第17話 村人の人数は減ってしまったけど 悪い事ばかりじゃない


7月23日

あの地震から丸二日経った。

ほとんどの人はまだ、避難所である俺の家で休んでいる。

怪我をした人の手当てに関しては、昔から伝わる民間療法に詳しいタネ婆さんが居るから安心。

人が多くても、元々部屋は沢山余ってるから問題無いし。

自分の家が大丈夫だった人達は食糧を持って来てくれるし、料理して配ってくれる。

俺は場所を提供しているだけで、特に何もしなくていいし楽だけど。

気がついた誰かが掃除もしてくれるから、俺だけで住んでいた時よりむしろ家が綺麗になって助かっている。

元々全員顔見知りだし、大変な事が起きたけど皆んな近くに居ることで安心感もある。


野生の動物達は、ほとんど山に逃げたらしい。

残っているのは、誰かの家で飼われていたり、村人の家に出入りしていた動物達だけで、猫が25匹犬が11匹居る。


俺はリキと一緒に村を見て回って、倒壊した家屋がどこまで直せそうか確認したりしている。


7月24日

今月を振り返ってみると、ものすごい勢いで色んなことが起きた気がする。

今月初め頃に、村の開発に関する説明会があった。

色んな事が起き始めたのはその時からだった。

俺達は開発を阻止したくて色々と動いたから、それもあるかもしれないけど。

結果的には、開発を諦めてもらう作戦は失敗に終わった。

逆に相手を刺激してしまったかもしれない。

自治体の職員達が霊能者を連れてきて変なお祓いの儀式をやったりして、山に居る存在達を完全に怒らせた。

それであの車の事故。

こうなるきっかけを作ってしまったのは俺達でもあるわけだし、何とかしないといけない。

俺はリキの案内で山の主達に会いに行った。

開発を俺達が止めるから待って欲しいという願いを、山の主達は受け入れてくれた。

開発の話はまだ存在するわけだし、やらないといけない事は沢山あるけど、とりあえずは良かった。あの時は、そう思った。

だけどこのあと地震が起きて、死者は出なかったものの、怪我人が沢山出て村は酷い状態になった。


地震があった日にもリキと一緒に見て回ったけれど、潰れたり焼けたりして、とても住める状態ではない家が多い。

夕食の時に火を使っていたとしても、あんなにも酷く燃えて全焼状態になるものなのかと疑問にも思った。

あの日は俺も、消火作業を手伝ったけど。

中から徐々に燃え広がるのではなくて、短時間で外側から黒焦げになった感じ。

まるで火炎放射器かなんかで上空から焼かれたんじゃないかと思うくらいの酷さだった。

消火作業にも救助にも、村の外からはいつまで経っても誰も来なかった。

地震そのものが、自然発生したものではないとリキは言ってたし。

状況から考えて、俺もそっちの方が可能性高いんじゃないかと思う。


考えたくないけど、強行突破で開発を進める方針で、色々起こされてるのかもしれない。

リキが言ってたように、説明会に来てるような人達に何か言ったところで解決は無いと俺も思う。

もっと上からの命令で全てが動いてるとしたら、実行してる人達は言われた通り行動しているだけだから。

計画の全体像なんか知らない可能性も高い。


7月25日

リキからもタネ婆さんからも言われていたし、俺もある程度は予想していたけれど、村から出て行く予定の人がけっこう居る。

村には高齢者が多いけれど皆元気だから、一人暮らしをしていた人、老夫婦だけで暮らしていた人も、今まで不自由無く楽しく生きていた。

けれど今回の地震で家が潰れたり焼けたりして住めなくなった。これを機会に村に住み続けるのは諦めて、街に住む家族のところへ行くと言う。

怪我をしたことでちょっと弱気になった人も居るのかなと思う。

行き先があるということは幸せなことだし、良かったと思うべきなのかもしれないけど。

俺を含め全部で47人居る村人の数が、10人以上減ってしまう。

この事を思うと、正直やっぱり寂しい。

この村では、年を取っても皆病気知らずで活力に溢れていた。

それは、この村にある豊かな自然と食物のおかげだと思う。

俺もこの村で、そういう一生を過ごしたいと思っているのに・・・


俺の思っている事は、リキにはいつも全部伝わっている。

リキからは「分かるよ」という、ただそれだけが伝わってくる。

どんなに多くの言葉で慰めや励ましをもらうよりも、これだけで癒されるし安心する。

精神的に崩れそうな時も、リキのおかげで何とか立ち直れるし本当に助かっている。


7月28日

地震から一週間経った。

昨日からやっと、街からここに通じる山道が通れるようになったらしい。

その割には、村の外からは救助も何も来てないけど。


今日は、俺とリキが外を回っていた間に、避難所である俺の家にマイクロバスが来たらしい。

ここから移動して、落ち着ける場所に一旦避難して、村が元通りになったらまたここに戻ってこれるので乗ってくださいと言っていたとか。

俺は後から、タネ婆さんに聞いた。

壊れた家が住める状態になるまでの間、家族の所に帰る予定が無い人のための公的機関からの支援とかいうことらしい。

タネ婆さんが行き先を尋ねると「行き先は乗ってから伝える」と言われたとか。

行き先も分からないものに乗りたくないし何だか怪しいと思った人達は避難所に残った。それでも20人が乗って行ってしまった。


また、ごっそりと人数が少なくなった。

家が元通りになれば・・・とか言ってる割には、直そうという気配すら無いのも怪しい。

元通りではなくて、人が居ない間に開発を進めて、以前とは全く違う形にするつもりなのかと思う。


7月30日

家族の所に帰る人達は、街から迎えが来て皆んな去ってしまった。

やっぱり寂しい。


タネ婆さんの所に滞在していた茜さんは、まだ残ってくれている。

俺にとってはそれが救い。

村の暮らしがすごく気に入って、当分帰らないつもりだというのを聞いて、俺もめちゃくちゃ嬉しかった。

遊びに来ている時にこんなことになって災難だったし、すぐに帰ってしまうのかなと思っていたけど。

いい意味で予想が外れた。

この村が大好きな俺は、同世代の若い女性が「ここの暮らしが好き」と言ってくれるのは本当に嬉しい。

良太君もそうだけど、若い世代で村に残る人が増えていけば、村はこれからも存続していく。

茜さんがいつまで居てくれるのかは不明だけど、少しでも長く居てほしい。何ならずっと住んでくれたらいいのに。

街で両親の商売手伝ってるらしいし無理なのかな。

「それでもとりあえずは、茜さんが当分居てくれる事になって良かったじゃないか」と、リキから伝わってくる。

最初に茜さんを見た時から俺が「ちょっといいなあ」と思った事も、リキには多分バレてると思う。


茜さんに彼氏いるのかどうかは、まだ聞けてない。


村に残っている人間は、タネ婆さんと茜さん、寿江さん、喜助さんと良太君、善次さんとキクさん夫婦。それに、バスに乗らなかった人達と俺を足して全部で18人だけになってしまった。

この中には怪我人は居ないし皆んな元気だけど。

地震があった直後は人でいっぱいだった場所から、どんどん人が減っていって、今は人間より猫の方が多い。

それでも猫達が居てくれるおかげで、毎日癒されている。

「人間がずいぶんと少なくなったねぇ」

「なんだか寂しい感じになってきたけど、でも残ってる人間は皆んな元気そうだし何よりだねぇ」

猫達はそんな風に話していて、毎日ここでゆったりと寝転んだり、遊んだり、外を散歩したりして過ごしている。

村を離れて山に住もうかという話も相変わらず出ているけれど、急ぐ感じも深刻さも無い。

「どっちにしても何とかなる」と思ってる感じが伝わってきて、猫独特のそんな雰囲気に、俺達人間も救われていると思う。


















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