第十二話:最強ウルトラハイパーブック

 俺が所属しているアントラーズ軍、および国は、元々小国として誰からも認知されていなかった。

 だがそれは、とある男が王となってから劇的に変化した。


 ヴォルデック・エルリー。


 彼が行ったのは徹底的な法律の見直し。

 下が上に搾取されないように税率をしっかりと調べなおし、外国からの輸入も積極的に行っていった。


 彼は、王家の中で最も賢く、外交に長けていた。

 小国がみるみるうちに潤っておくと、移民の申請が後を絶たなくなった。


 唯一にして最大の問題は持病があったことだ。

 元々心臓が弱かったヴォルデックは、身体を酷使しすぎた。


 しかし彼は未だ健在、王ながら縁の下の力持ちとして働いている。


 そう彼はエヴィアンの実の父親である。


「お初にお目にかかります。ダリス・ホフマン上等兵にございます」

「うむ」


 片膝をつき挨拶をする。

 ヴォルデックはなんというか、イケオジだった。

 うむ、の声も、みんなが想像する、うむって感じだ。

 白髪交じりの金髪に彫の深い顔立ち。

 若いときは女性からの支持が凄まじかったというのも頷ける。


 しかし生涯で妾はたったひとり。つまりはエヴィアンの母親だけにとどまった。

 貴族の間では跡取り問題を含め否が多かったらしいが、民衆は特権を使わないと絶賛の嵐で支持率は深まったという。


 しかしながら功績を上げすぎた結果、他国から戦争を仕掛けられる事が増えていった。

 ヴォルデックは軍事にも敏腕であったが、病気には勝てなかったのだろう。


 やがて跡継ぎとして軍団長を差し置き、女性ながらにエヴィアンが表舞台に立った。

 初めこそ多くの批判があったものの、彼女は全員を実力で黙らせていく。


 これが、他国が恐れ多のくエルリー王家である。


「面を上げよ」


 しっかりとした低い声、俺はゆっくり立ち上がる。

 今いる場所は王の間だ。


 ステンドグラスが格好いい。

 一度だけ冗談でいいから「勇者ブックよ、魔王を倒してくるのじゃ」って言ってもらえないかな。

 でも多分、ぶっ飛ばされる。


 なぜなら隣には、アントラーズ軍の剣術の凄腕、ヴォルデックの右腕と言われている、イカロス・ジュドウが立っている。

 若いと聞いていたが、30代くらいだろうか。


 彼は、エヴィにとってのユベラみたいなものだ。

 最強の護衛とも言われている。


 俺は突然に呼び出された。

 養生していてあまり会えないとのことで驚いたが、一体なんだろうか。


 ……不安ブック。


「ふむ、なるほど」


 なにほど!?


「ブックを見せてくれるか?」


 するとまさかのブック指示だった。

 流石にエヴィアンも父親にまで秘匿していないのだろう。


 だが俺のブックは大切なものだ。

 そんな軽々しく見せるなんて――ブック。


「ほう、それが『噂の最強ウルトラハイパーブックブックか』」


 ……ん?

 このイケオジいまなんておっしゃった……?


「……恐れながら申し上げますが、それは誰が言っていたのでしょうか……」

「エヴィだ」


 あいつ、絶対楽しんでやがるな!?

 思わず笑っちまうところだったじゃねえか!


「さようでございます。これが最強ウルトラハイパーブックブックブックでございます」


 あ、ブック多すぎた。


 隣にいたイカロスが明らかに眉をひそめていた。

 多分、この人めっちゃ真面目だ。

 逆でも俺なら同じ顔しそう。


「なるほど、確かに魔力を感じない。裏の軍事記録を見たぞ。凄まじい功績だ」

「お褒めの言葉、恐悦至極でございます」

「そうかしこまらんでよい。見たかっただけだ。エヴィが信頼している男をな。いつも褒めているぞ。ダリスのおかげで日々が楽しいと」

「楽しい、ですか?」

「実の娘ながら私は申し訳なく思っていた。私がまだ王として座しているのもできるだけ負担を与えたくないからだ。日々の喜びを捨て国の為に生きるのは、少なからず私の影響だろう。だがそんな中でも君が来てくれてから変わった。今日は、その礼を言いたかった」


 わざわざその為だけに俺を王の座に呼んでくれるとは……。

 流石エヴィアンの父だ。


「とんでもございません。こちらも光栄でございます。エヴィアン様のおかげで私も楽しく過ごさせておられますから」


 まごうことなき本音を言った。

 毎日が楽しい。


 危険なこともあるが、愉快な? 仲間たちのおかげだ。


「よし。ならば決闘じゃ」


 だがそのとき、俺は変な言葉を聞いた。


 ケットーとは何だろうか。


 血統? もしかして俺を王家に入れるってことか?


 え、ダリス・ホフマンことブック野郎が、まさかの王家入り!?

 ゆくゆくはかっちょいいローブなんか着て、王城を歩いたり?

 中庭から空を見上げ、太陽の日差しで目を細めちゃったり!?


「ではイカロス、よろしく頼むぞ」

「ハッ」


 しかしそんな夢のような話はなかった。

 最強護衛のイカロスが、デカい剣を腰に携えたまま歩いてくる。


 やっぱり決闘だった。


「ええと……これはどういうことでしょうか?」

「ヴォルデック様の言う通りだ。私と立ち会え」


 デカい図体で前が見えなくなったので、右半身だけ横にずれてヴォルデックに顔を向ける。


「最強ウルトラハイパーブックブックをこの目で見たいのだよ。安心したまえイカロスは達人だ。それにエヴィアンはこういってたいぞ」

「……どう?」


 安心した前の意味はわからないが、嫌な予感がする。とても嫌な予感がするぞお。


「イカロスは、ブックでブックされるだろうとな」


 恐ろしい発言にイカロスの魔力と殺意が漲った。

 ちなみに彼はとても強い。


 軍事記録では西の悪魔のユベラに負けず劣らずすさまじい功績をあげている。

 たとえるならサイヤ人はちょっと規格外だけど人間の中なら最強のクリリンみたいな。


 あと、護衛なので強い。


 気も強いだろうし、プライドも高いだろう。


 いやちょっと待つブック!?


「エヴィアン様の誤解だと思います。私はただの本好きの書記官、確かに少しばかりブックできますが、イカロス様をブックするなんて滅相もございません」


 これで何とか……と思ったが、イカロスは剣を抜いた。

 キラリと光る銀色の剣、え? 木剣とかじゃないの?


「安心しろ峰打ちだ」

 

 両刃めっちゃギラギラしてない!?


「ダリス上等兵、嫌なら嫌でよい。これは命令ではない。ただエヴィアンはこれから君とともに新たな任務を行いたいらしい。それがあまりにも難しいものだったので私が止めた。その条件としてイカロスを倒すことになったのだよ」


 ……そういうことだったのか。

 あえて言わなかったのは、俺がさよならブックといいながら逃げるからかもしれないからか。


 いや違う。


 俺を信じているのだ。


 仕方ない。


 そこまで信用されているなら、俺も気合をいれるか。


「……でしたら承知しました。エヴィアン様の秘書官として正々堂々と戦います。私の最強ウルトラハイパーブックブックブックブックで」


 あ、ブック二回も言い過ぎた。


「……ふざけやがって」


 イカロスのしわも二本増えていた。



 

 

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