第25話さぁ、行こーか?

 バキュアのところに来たシンは少し憤りを感じていた。昨日の晩別れたさいには、完璧に思考を掌握しシンのことをを一番に考えるようにさせていたのに、一晩明けて会ってみるとどういうことだろうか、部屋の隅でうずくまっているではないか。挙げ句の果てには行きたくないと言い出した。


 (冗談じゃない。なぜ俺がこんなことを?こいつも切り捨てるか?だが、こいつは色々使える。あぁー、めんどくさ。)


 などと、内心毒づきながらシンがバキュアに近づく。


 「おはよーバキュア!どーかしたの?なんか、暗くない?」


 あくまでいつもの様子で内心を見せないように振る舞う。


 「…れは、……いけ…い。」


 ボソボソと喋るバキュアに若干の苛立ちを感じつつも聞き返す。


 「ごめんねー、聞き取れないや。もう少し大きな声で言ってほしーな?」


 「…俺は…おまえとは一緒にいけない。」


 「理由を聞いても良いかなー?」


 シンの声に少し怒りが混じる。だが、バキュアに気にした様子はなくただ、たんたんと話し始める。


 「今日の、いや、昨晩の夢で俺はティルに会った。あいつ俺に言ったんだ。"なんで一緒に死んでくれなかったのか"って。そう言われて俺はなにも言い返せなかったんだ。はじめからあいつに助けられた命だったんだ。あいつが死ぬときに一緒に死ぬのは当たり前だろ?笑えるよな。あいつが死んで何日もたってるのに気付いたのはついさっき。そりゃ、ティルも化けて出てくるわー。」


 なにがおかしいのかバキュアは笑っている。シンにはそれがどうも腹立たしく感じた。だがそれゆえに冷静だ。


 「その理論でいくなら君の命は僕のものだよ?だって、君は一度僕に負けてるんだかんね?これでもまだ死にたいって言うなら僕が君を殺してあげるよ!どーせ、自分じゃ怖くて死ねないから僕を待ってたんでしょ?」


 バキュアが大きく目を見開く。少し驚いた素振りだが図星らしい。


 「シン。もしおまえがいまの俺の立場ならどうする?死ぬか?それとも生きるか?俺は弱いから決められない。だがおまえは違う。」


 バキュアがいつになく真剣だがすがるような目でシンを見つめる。会って3日ほどだがバキュアはシンを本当に仲間として、友人として見て、信じているらしい。


 (好都合だ。)


 シンが内心ほくそ笑む。勝利を確信したかのように。だが、油断はしない。故に本心を伝える。


 「はぁ、そこまで言うならわかったよ。…僕がバキュアの立場たったらきっと夢に出てくる故人なんか無視して楽しく生きるかな。だって相手は死んでるんだよ?僕は信じてないけど、ある一定数の人たちは天国なるものがあるって信じてるわけでしょ?それってつまり世界、存在している空間が違うって話でしょ?なら怖がる必要なんて無いよ!それに、夢ってことは実際には存在しないってことの裏付けにもなるしね?だって夢は過去に経験したことをベースにして作られてるんだよ。ティルがバキュアの記憶にあるからそれが夢として出てくるだけ。悪夢はストレスがかかったときに見るから、バキュアはつかれてたんだね!ほら、もうティルの幻影なんて怖くないでしょ?」


 バキュアは開いた口が塞がらないといった様子だ。そこにシンが手を差し出す。


 「だから、ね?一緒に行こう!バキュア。」


 バキュアがシンの手を取る。ものすごくデジャブだ。


 「さぁ、行こーか!」


 「ああ。」


 歩き出そうとしたときシンが思い出したかのように言う。


「あっ、そーだ。バキュア、これに着替えてくれる?」


 「こ、これは…。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 町中の視線が集まる。すれ違った全員が立ち止まる。そこにあるのは、2人の絶世の美少女だ。1人は小柄で、さらさらの黒髪を高い位置でひとつに結い上げ、白くてきめ細かい肌を惜しげもなく出し、ピンクや白といった清楚な色のワンピースを着ている。裾口にはフリルがついているがそこまで華美に見えないのは顔面の破壊力がすごいからだろうか。もう1人は濃い青色の髪を三つ編みにし、後ろへ流している。目元は少しきつめな感じだがこちらもなかなかの美人である。スラッと延びた手足は黒いレースで隠され小柄な少女とは対照的に暗めの色の服である。シンプルな形のワンピースだがものすごく上品に見える。普段からナンパをするような者も2人にだけは声をかけられずにいた。


 「そろそろだね!準備は良い?」


 「もちろんだ。だがその前にひとつ聞きたい。なぜこんな格好をする必要が?」


 ここまで来ればお気づきだろう。2人の絶世の美少女とはバギュアとシンである。


 「えー、だって、検問に引っ掛かりたくないでしょ?」


 「いや、そもそもどうやって…」


 シンがバキュアの目の前にドッグタグを掲げる。そこには


 "女 18 フィスティア"

"女 16 バンユエ"


 そうかかれてあった。あの少女達のものだ。


 「女って書いてあるのに男が使ったらおかしいでしょ?」


 「だからってこんな…。絶対面白がってんだろ。」


 「あっ、ばれた?」


 そんな風に笑いながら待ちなかを進む。2人並ぶとそこだけ別世界かのような絵になる。


 (このままなにもなく進むと良いね!)

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