第27話いつになったら…
門をくぐり少し進む。目の前にあるのは青々と生い茂った木々。かれこれ一時間ほど…。
「みなサーン、右手をご覧くださーい。森です。続いて左をご覧くださーい。森です。最後に正面をご覧くださーい。森です。」
1人シンが喋っている。バキュアは無言だ。
「あー、もーやだ。どこまで行っても森、森、森、森。いつになったらまともな集落に着くの?人にすら出会わないってなんなの?」
「それには同感だ。スラムにいたときに噂程度だが田舎だと言う話はあったが…まさかここまでとは。本当にここにあいつの求めているものがあるのか疑問だ。」
「そーなの?僕がきいていた情報とは違うね。僕はアラゾキアよりも文明が発達しているって聞いていたけど…。まぁ、この状況ではそっちが嘘だったって可能性の方が高いんだけどねー!」
そこからもさらに歩く。
「木の密度が下がった気がする!もーそろそろじゃない?少しスピードをあげよーよ!」
「おい、ちょっと待て!」
シンは走り出す。続いてバキュアも走り出す。
3分ほどだろうか。視界が完璧に開け、巨大な建造物が見えてきた。シン達は少し高い崖に出た。そこからはフィロニキアの全体が見渡せた。中央に一番豪奢で高い城が建っている。おそらく王族がすんでいるのだろう。その回りには先程の城とまではいかないが大きくて華美なものが多い。貴族層のようだ。さらに外側にはレンガ調の家々が並んでいる。おそらく平民が住む区域だろう。城を中心として円形にそれらは広がり、ひとつの貴族の家ごとに区間が塀で仕切られている。アラゾキアよりも貴族の数が少ないからできる芸当だろう。
「わぁー!すごいね。田舎だなんてとんでもないね。貧困層の居住区がないんだから現王の統治が良いんだろうね!」
「あぁ、驚いた。噂なんてあてにならないな。」
2人とも感嘆している。
「なぁー、シン?おまえを信じてないわけではないが、聞きたいことがある。いいか?」
「もちろんだよ?なんでも聞いて!」
「なら、一言。あれ、どうやって入るんだ?」
「………。」
「あっ、おまえ!考えてなかったな。どーするんだよ。せめて宿はとりたいんだが。」
「もー、考えてたとは言わないけどそんな言い方はないんじゃない?バキュアも少しは一緒に考えてくれたって良いじゃんか。」
シンがほほを膨らませる動作をする。子供のようだ。バキュアはぐうの音もでないようだ。
(まぁ、考えてはある。いまはこいつを育てることが先決だ。せめて足を引っ張らないくらいの実力は持たせておきたいからな...。)
シンは心のなかでバキュアを近い将来の駒にするための育成計画を練る。そのためには考えてあるということを悟られてはいけない。あえて距離をとろうとシンは怒ったふりをする。
「僕もう怒ったから今回の計画はバキュアが考えてね。僕は今回もう、絶対に口を出さないかんね。」
そう言いながらバキュアに背を向けて歩き出す。さながらプリプリという効果音が聞こえてきそうなわざとらしい起こりかただ。
(まいったな…。俺1人じゃ絶対無理だ。シンに謝って一緒に考えてもらうか?だが、それだと今後シンに見捨てられる気がする。はじめてあった時あいつは俺が役に立つと思ったから拾ったに違いない。役に立たないとわかったら…。今考えるのはよそう。)
バキュアは邪念を払うかのように頭を振る。そして地べたに胡座をかいて座り腕を組み、熟考の姿勢にはいる。
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あれから10分程、シンはバキュアの様子を木の後ろから気配を消して覗き見る。そこには熟考の姿勢にはいったバキュアの姿が見えたい。5分ほど観察していた。シンは違和感を覚えバキュアに近付く。
「………。こいつ…。俺のことなめてんのか?」
シンのこめかみに青筋が浮かぶ。そう、なにを隠そうバギュアは熟考の姿勢にはいって1分も経たないうちに寝ていた。気持ち良さそうに寝ているため、余計にシンの気をさか撫でる。
(こいつ、絶対泣かす。)
シンは心に誓った。次回のバキュアの生死はいかに。
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