第二十話:魔戦特務隊

 蛮族の王、徒労は、アントラーズ国で日夜、エヴィと作戦会議をしていた。

 俺は頭を使うタイプではないので、仕事を終わらせた後は、本を読んだりのんびりと過ごしている。


 今後は、また忙しくなるだろう。


 ユベラも忙しいのでクッキーを食べられないのは少し悲しい。

 ちなみに階級は少しずつ上がって、ようやく伍長になった。


 新兵も入って来たので、たまにだが偉そうに「うむ」とか言いながら挨拶したりもしている。

 これが偉くなることかと、余韻に浸りながら。


 少し早起きした俺は、秘書官の特権を使って、王城の廊下で街を眺めていた。

 ここから見ることのできる景色は、特別に素晴らしいものだ。


「……魔戦特務隊か?」


 そのとき、遥か下の裏出口で、ケアルを含む隊員らが出ていくのを見つけた。

 いつもとは違う一般的な装いで、こそこそと。


 全員で出かけるとは、やっぱり仲良しなんだな。


 しかし、俺の地獄耳が捉えた。


「バレないようにいくぞ」

「「「「了解」」」」



 バレないように……?


 ……少し尾行ブックしてみるか。


 小国といっても、アントラーズは広い。

 移民も多いので、自然と人種でエリアが分けられている。


 法律のおかげで治安は保たれているが、突発的な事件や喧嘩は止められない。


 魔力感知をしながら後を付けていくと、辿り着いた場所は教会だった。

 大きな門もあり、その中で彼女たちが動いているのがわかった。


 信仰者とは知らなかったが、バレないようにとは何だろうか。

 軍ではそれぞれの神に祈る事は許されているし、宗教の自由もある。


 おそるおそる中を開くと、そこには誰もいなかった。


 ……あれ?


 よく見ると、奥の扉が開いている。

 そして――いい匂いがする。


 そのとき、後ろから叫び声が聞こえた。


「あーーー! 泥棒だー!!」

「え、泥棒!?」

「わあああああ」


 振り返ると、そこにいたのは教会の人ではなく、子供たちだ。


「え、いや違っ!?」


 その次の瞬間、後ろに気配がした。

 おそろしく早い手刀。


 だがそれを、ブックで受け止める。


「――!? ダリスか。なぜここに」

「びっくりした……ケアルこそ、なんでここに」


 俺に攻撃を放ったのはケアルだった。

 子供たちが騒ぐ。


「ケアル姉ちゃん、泥棒だよー!」

「悪い人だー!」

「やっつけちゃえ!」


 しかしケアルはふっと警戒を解いて、しゃがみ込む。


「この人は私の友達だ。大丈夫だよ」

「え、そうなの?」

「ええええ、ご、ごめんなさい!」

「お兄ちゃん、ごめんなさい!」


 突然の光景に思わず驚いていたが、後ろから今度は隊員たちがやってくる。


「ケアル様、大丈夫ですか!?」

「泥棒!?」

「むむっ、ダリス!?」


 全員がなぜかエプロンをしている。

 いや、よくみるとケアルもだ。


 この匂い……もしや、カレーか?


「ダリス、悪いがお前を帰すことはできない」

「……ふぇ?」


   ◇


「僕が並んでたんだぞ!」

「違う。僕がさき!」

「私だよー!」

「落ち着け落ち着け、ちゃんと全員分あるから」


 小さな子供たちが、大勢並んでいた。

 そして俺は、器にカレーを入れていく。


「ありがとうおじちゃん!」

「お兄さんだ」

「ありがとう、おじいさん!」

「急に歳取りすぎだろ」


 ここは何と、教会でありながら孤児院だそうだ。

 エヴィアンの意向で、戦争孤児を多く受け入れ、支援している。


 だが贔屓しすぎることはできず、こうやって兵士がわざわざ出向くことはあまりない。

 何か問題があったとき、ケアルのような地位の高いものは危険だろう。


「悪いなダリス。そして、本当にありがとう」

「気にすんな。それより――凄いな」


 隣を見ると、魔戦特務隊の隊員が意欲的に働いていた。

 もちろん無給。

 

 わざわざしゃがんで声を掛けたり、足りるか足りないかを尋ねたりしていた。


 ……休日なのに。


「私たちは貴族生まれだ。明日の未来を不安に思ったことなんてなかった。だが戦場に出てから意識が変わった。自分たちはただ恵まれていただけなんだと。初めは私だけだったが、ある日、彼女たちにバレてな。笑われるかと思ったが、呼んでくださいと叱られた。それからは時間があれば来てるんだ。週に一度、国から配給はあるが、たらふく気兼ねなく食べれられるほどじゃない」


 ここの食糧はすべて、ケアルたちが給料を出し合ったらしい。

 前日に仕込みまでしていたとのことだ。


 俺を帰さないといったのは、黙っていてほしいということで、手伝いを強制されたわけじゃない。


 ただ、俺も傍観したくなかった。


 これからはしっかりと現実を受け止めたい。


 前を向いて、誰かの為に、己の為に、前に進めるような。


 今日ばかりは、ブックは必要ない。


「凄い。本当に凄い。立派なことだ」

「……普通だ。これは、普通の事なんだ」

「……そうか。そうかもな」


 持てる者が持たざる者を助ける。これはエヴィアンがよく言っていることだ。

 ケアルはその言葉が好きだ。

 俺も好きだったが、本当の意味ではわかっていなかった。


「よしケアル、後は任せてくれ」

「……お前は本当にいい奴だなダリス」

「? どういうことだ?」

「そのままの意味だ」

「よくわからんが、ありがとな」


 カレーも配り終え片付けをしていると、隊員たちがやってきた。

 俺のことを毛嫌いしていたはずだが、大丈夫だろうか。


「ダリス、片付けありがとね」

「ありがとダリス」

「格好よかったよ、ダリス」

「お、おう」


 なんだ、随分と今日はご機嫌だな。


「続きは私たちがやるから、ケアル隊長のところ手伝ってきてあげて」

「え? いや、大丈夫だ。最後までちゃんと――」

「いいから早くいってきて」

「うん急いで」

「いいから早く! ダリス」


 いや、やっぱり怒っているらしい。

 わけわからんブック。


 でも、楽しかったな。


   ◇


 ダリスとケアルが並んで休憩しているところを、魔戦特務隊の隊員がこっそりのぞいていた。


「ああもう! ケアル隊長もっと声かけなきゃ!」

「うう、みていてハラハラする」

「あ、でもケアル隊長笑ってるよ」

「本当だ……良かった」


 隊員を失ってから、ケアルは笑わなくなった。

 だがダリスが現れたから笑顔を見せるようになっていった。


「……ムカつくけど、許してやるブック」

「ふふふ、それダリスの物まねじゃん」

「今度、女の扱い方って本、プレゼントしよっか」

「いいね、賛成!」

「ケアル隊長を泣かせたらぶっ殺すけど」

「だねー」


 

――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 仲を深めているブック(/・ω・)/

 

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