どうして富士は青いのか?
赤城ハル
私とマネージャー
Vtuber事務所のことを一般的に箱という。
そして箱に所属するVtuberを企業勢という。
そんな私は元個人勢の現企業勢。
企業勢になるとメリットもあればデメリットもあり、どちらが良いかと問われたら答えに困る。
ちなみに私は事務所に
◯
『提出物の期限が今日までですのでよろしくお願いしますね』
「……あ、はい」
『聞こえてます?』
返事が疎かだったため、マネージャーに問われてしまった。
「聞こえてます。わかりました。今日ですね。はい。すぐに送ります」
でも、仕方がないじゃん。今日の早朝まで配信をしていたんだから。
眠いし、喉も痛いし、しんどい。
『お願いしますね』
最後にマネージャーに念を押されて、通話は切れた。
スマホをマナーモードにしたのち、ベッドと敷布団の間に挟み、私は二度寝する。
◯
次に目が覚めたのは午後4時だった。
スマホにはマネージャーから提出物に関するメッセージが3件来ていた。
私は寝ぼけまなこで椅子に座り、パソコンを起動。
提出物とは、企画書や歌枠用とASMRの音声データのこと。
今回は企画書で、自分がやりたいゲーム、Vとのコラボ、3Dモデルを使った企画を書いて提出。
私はパッパッパと書いて、メールに企画書を添付してマネージャーに送信。
「よしっと」
私は椅子に座ったまま大きく伸びをする。
そしてパソコンは点けたまま、キッチンに向かう。
水を飲んで、冷蔵庫の中身を確かめる。
作り置きの
私は作り置きの回鍋肉を取って、電子レンジで温める。
そしてご飯とインスタント味噌汁も足して遅めの昼食をとる。
(いや、これはもう夕食かな?)
のんびりと昼食を食べているとスマホから着信音が鳴る。
相手はマネージャー。
水を飲み、口の中の残り滓を胃へと流す。
「もしもし?」
『桜町さん? ちょっと時間よろしいですか?』
本当はよろしくないのだが、私は「いいですよ」と答える。
『提出物の件でしたが確認いたしました』
「はい」
『問題はありませんでした』
(ん? なら、これはなんの電話だ?)
『サムネイルの方、出来上がったのでパソコンに送りました』
「確認します」
私は配信部屋に戻り、メールボックスを調べ、マネージャーからのメールを開封する。
そこにはサムネイルの画像データがいくつかあり──。
「幽鬼組曲? なんです? このゲームは?」
サムネイルの中に私の知らぬゲームタイトルのものがあった。
『今、流行りのゲームですよ』
そうじゃない。どうしてそのゲームのサムネイル用画像があるのかということ。
サムネイル画像は基本絵師に頼むことが多い。
そして誰が頼むかといえば、それはVtuber。
しかし、私が頼んだ覚えはないということは、マネージャーが私のアカウントを使って頼んだということだろう。
Vのアカウントはもしもの時のために事務所が使えるようになっている。
『切り抜きしやすいんでお願いしますね』
私は一度スマホを自身から離して、小さく溜め息を吐く。
「どんなゲームですか?」
『アクションゲームです。スケジュールも明後日と4日後のどちらがいいですか?』
ないという選択肢はないのか。
「他の配信もありますし……」
『空きはあるでしょ?』
スケジュールはマネージャーにも管理されているから、空きも把握済み。
「分かりました」
『ありがとうございます。切り抜きも桜町さんが美味しくなるようにしておきますね』
そして通話は切れた。
あの言い方だと、その切り抜きはマネージャーがやっているものだろう。
切り抜き。それはVtuberの名シーンを切り抜いたもの。
Vtuberの動画は2、3時間ものが多い。その動画を全部見るとなると大変。
そのため名シーンの切り抜き動画はVtuberにとって、良い宣伝にもなるので重宝される。
そして切り抜きをする人を切り抜き師と呼ばれる。その切り抜き師は一般の方から事務所の人までいる。中にはVtuberがやってることもある。
自分で自分の面白いとこを切り抜き、ファンと偽り、動画をあげる。シュールだろうが、これも売れるためのこと。
そして私のマネージャーは切り抜きをやっていて、今回は『幽鬼組曲』の切り抜きのため私にそれをしろと命じているのだ。タイトルがメインということは他にもVtuberがプレイしていて、面白い反応が多いということ。
前もって切り抜かれるとわかると「良い反応しないと」と意気込んでしまう。こういう時に限って、反応が下手になるんだよね。
リビングに戻り、冷めた回鍋肉をもう一度、電子レンジでチンする。
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