お前らの近くでちゃんと見てるぞ
コーマ11
消えたインフルエンサー
第1話 「この世から消え去れ」
「なんでそんなにピアノ上手なの!」
「綺麗な音!」
「ピアニスト目指せるんじゃない!?」
幼少期からピアノをやっていた。
特別好きでもなかったが、多分上手な方だった。
褒められるのが大好きで続けていた。
「歌もうまいしピアノも上手とかやっばい! センスの塊だよ! プロ目指しなよ!」
「光(ひかり)は家族の星だ!」
「SNSでもやればいいよ! いいねだらけだよ光なら!」
そして始まった……!
藤宮光(ふじみや ひかり)
18歳 男子高校生の動画投稿ライフが!
いや藤宮光改め……ライトニングヒカリの青春が……!!
チョン・キホーテで買った仮面をして……
住所の特定も気をつけて……
最近流行りのJ-popをめちゃくちゃ難しくアレンジして弾き語りした。
「センスやばっ!」
「俺たちは古参になれる!」
「本家より好きかも……」
こんなコメントで溢れた。
嬉しくてたまらなかったんだ。
友達もそこそこ、性格もそこそこ、彼女なんていない、成績も顔もすべてが平凡な自分にとって、唯一、光になるものを見つけた。
「ライトニングのライトニングだぁぁー!!」
部屋で叫んだ。
「光うるさい!」
リビングから母の罵声が飛ぶ。
恥ずかしがることはないんだ。
だってこれは、自慢できることなんだ。
学校のみんなに見られたって、褒められるだけじゃないか!
「顔も音楽家っぽくて素敵!」
「割と好きな雰囲気かもっ!」
「ファンクラブってありますか?」
こんな素敵なコメントで溢れていた。
みるみる登録者は増えて、2024年インフルエンサーランキング第8位にランクインした。
1割くらい、
「ぶっさ」
「何がいいんかわからん」
「別にピアノもそんな上手くなくね」
っていうコメントを見つけることがあったが、男子校に女子が入学してきて、そいつが男子の文句ばかり言っていても耳なんか貸さないものだ。
ん?
男子校じゃなかったけか?
ん?
あー、そうだ、共学だよ!
ん?
共学じゃなかったけか?
ん?
女子校だよ!
俺の学校は女子校だったんだ。
性格に言えば、男ども全員女に見えてくる。
「この世から消え去れ」
怖くてしょうがなかった。
しょうがなく動画投稿は続けていて、それなりに再生されても、その動画を見てるのは悪魔だけなんだと、実感した。
どこか相談所に相談しよう。
軽い鬱だと診断され、誰かを開示請求でもして、スッキリした方がいいと親にも言われた。
金額 150000
ただの高校生に払える額じゃない。
調べていくと下の方、条件に該当した127件中、127件目に驚くべき数字が書いてあった。
金額 500
は?
いやいや、そんなバカな。
行ってみよう。
名古屋市の栄に住んでいる自分。
偶然、その相談所も栄だった。
怪しいビルがあった。
1階から、マッサージ、風俗、雀荘……
4階に、広沢相談所と見えた。
階段を登っていく。
「失礼しまー…」 「いらっしゃい!」
自分が入り、挨拶をし終わるのと同時に食い気味に挨拶してきた。
メガネをかけた、若い理科の先生のような印象を受けたこの人は……
「ようこそ、広沢相談所へ! ライトニングヒカリくん!」
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