第13話 三体の山の主
「ここはどういう場所なの?異世界とか?」
草や木の枝をかき分けて歩きながら、和人がリキに聞いた。
「違う違う。そんなんじゃない。村の近くから山の方へ来て、もっと山奥に入っただけ。開発の事で山に住む存在達が怒ってるから山の主に会いに行くのに、違う場所に行ったってしょうがないだろ」
「まあそうなんだけど、あまりにも感じ違うから。それに途中で通ってきたあの階段とか・・・それから、門番とか・・・」
「ある一定の場所から奥へは人が入ってこないように、山に棲む存在達も色々考えてる。門番は大抵の人間には見えないから、あの入り口は誰も見つけられない。それよりもまず、あそこまでたどり着ける者は居ない。山道から入って普通に進もうと思ったらムジナが居て、入ってきた奴を化かしたりする。進んでいるつもりが気がついたら何度も同じ場所をグルグル回ってたり。そうなったら諦めて帰るしかなくなる」
「山で狸に化かされたとか、昔話でよく聞くもんな。あれってほんとなんだ」
「動物の狸とはまた違うんだけど。化かすのは妖怪だから」
「俺が今まで見た以外にも、色んな存在が居るんだな」
「ここへ来る時上りの階段があっただろ。あれだって妖怪なんだぜ。気が付いてなかった?」
「え?!ほんとに?生き物だとは・・・」
「布みたいな形状で、どこまでも広がれるしどんな形にもなれる。そういう妖怪も居るんだ」
「凄いな。下りる時の螺旋階段の方は?」
「あれは木の切り株から繋がってて、門番の体の一部。門番は切り株から分離して動くことも出来るんだけど、普段はいつも切り株と一体であそこに居る」
「妖怪って言っても、ほんとに色々居るんだな。人間に近い形の小さい存在も見たし。山の主っていうのも妖怪?人や動物じゃないよね」
「そこに居るよ」
「え?どこに?」
「今、和人が触ってる」
「・・・え?!これって木の幹じゃ・・・」
和人が触っていたのは、電信柱ほどの太さがあるゴツゴツした物だった。
下の方を見ると、それは鳥の足の形をしていた。
ものすごく大きいけれど、これはもしかして鳥なのか?
そう思って和人が見上げると、巨大で真っ黒な鳥の胸の辺りが見えて、遥か上の方に、尖った嘴と鋭い目があった。
漆黒の羽に覆われた全身の中で、嘴と目の色だけは血のように赤い。
その大きさだけでも怖すぎて、和人は腰を抜かしそうになった。
「知らなくて触ってしまってすみません!」
そう叫んで、バタバタと数メートル後ずさった。
「何だ?騒がしいな」
今度は背後から違う気配がして、和人に向かって声が飛んできた。
声と言っても耳から聞こえているわけではない。
リキと話す時と同じ、テレパシーだ。
その声の醸し出す雰囲気が、目の前に居る巨大な鳥よりもさらに威圧感があった。
振り向くのが怖い気がするけれど、かと言って見なくても余計に怖くて気になる。
和人は、思い切って声の方に体を向けた。
それは、鳥と同じくらい巨大で、狼のような姿をしていた。
全身の毛の色は白く、目は金色に光っている。
鋭く尖った二本の牙が見えて、和人はまた無意識に後ずさった。
別に攻撃されたわけでもないのに失礼かと思いつつ、でもやっぱり恐ろしかった。
自分は話しに来たのだ。
何か言わなければ。
そう思うのに、喉がカラカラに乾いて言葉が出てこなかった。
嫌な汗が噴き出してくる。
「大丈夫だよ。落ち着いて。深呼吸。ゆっくり」
隣に居るリキから、励ましが伝わってきた。
和人は、緊張して固まっている全身の力を抜いて、意識してゆっくり息を吐いた。
大地をしっかり踏みしめて、深い呼吸を一回。二回。三回。
そうしていると、頭に上がっていた気が下がり、だんだん落ち着いてきた。
「・・・少しだけ・・話を聞いてください。村で開発の話が進んでしまって、山の中でも何か色々あって・・・俺も村から来たんだけど、開発は止めさせたいと思ってます。その事で、山に棲んでる存在達は皆んな迷惑してるのも知ってます。怒ってるのもわかります。開発は止めさせるように何とかするので、どうか・・・もう少し待っていただけないでしょうか」
和人が言い終わらないうちに、近くで何やらボコボコと水音がし始めた。
驚いて振り返ると、すぐ近くに沼があるようで、そこの水面から泡が出ている。
丈の高い草の向こうで、沼の表面も枯れ草に覆われていたので気が付かなかった。
「え?!何か動いてる?何か居る?」
「山の主は三体なんだ。沼の主も居るから」
リキから答えが返ってきた。
その数秒後に、沼の中から巨大な魚が顔を出した。
体全部は見えなくても、水面に出ている頭の大きさからすると体長3メートル位ありそうに思えた。
沼に住んでいるらしいこの巨大魚は、金色に光る鱗に覆われている。
ギザギザの歯が鋭くて、和人はまたしても腰を抜かしそうになった。
リキがさっき三体と言っていたからこれ以上は無いのだろうと思い、何とか気持ちを落ち着かせようと呼吸を整えた。
自分の話しの内容に怒って出てきたのではあるまいかと思うと、余計に恐ろしかった。
このままここで食われるんじゃないかと思ってしまう。
けれど・・・怒っているエネルギーは伝わって来ない。
最初に山に入った時、ピリピリしたエネルギーが伝わってきて、山に居る存在達が明らかに怒っているのが分かった。
ここに来てからは、それは感じない。
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