第二十九話:最強――開眼――やっぱりブック

 試験は勝ち抜きで上位を決めるブロックで分けられた。

 ボルドーを倒し、続く強敵(周囲曰く)を数人倒して、俺は先へ進んだ。


 次の試験は、魔法結界を突破するものだった。


 あるものは剣を構えて切り刻み、あるものは魔法で解除。


 だが作ったのはユベラだ。

 生半可な力じゃ不可能。


 彼女は、ふふふ、と笑みを浮かべて高みの見物をしていた。


 かなり手加減したのだろう。

 目を凝らしてみたが、いつもと違って著しく魔力が弱弱しい。


 俺はブックを使わないと決めた。


 慣れないが、剣を手に取って、結界の前に立つ。


 冷蔵庫のブオオオンみたいな音がして、ちょっと懐かしく思えた。


 そう、俺の集中力は長く続かないタイプだ。


「ダリス伍長、まさか剣術もやるのか?」

「一撃で切り刻みそうだぜ」

「真の姿があったとはな、ただの本好きじゃなかったんだ」


 本好きがバレていたことに驚きつつ、ちゃんと自分を知っていてくれたことに喜んだ。


 だが今は一点集中。


 目を瞑り、精神を統一する。


 こう見えて俺は、剣が好きだ。


 いやどうみえてかわからないが、本を読んでいたら必ず剣術使いが出てくる。


 一刀両断、悪即斬、一撃必殺。

 

 静かに息を吐いて、吸って、吐いて、吸って。


 そして、ふたたび目を開けた。

 

 渾身の力で剣を振り抜く。


 腰のひねり、ゴルフをするときのように回転させるのだ。


 手の力は抜いて、全身を使う。


 ――ガキイイイイイン。


「…………」


 そして――周りがざわめく。


「割れた、てない……え?」

「いや、ここからだ。数秒後、ドドドって」

「マジかよ、そういうことかよ……」


 しかし、いつまでたっても割れなかった。

 いや、割れるはずがない。


 いくら俺が速くて強いといっても、剣術なんてしたことはない。

 殴る蹴るぐらいは身体能力で何とかなるが、魔力もないのだ。


 よく考えたら割れるわけがない。


 すると――。


「エヴィアン様が、いいわよって」


 隣で見ていたユベラがそう言った。


 今回はノーブックでいく。


 本は使わない。


 だが、便利な言葉がある。


 ――前言撤回だ。


「ブック」


 俺は、生まれて初めて(一応あるが)大勢の前で本を出した。

 黒い上級魔法紋章、いかついブックに騒ぎはじめる。


「嘘だろ。魔法使いだったのか!?」

「だから剣術が……そういうことなのか」

「すげえ、今まで隠してたのか。じゃあ、ボルドーを倒したのは、身体能力強化!?」


 時間をかければかけるほど変なことになりそうなので、俺は急いでブックした。


 壱ノ型――本本閃!!! 知らんけど。


 次の瞬間、結界が粉々に砕かれる。


「ご、合格です」


 隊長がまたもや目を見開いて答える。

 周りは、何をしたんだ? え? 魔法撃った?


 いつ? 殴った? いや、どういうこと?


 詠唱した? 聞こえた? 


 みたいな疑問で溢れている。


 ただの鈍器なんだ。すまない。


 これだから見せたくなかったのだ。


 ああ、恥ずかしい……。


 しかし――。


「すげえ、ダリス伍長!!!」

「結界が粉々だ。よくわかんねえけど、すげええええええええええ」

「ユベラ様の結界をあそこまで……」


 またもや称賛された。


 今まで俺は恥ずかしいと思っていた。

 本は好きだが、失礼な行為だと。


 それにダサいとも考えていた。

 だが違うのかもしれない。


 何だかもっと、本が好きになりそうだ。


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