第十四話:反逆
次の相手は蛮族らしいが、大規模な任務になるらしく、その前に新しい任務を自らお願いした。
その理由は、俺自身が他の兵士と絡んだことがほとんどないからだ。
軍の心得はあるものの、しっかりと話して、感じて、仲間になりたい。
ということで、俺は――とある小隊に叩き込まれていた。
「あいつ突然、誰なんだ?」
「わかんねえ。上等兵だってよ」
「ロンゾ、お前行って来いよ。同じ階級だろ」
「……そうだな」
山のふもと、大きなテント内ではあるが、声が丸聞こえだ。
ここまで馬車で来たが、その中でも視線が痛いほど突き刺さっていた。
ふて寝しようとしたが揺れが激しく酔ってしまったので、突然現れた三半規管の弱い上等兵と思われているだろう。
「よろしくな。俺はロンゾだ」
「は、はい!」
俺に声をかけてきたロンゾ上等兵は、軍式の短い髪をしていた。
頼りになりそうな大きなガタイ。
仲間に言われて俺に声をかけにくるってことは、いい人なんだろう。
小隊からしても、突然に仲間ですと言われて困っているみたいだ。
……やらかしたな。
「そう緊張するな。俺たちは仲間だろう」
「……ありがとう」
やっぱりいい奴だ。
ロンゾは隊員の元に戻っていく。
「あいつのポケットに『反逆』ってタイトルの本あったぜ。要注意かもな」
「マジかよ。レジスタンスの可能性があるってことか?」
「……匂うな」
「油断せずいこう」
本のチョイスミスったあああああああああ。
どうせなら軍について造形を深めておくかと持ってきたが、なぜこれを選んでしまったのか。
どんな内容? とか聞かれたらマズい。
「反逆ってどんな本だっけ? 知ってるやついるか?」
「聞いた事あるけど覚えてないな」
「あーなんだったかな……思い出せそうだ」
「……ふむ」
や、やめろ。思い出さないで。思い出さないでくれ!
ええと確か、一人の隊員が……と誰かが言い始めたところで、外から声がした。
ナイスタイミングすぎる。
慌てて外に出ると、そこにいたのは魅惑の魔女、西の悪魔、もといユベラだった。
「みんな長旅お疲れ様。でも、ここからが大変よ。既に説明はあったと思うけど、魔狼は群れで行動する。気づけば背後から、なんてことはよくあるわ。前に敵がいたら、後ろにもいると思いなさい。それぞれ背中を守り合いながら戦うこと、わかった?」
格好は変わらないが、口調は少し違っていた。
彼女もやはり上に立つものとしてしっかりとしている。
俺はエヴィの秘書官としてではなく、ダリス上等兵として任務に参加しているのだ。
今日は、森の中で繁殖しすぎた魔物を倒す。
仲間にはまだ認められていないが、連携の邪魔をしないように動こう。
了解が木霊すると、それぞれが小隊ごとに動く。
ユベラはテントに戻る前、俺に顔を向けてウィンクした。
頑張ってね、と。
「さて行くぞ。今回はダリス上等兵が参加しているが、基本の動きは抑えたままでいく。ダリス上等兵はできるだけ隊の中心で動かず、指示に従ってくれ」
「了解」
金髪の刈り上げ、トイがこの小隊のリーダーだ。反逆の内容を思い出そうとしていた人でもある。
後はウルゴスとベッド、でさっきのロンゾだ。
そこにダリス。なんか響きは気持ちがいいな。
「では出発する。ああそういえばダリス」
「はい?」
「反逆の本の内容って、どういうのだ?」
「……いや、これなんかその……落ちてたやつで……」
「落ちてた?」
何とか誤魔化したが、そろそろヤバイ。
◇
「ロンゾ、ベッドは左右を、ウルゴス前を頼む。俺は後ろだ。ダリスは、それぞれに危険はないか見てやってくれ」
「「「了解」」」
トイの指示は見事なものだった。俺に負担を感じさせず、魔狼が現れても怯えず、それぞれ剣を構えた。
アントラーズ軍は剣士が多い。魔法使いはごく少数だが、ユベラのような強者が多い。
俺は戦闘に参加するのではなく、魔力探知の隊員としてここにいる。
今も戦闘前に魔狼に気づき、おかげで少し仲間から認められた。
魔狼を問題なく倒すと、トイが嬉しそうに声を上げた。
「ダリス、いい探知だった」
「とんでもないです」
「敬語なんてなくていい。俺たちは仲間だからな」
トイはいい奴だ。常に声をかけてくれる。
だが他の仲間は不満そうだ。それもそうだ。いくら感知がよくても命のかかった戦闘によそ者が入り込んできたのだから。
それも、謎の秘書官が。
だが俺も仕事はキッチリこなした。
想定外の空からの魔物にも気づき、何体も駆逐していると夕方になろうとしていた。
「そろそろ時間だ。ロンゾ、ベッド、ウルゴス、ダリス怪我は?」
「まだまだやれるぜ」
「……いける」
「問題ない」
軍でいうと階級は低いが、それぞれがかなりの使い手らしい。
なるほど、エヴィがここに入れてくれた理由がよくわかる。
だがそのとき、俺はとんでもない魔力を感じた。
声を荒げると、なぜ今まで気づかなかったのかわかるほど大型の魔物が現れた。
デカい魔熊だ。
そうか、冬眠していると魔力が消えるめずらしい魔物と本で読んだことがある。
この力強さ、ガタイ。逃げる相手にもめっぽう強いと書かれていた。
「――全員、剣を構えろォッ!!!」
トイは優秀だった。
一瞬で気づき、俺に文句の言葉を吐きかけることもなく剣を構える。
「ダリス、下がってろ!」
「後ろを見ていてくれ」
「……いくぞ」
そして隊員たちも。
俺に対し、戦えないとわかっているからか守ってくれる。
……いい奴らだな。
だが魔熊はかなり強い。
魔力に剣をのせても刃が通らないと言われている皮膚。そこから繰り出されるカウンター攻撃で頬をえぐりとられるのだ。
エヴィからあなたは戦わないでと言われていた。ユベラがここにきたのも、何かあった時の為だ。
だがこれは想定外。間に合わない。
「行くぞ!」
「トイ、俺に任せてくれ」
俺は、隊長の前に出た。
彼らと共に一日を過ごした。少なくとも、俺は仲間だと思っている。
見捨てることなんてありえない。
「ダリス、何を――」
グオオオオオオと魔熊が突っ込んできた。
俺の大胆な動きが、隙があるとみたのだろう。
だが――。
「――ブック」
本を手に持ち、狙いを定めた。
痛みはないようにする。
悪いな。
「おやすみブックだ」
一撃で本のカドをぶつけると、半分以上が地面にめり込んだ。
それを見ていたトイ、ロンゾ、ベッド、ウルゴスが目を見開いて口をぽかんとあける。
「は、はい?」
「え、いまのなんだ?」
「……嘘だろ?」
「なんだと」
ヤバいな、と思っていたが――。
「おいスゲエじゃねえか!」
「ハッ、おもしれえ! 何だよ化け物みたいな強さしてんな」
「ヤバすぎだろダリス!」
「……かっこいい」
俺の肩を掴んで、彼らは歓迎してくれた。
だがみんなには俺の強さは黙っててほしいと答えた。
色々と作戦があると伝えると、当たり前だろと言った。
「俺たちは仲間だ。安心しろ。誰にも言わない」
たった一日。それでも命を預けた仲間だといってくれた。
ああ……いいな小隊ってのは。
それから時間になったので山を下っていると、トイが嬉しそうに声を上げた。
「そうだダリス!」
「何だ?」
「反逆って、どんな内容なんだ? 見せてくれよ」
「……え?」
「俺も聞きたかったんだよ」
「そうそう」
「……気になる」
俺は固まった。怖くて言えなかった。
なぜこれを持ってきたのだろうか。不安で仕方がない。
大好きな本、でも今日は多分、読まないだろう。
タイトル:反逆
著:アンガー・バルドス。
ジャンル:サスペンスホラー。
内容:とある小隊に入ってきた謎の青年。だが彼は正体は
仲間に心を許したかのように油断させ、一人、また一人と殺していく。
普段は温厚で感知能力に長けており、ときには仲間を守る一面も見せる。
だがそれもすべて、裏切られた仲間を見る姿が楽しいからである。
――――――――――――――――――――――
あとがき。
何とか誤魔化せるのかなー(/・ω・)/
まだレビューがないので、今なら一番目になれますよ!!!!
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