第4話 妖怪出没作戦を計画する

6月9日

昨日の夜、リキは約束通り迎えに来てくれた。

二回目だからか俺もけっこう余裕出てきて、周りの様子を見ながらついて行った。

最初の時は見てる余裕なかったけど、俺達の他にも色んな方向から、猫達が集まってくる。

座る場所とかは決まってないらしくて、どこでも好きなように座っていいらしい。

色んな能力を持っている猫又のリキがリーダーかというと、そうでもないというのも聞いた。別に誰がリーダーというわけでもないらしい。

一応集まる場所があって、暗くなってからというざっくりした感じで時間が決まっていて、いつ会合をやるかは、誰かが言い出した時という事だった。

上下関係も無いし、開催日も時間もてきとうな感じが猫らしくて、なんかいいなあと思う。

そんな猫達の中に、俺も入れたことが嬉しい。


「ここも、その新しいタイプの街とやらの候補地になってるの?」

「どうやらそうらしい。少しずつ広げてきてて、こっちまで進むのは遠い先では無さそう」

「そうなったら住みにくいな。俺は、先祖代々あの場所に住んでるし、今更出てどっか行く気も無いし・・・」

俺がそう思っただけで、周りには伝わっていくらしい。

「人間って、家とか仕事とかあるから移動には不便だね」

「猫だって自分の縄張りとか、住み慣れた場所はあるけどね」

すぐに色んな反応が返ってくる。

「出て行かずに済んだら一番いいけど」

「だけどどうやって?だよね」

「候補地にふさわしくなくなればいいんじゃない?」

このアイデアを出したのは、俺の近くに座っていた三毛猫。

小さめの体つきで可愛くて、でも気の強そうな感じのメス猫。

「理由は何でもいいから、ここってあんまり良くない感じの場所だし避けようってなれば、候補地の話って無くなると思わない?」

なるほどそれはその通りだなと思う。

だけど・・・良くない場所だという評判を立てるためにどうするのか。

あまり物騒な提案が出てきたらちょっと引くかもと思ってると、そういう話は出なかった。

「例えばだけど。幽霊が出るとか妖怪が出るとか、そういう噂を立ててみたら?」

「実際、リキは妖怪だからね」

「そういう系の事で、ビビらせることができたらいいけどね」

「開発を進めたい人達は、最先端のテクノロジーを駆使した便利でかっこいい街のイメージを打ち出したいわけだから、そういうのってマイナスイメージになるでしょ」

「そうか。それはいけるかもしれないな・・・」

俺もそう思った。なかなかいいアイデアだと思う。

直接人を襲うとか傷つけるようなことでもないし、それがうまくいけば何よりだ。

隣の村もこの村も候補地になっているとあって、もうすでに調査に訪れている人間がいるらしい。

今年に入って、何度かそれらしい人物達を見かけたという話が出た。

今度そいつらが来た時にどうするか。

調査に来る時刻は大抵昼間だろうから、幽霊や妖怪が出る時間帯じゃない。

なので、来た時を狙うより、まずはそういう噂を流すことから始めようというので話がまとまった。

そこで人間の俺に期待が集まった。

ネットでの発信をうまく使って、ここの村の噂を流すこと。

皆んなが期待しているその作業を、これからやってみようと思う。

その後で実際に、幽霊、妖怪が出た現象を皆んなで作る。

なので万が一身バレしても、俺は見たことをただ発信しただけということになり、嘘でもないし村や誰かに対する誹謗中傷でもない。

俺だって、この村には変わってほしくないし、出て行きたくもない。


6月16日

一週間前の会合のすぐ後から、俺はネット配信作戦を開始した。

「写真に写ったのは妖怪か?!幽霊か?!」

みたいな感じで、実際にそれらしい写真を作って上げた。

暗闇で撮ったリキの写真だから、本物なわけで。

身バレを防ぐため、普段使っているものとは別のアカウントを作った。

全くの作り話を考えるより、元々それらしい言い伝えがあるならそれを活用しようと思い、村の人達に話を聞いてみる事もやった。

近所で付き合いのある人達、仕事で回っている家の人達にも、機会あるごとに聞いてみた。

そうすると面白いように色々と、昔から言い伝えられているこの地域の妖怪や幽霊の話が集まってきた。

若者は街へ出て居なくなるこの村はお年寄りが多く、昔からの言い伝えなどを知っている人が多い。

それは大いに助かった。発信出来るネタには困らない。

言い伝えの怪談を聞くと同時に、村の開発の話を知っているかということも聞いてみたが、これに関しては知らないという人ばかりだった。

猫達の情報をもらうまで、俺も知らなかったぐらいだから当たり前か。


猫達の会合には、今までトータルで4回参加した。

言葉で話さなくてもどんどん伝わってやり取り出来るから、人間同士話すよりも早い。

毎回思うけど、皆んな色んな考えを持っていて見た目も性格もすごく個性的。最初の時は「猫が沢山居る」しか思わなかったけど、何回か見ていると見分けられるようになってきた。

例の開発が始まった村から移動してきた猫達も居るとのことで、猫の数も最初よりだんだん増えてきている。

この前の時は30匹近く居たと思う。

話し合いも白熱していて賑やかだった。

白熱していても深刻にならないところが、何となく猫らしくていいなあといつも思う。


6月30日

話を聞いて回る事や発信の方が忙しくて、しばらく日記が書けなかった。

元々親しくて信頼出来そうな人には、村の開発の話と、それを阻止したいという思いを、話してみたいと俺は考えた。

リキにはこの事を最初に話したし、猫達にも伝わっている。

この村の暮らしに満足していて、例の開発なんか喜ばない人は多そうだから、話しても問題無いんじゃないかと猫達も思ってくれた。


動物達の方でも、犬、カラス、狸など、猫以外の動物達が、この事を知って対策を考えているらしい。この事はリキから聞いて、俺も動物達と直接コミュニケーションを取った。

動物とコミュニケーションを取れる人間は、この村だけでも他にも居るらしい。


この村で最高齢のタネ婆さんは、村の真ん中に立っている古い家に一人で住んでいる。たしか95歳かそれくらいだったと思うけど、自分の身の回りの事は全部やれるし、頭もしっかりしている。

漬け物を作るのが得意で、作った物を近所の人が預かって販売所で売っている。

タネ婆さんは、若い頃から色んな動物と話していたようで、今もそれは続いているらしい。

近いうち、一度会ってこようと思う。

この前リキが行ったら、姿を認識して話しかけてくれたという。


すでに話して、協力を約束してくれた人達も居る。

善次さんとキクさん夫婦。二人とも、温和で優しい。老舗の和菓子屋さんで、ここの菓子はすごく美味くて俺は子供の頃からよく買っている。家の修理や、インターネットを使っての店の宣伝は、逆に俺が仕事をもらっている。二人とも70代だけど、まだまだ元気な人達だ。


長年野菜作りを仕事にしている喜助さんは、65歳だけど筋骨逞しいおじさん。この年代の人にしては長身で、日に焼けてワイルドな感じがなかなかかっこいい。

喜助さんは、去年中学を出てすぐ村にやってきた孫の良太君と一緒に暮らしている。良太君は、この村でただ一人の十代の若者。野菜作りが好きで喜助さんの仕事を継ぎたいらしく、街にいる両親の元を離れて一人で引っ越してきた。この家に居るのが犬のシロで、シロともこの二人とも俺は気が合うしよく話す。


20年位前に村に移住してきた寿江さんは、服や鞄、布製の草履なんかを作って売るのを仕事にしている女性。じいちゃんばあちゃんが生きてた頃仲良くしていたから、俺もよく遊んでもらった。たしか今年還暦を迎えたとか言ってたけど、それでもこの村では良太君と俺の次に若い。


7月3日

一昨日の夜、タネ婆さんに会ってきた。

俺より先にリキが来ていて、縁側で長々と寝そべって寛いでいた。

いつも思うけどリキは、妖獣なのに緩い感じで緊張感が無い。こういうとこが猫らしくて好きだけど。

今まで話した人達と同じく、タネ婆さんも俺達の計画に協力的だった。

妖怪猫又の伝説も、この村にはあるらしく、その話も聞かせてくれた。

明日にでもさっそく発信したい。

「昨日の昼間も、この辺を見かけない奴がウロウロしてたねぇ」

と、タネ婆さんが言っていた。

いよいよ、開発候補地として本格的に調査が入っているのかもしれない。

夜でなく昼間でも、やり方によっては妖怪出没計画を実行出来るかと、猫達の会合でも最近話していたところだった。


この村は、全部の人口を合わせても50人に満たない。そして、住民の半分は80歳以上。

それでも介護を必要とするような人は0で、皆んな元気だけど。

俺が行っていた小学校も生徒数が減って廃校になったし、薬局も診療所もスーパーも、10キロ以上離れた二つ隣の村まで行かないと無い

今すでに開発が始まっている村も、ここと変わらないような所だったのに。

猫達の話によると、寂れた場所の方が土地が広く空いていて、新しい街を作ろうとするにはやりやすいのではないかという事だった。

たしかにそれはそうかもしれない。

今住んでいる人間を立ち退かせるにしても、人数が少なければ早く済むし、立退料としていくらか金を出すにしても安く済む。

一度今ある建物を全部壊してさら地にするにも、建物が少ない方がやりやすいに違いない。


「深刻な顔してどうしたんだ?」

背後に気配を感じたと思ったらリキが来ていた。

「近いうちこの村で、開発の説明会とやらがあるらしいぜ」

いよいよ来たか。

「その時を狙うのか?時間は?」

「まだ分からない。場合によっては昼間でも、何か仕掛けられないか考えよう」

























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