第6話

先生。


そう呼ばれて黒髪の女性が振り向く。

大勢の人で賑わう研究室の中でも、彼女は際立って目立つ。


恩師が行方不明になってから数年。

残した研究を完成、いやそれ以上に飛躍させ、世界的権威として名を馳せている。

その裏表なく、人畜無害でありながら、少しだけミステリアスな雰囲気を漂わせる姿に、多くの人が求婚した、いやしているらしい。


しかし彼女は、研究に身を捧げたと言わんばかりに、その一切を取り合わず、それどころかテレビにさえ映ったのは数回程度と、恩師である彼女の先生とは全く違ったスタイルだ。


彼女の研究は医学の進歩に大きく寄与しただろう。

そんな彼女は今、同じような分野の研究をサポートする毎日だ。

それぞれが自由な発想で研究し、その骨子を彼女が作っている。

ここを巣立った研究者も多く、それでもまだまだここで研究を希望する人は多い。


「先生は今も生きて、この研究の柱になっています」

一人残された彼女が、記者会見で語った言葉だ。

研究を引継ぎ、完成させてなお、先生を敬う彼女の姿勢には、多くの人が感動した。


彼女がいる限り、この研究室の未来は明るいだろう。

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