第二十一話:蛮族の王、徒労の好きなもの
アントラーズ国では、様々な人種が住んでいることもあって外食産業が盛んだ。
種族によって好みが違うからだろう。
たとえば獣族は肉好きな連中が多く、量もたらふく食べる。
エルフならベジタリアンが多く、味付けは薄めで、量よりも味付けにシビアだ。
俺みたいな人間は、暖かいスープや柔らかいものを好む。
日夜会議が行われる中、俺は秘書官として新たな任務を請け負っていた。
それは、外交任務。
新しく陣営に加わったお偉いさんに国を案内し、楽しんでもらう。
そして俺の横では、とにかく何もかもデカい女性が歩いていた。
胸ははだけてたゆんが揺れ、腰つきはくびれていて、身長も大きい。
お目目はぱっちり、鼻筋スラリ。
褐色肌が良く似合う蛮族の王――
「知らない間に、随分と下界も変わっておるな」
「ずっと山に住んでたってわけじゃないのか?」
「当たり前だろう。他国へ出向いたりもするぞ」
「へえ、そういうのに興味がないかと思ってた」
「あれは大変だったがな。城を燃やしたときは愉快だったが」
「……何の話だ?」
「戦争に決まっておるだろう。それ以外に何がある?」
……そういえば数年前、国一つが、蛮族によって壊滅したと聞いた事がある。
今の質問はなしだ。
「た、たとえば観光とか、ほら飯とか」
「そんなもの山で獲れる。下界は他人に対価を支払って胃を満たすのだろう。一人前とはとても言えぬな」
「それはほら、適材適所ってやつだ。戦闘に向いている人もいれば、料理を作る人もいる。狩りが好きな人もいるしな」
「ふん、どれも己の力で行えばいい。他人に期待するのは違う」
エヴィアンとはうまくやっているらしいが、やはり根本は俺たちのことが嫌いみたいだ。
蛮族の民は確かに全員が筋肉質で、猛獣とかも一人でやっつけられるんだろうが。
だがこれこそが今日の裏任務。
徒労は外交には積極的だが、国を快く思っていない。
観光を通じて、その気持ちを変えてくれてほしいというのが、エヴィアンのお願いである。
「それになんだ? なぜ男たちは私をみる? 蛮族がそんなにめずらしいのか?」
通りすがり、男たちはみな、徒労のスタイルの良さに目を向けていた。
「……いやそうじゃなくてな」
「なんだ?」
「な、何でもない」
「ふん、気にくわんな」
うーん、幸先が不安だ……。
「と、とにかく色々アントラーズを案内するぜ」
「そうだな。よろしく頼んだぞダリス」
それから俺たちは、アントラーズの神殿や噴水、公園を廻った。
綺麗なところばかりで、きっと徒労も満足するだろうと。
「何だこの場所は?」
「神殿だよ。それぞれの神にお祈りできる場所なんだ」
「山の神は、こんなところにおらん」
「なんだこの天に伸びた水は?」
「綺麗な噴水だろ? 休日は家族連れで賑わうんだ」
「山の水のが綺麗だな」
「この草はなんだ?」
「アントラーズ公園だよ。落ち着くだろ?」
「山と比べるとただの地面だな」
だが、すべてが山基準で、何を言っても山山山山。
普段は温厚な俺も「そんなに山が好きならもうよその山になっちゃいなさい!」と言いそうになった。
いや……落ち着けブックマン。
人は誰しも先入観がある。
徒労は山の民で、外の連中は敵だと思っている。
蛮族も色々と苦労したとのことだ。
とはいえ、何の決め手もないまま夕方。
飯を食べようにも、お腹は空いてないと言われた。
今まで任務を失敗したことはないが、今回ばかりはダメだった。
人の心ってのは難しい。
「徒労、ありがとな」
「……何の礼だ?」
「あんまり楽しくなかったのに、一日中付き合ってくれて」
「……そんなことはない。下界は好かんが、お前が一生懸命なのは伝わった。それだけでよい」
「そうか」
嬉しい言葉だったが、残念だった。
しかしそのとき、俺たちの横に通った若い女性に、徒労が視線を向けていた。
「これ美味しいね」
「うんうん、クマクマキャンディだってさ。これ、はまりそう」
「他にも色々味があるらしいよー」
食べていたのは、クマの形をしたアイスキャンディだ。
最近流行っていると聞いた事がある。
果実と砂糖で味をつけて、それを氷にまぶして凍らせる。
ストロベリーにメロン、ブリーベリー。
何よりも見た目が可愛い。
徒労は、ああいうの好きじゃないんだろうな――。
「…………」
そのとき、徒労の目が明らかに違った。
これは、俺が欲しいけど買えない本を見ているときの目だ。
あれ、意外にも乙女……?
――――――――――――――――――――――
あとがき。
徒労の様子が……(/・ω・)/
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