよ。


  ◯


 あの電話から2日後の昼、私は電車で事務所に向かっていた。


 自分で言うのもなんだが、私ほどになると電車ではなくてタクシーを使うものであるが、貧乏性ゆえに私は今でも電車をよく使う。


 駅を出て、事務所のあるビルへ徒歩で向かう。


 所狭しとビルが立ち並んでいるけど、歩いている人はギターケースを抱えている人や髪を染めた若い人が歩いている。


 まあ、それもそうだろう。ここはメディア業界のビルが多い。

 芸人、アーティスト、タレントなどなど。


 けど、歩いている人は芽が出てない者たち。

 これから芽が出るのか、それともずっと芽が出ないのか。


 少しでも売れるとタクシーを使うのはやはり──。


 そこでタクシーが一台、私の横を通り過ぎる。そして角を曲がった。


 その時に乗客が見えた。

 それは完熟サラサさんだった。


  ◯


 会議室に通されると先にサラサさんが席に座っていた。


「おはようございます」


 私が先に挨拶をした。


「おはよう。メテちゃん、遅いよー」

「時間より15分早いんですけど」

「私、ずっと待ってたんだよ。こっちにどうぞ」


 私は一つ開けてサラサさんの左隣に座る。


「嘘つかないでください。さっきタクシーに乗ってるサラサさんを見ましたよ」

「私も歩いているメテちゃん見たよ」

「なら文句言わないでください」

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