第2話 「特定しました」
「いらっしゃい! ライトニングヒカリさん!」
「あなたは……??」
「私はこの広沢相談所の社長、広沢勉(ひろさわ つとむ)だ!」
ニヤニヤしながらこちらをマジマジと見てくる。
相談と言っているのにどこか楽しそうで、でも多分ほんの少しの怒りがあるんだろうと、垣間見えた。
少し暗い雰囲気に包まれたこの相談所は暫くの沈黙が続いた。
「私は少し前から、ピアノの弾き語り系として動画投稿をしていて、爆発的な伸びもあって、今や大人気のインフルエンサーとして活躍していました。でも! みるみるアンチが増えていって、殺害予告されたりして、それにもう耐えきれなくなって、軽い鬱で……」
最初は自信ありげに話していたものの、だんだんと辛くなっていき、声量も落ちていく。
「んで!」
広沢さんが話を切り出す。
これも、また、ニヤニヤと。
「ライトニングヒカリがここを選んだ理由はもちろん……」
と尋ねてきたので、
「値段!」 「復讐!」
あれ?
広沢さんと同時にタイミングを揃えていったものの、口を揃えて同じことは言わなかった。
復讐……?
「復讐とは……?」
広沢さんが不思議そうに話し出す。
「うち、確かに安いは安いけど……そこじゃないっしょ!」
「え?」
「ライトニングよ! ちゃんと詳細は見たかな?」
そう言えば自分があまり詳細を見ずに、値段だけでカチッをしてしまったことを思い出した。
「いえ、すいません。あまりに安かったので……」
「そうかいそうかい! ここはね……復讐する場所だ。主に誹謗中傷……あいつらは名前も顔も出さずに、どこか知らない、見えない場所からボコボコボコボコ殴ってくるんだ!」
熱く語っていた、広沢さんの表情が急に冷たく変わる。
「でもさ……それって……クソキモくね?」
やっぱり、この人の身体の奥深くから沸々と感じる、怒りのようなものは間違いではなかった。
「ここは、そんな奴らに制裁を与える場所だ。法律……? いらないね。警察……? 無能。裁判……? するまでもない。ただあいつらの場所を確かめて、スパッ……おしまいだ」
なんとなく、ここがどんな場所か分かった。
「そんなこと可能なんですか?」
俺が聞く。
「可能だよ。君たちには話せないけど自分、凄いところと繋がってるんだよね。銃、手榴弾、日本刀、原子爆弾……なんだって用意できるよ。でもいかに上手くやるかは君ら次第……あくまで俺たちさ……」
広沢さんの目つきが変わる。
「代わりに殺すんじゃないよ、殺す手伝いをしてやるんだ」
少し興味が出てきた。
でも自分にとっては重大なことでも、他人にとっては、ただちょっと悪口を書いただけ。
死とは釣り合わない気がする。
し、結局罪悪感に襲われるだけな気がした。
「軽い制裁でもいいですか……?」
俺が恐る恐る聞く。
すると広沢さんは笑顔になって、
「もちろん! 君は優しいんだね!」
と言った。
「hey! カモン! 杉本ちゃんっ!」
と、広沢さんが誰かを呼ぶと、部屋の後ろの扉からとても美人な女性が出てきた。
20代前半くらいのボブカットでピンク髪の女性だ。
美人系も、可愛い系も持ち合わせたような人だ。
「どうかしましたかぁー? ん? この人見たことあるー!!」
女性は言った。
ゴホンゴホンと女性は誤魔化すような咳払いをして、続けた。
「失礼しました。私は杉本遥香(すぎもと はるか)ですっ! 主に犯人の特定係をしています。あなたはライトニングヒカリですよね? 私めっちゃ古参なんすよーっ!」
丁寧なのか適当なのか。
やる気があるのか、近づきたいだけなのかは分からないが、とりあえずここの職員だということは分かった。
「はい、ライトニングヒカリです。自分誹謗中傷に困っていて……」
というと、即座に、
「本当意味わからないですよね! あのコメント欄! 古参の私からしたら全員ぶっ殺してやりたいと思ってたところですよっ!」
傍目から、
「杉本ちゃん……どうしたのそんな怒って」
と広沢さんが言った。
「失礼しました……どのコメントの人ですか?」
と杉本さんが開きなおる。
「『この世から消え去れ』というコメントです」
「あー、このコメントめっちゃ話題になってましたよね。しかもこの返信も、『言い過ぎだってwwww』とか、『それなw』とか、許せない。成敗しましょう」
と言って、杉本さんがパソコンを開きカチカチして、数分経って、杉本さんが立ち上がって、言った。
「特定しました」
お前らの近くでちゃんと見てるぞ コーマ11 @koha0709
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