第十六話:ブックメンvs蛮族

 蛮族とは、分かりやすくいえば未開の部族のことである。

 ただ、彼らには知性がある。


 エヴィ曰く、蛮族の拠点はアントラーズ国から東の山で、今後の軍事活動において最も重要な場所に位置付いているとのことだ。

 彼らとは過去、友好関係にあったとも記録されている。


 だが今は冒険者が山に侵入したあと襲われたりなど、敵対関係にあるといってもいい。


 ①蛮族を説得し、軍事拠点としての場所を確保、通行経路を許可。

 ②蛮族を蹂躙し、支配国として手腕に収める。


 そのどちらでも構わないが、この成功なくして世界統一はありえないという。


 つまり今回は、おそろしく重要でかつ危険な任務だということだ。



「……そのわりに、人少なくないか?」

「できれば穏便に説得を試みたいじゃないですか。ほら、私ってどちらかというと温厚タイプなので」

「うふふ、言葉が通じなくても、血を血で洗えばいいわよねえ」

「隊員は入口で待機しております。残り部隊も既に準備が終わりました」


 いつもとは違った服装、軽装備の冒険者風に身を包んだエヴィが、顎に手を置きながら微笑んでいた。

 隣にいるのはネイビー色の魔女ローブのユベラと、全身漆黒のショートパンツと黒タイツに身を包んだケアル。


 そして俺――いつもの変わらない緑の軍服。


「俺だけ一般すぎないか?」

「似合ってますよダリス」

「確かに、格好いいわねえ」

「……かわいい」


 テンションに関係するので、いつか俺にも格好いい服装を用意してほしい。

 俺たちは、四人でまず説得を試みるとのことだ。

 敵意がないことを示すため、最小限の人数で、と。


「にしても、エヴィは待機してたほうがいいだろ。危険すぎる」

「私の顔は知っているでしょう。交渉の本気を示すためですよ。それに、あなた達を信用していますから」


 彼女の言う通り、俺がもし蛮族の王なら、大勢をぞろぞろ引き連れての”説得”なんて鼻で笑うだろう。

 それこそ全面戦争になってもおかしくない。


 だが少ない人数で、更に国のトップレベルがくれば別だ。

 ヴォルデックが王のままなのは、もしエヴィが亡くなっても実質的に意味がないからとも自分で言っていた。

 だからこそ大胆なことができる。


 ただ頭でわかってもそれを実行するなんて怖くてできないが。


「エヴィアン様、私の命にかえても、あなたをお守りします」

「ケアル、頼りにしているわ」

「……ああ……」


 エヴィがケアルの頬を撫でると、鼻血を出しながら啓礼した。

 戦闘力を下げないでください。


「なら俺が先頭でいいか? 次にエヴィ、ケアル、最後はユベラ」


 偉そうにいったあと、一番階級が低い事に気づく。

 だが、誰一人として文句は言わなかった。


「……すいません」

「あなたが一番強いのですから、それで構いません」

「それでエヴィアン様、相手からの先制攻撃はどう対処するのでしょうか?」


 ユベラの言う通りだ。もし攻撃された場合、説得のしようがない。

 むしろ、その可能性は高いだろう。


「その場合は、殺さない程度に気絶させてください。彼らの共通点は強者が好きなことです。説得も、それに含まれていますから」


 凄い説得だなと思いつつ、異世界なら普通かもしれないと納得。

 

 一応、入口付近には、イカロス・ジュドウや、前回のトイ隊長率いるロンゾ、ヘッド、ウルゴスたちも待機している。

 他にも大勢の兵士が。

 俺のことを知らない奴らには、通訳だと話しているらしい。

 すると、俺が大事に抱えていた本を見て、エヴィアンが首をかしげる。


「その本はなんですか? ダリス」

「『ゆきびりげまん』という本だ。どうしても通じない場合は、この本を見せようと思ってな」


 中を開くと、小さな男の子と女の子が、約束だよと小指をくっつけてぶんぶんしていた。

 言葉が通じない可能性があるなら絵を見せる。これが、本の強さでもある。


 するとなぜか笑われた。


「あっははは、おもしろいですねダリスは」

「それでわかってくれると嬉しいですね」

「……かわいい奴め」



 そして俺たちは、山の中に入っていく。

 草木はあまりなく、左右には壁がそびえたっており、岩が落ちてきたり崩れてきそうで怖い。


 彼ら、あるいは彼女らは、ここで暮らしているのだろうか。


 できれば穏便に行くといいが。


「ドルビアンヌ!!」

「ンンドラゴル!?」

「エドナ、エドナ!」


 しかし突然、俺たちの前に現れたのは、いかつい面をかぶった男たちだった。

 上半身裸、筋肉が凄まじい。


 当然だが、何を言っているのかわからない。


「ふふふ、だそうですよ」

「エヴィ、わかるのか?」

「ちょっとだけです。ダリス、よろしくお願いします」

「……そういうことか」


 俺は『ゆびきりげんまん』の絵本を広げながら歩く。

 早速役に立つとは思わなかった。


 一応、吹替もしておこう。


「男の子は言いました。僕たち、仲良くしようよ。女の子も言います。わかった、そうしよう――」


 だがそのとき、絵本の男の子の顔が突き抜けて槍の先端が飛び出してきた。

 ……え?


「エドナ! エドナ!」


 そういいながら駆けてきたのは、男たちだ。


「ちょ、ちょっと!? 槍は小指じゃないよ!?」

「エドナ!」

「――ちょっと!?」


 ――ブック。


「エド!?」

「悪いな、おやすみブックだ」


 ブック×3で蛮族を気絶させる。

 なぜだ。俺は仲良くしたかったのに。


 というか――。


「『エドナ』って何だったんだ……エヴィ」

「殺せ、だと思います。おそらくですけど」

「あの……先に教えてもらえますか?」

「よろしくお願いしますとは戦ってほしいとの意味だったんですが、言葉は難しいですね」


 掛け違いで殺されちゃ困るぜ。

 しかしこうなった場合、どうするか。


「蛮族の王は聡明だと聞いています。おそらく私たちの言葉は理解してくれるでしょう。それまでは、今の通りでお願いします」

「「「了解」」」


 もしかしたらページが悪かった可能性もある。

 次は4ページ目、ゆびきりげんまんバージョン2で試してみよう。

 



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