第24話その頃のバキュア

 (シンとわかれてからまだ数分しかたっていない。シンは少し俺が寂しいと思っているのを察したのか、2度手を振ってくれた。フッ。俺は思っている以上にあいつを信頼してしまっているらしい。会って初日だというのに昔からの知り合いみたいだ。)


 バキュアは、ティルと過ごしていた家はロフォンスに使われているので代わりにシンと出会った場所で一晩過ごすことにした。


 「準備するものは…特にないか。食料と仕込みの武器さえ持っていけば大体のことはどうにかなるだろう。それよりも早く寝よう。」


 明日の準備を素早く済ませたバキュアは簡素な寝床に潜る。横になった瞬間には意識が飛んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「バキュア、バキュア!起きてください。もう朝ですよ。いつまでも寝ていないで訓練を始めますよ。」


 聞きなれた声にバキュア眠たい目を擦る。目の前にティルがいる。いつもの朝だ。


 「…。はよ。」


 バキュアはいつも通りの返事をする。顔を洗い支度をする。外に出ると木製の短剣を持ったティルがたっていた。ティルは、3本あるうちの2本をバキュアに投げて寄越す。まだ違和感には気付かない。ティルの首にはいつもは巻かれていない鮮やかな赤いマフラーがしてある。


 「ティル?それどうしたんだ?」


 にこりと微笑んでいたティルの目から光が消える。普段とは違うドスの効いた声で言う。


 「あなたのせいですよ。私がこうなったのは。」


 そう言い終わるのが早いか否か、ティルの首が落ちる。気がつけば辺りは暗闇に染まっている。足元は濡れていて目をこらと水ではないことがわかる。辺りは鼻につくほどの錆の匂い。


 「うわぁぁぁぁ…!」


 気が付くとバキュアはティルの頭を両手で持っていた。ティルの頭と目が合う。思わず投げ飛ばすバキュア。首だけのティルが喋る。


 「あなたは良いですね、生きていれて。私はこの通り首からしたがありません。あなたのせいですよ。」


 「そ、そんな。俺は…おまえに…逃げろって…言われたから...」


 「ふふふ?例えそうでもあなたは私を置いていった。仲間なら、仲間だと思っていたのならどうして一緒に死んでくれなかったのですか?私だけ死ぬなんて…」


 「……。」


 バキュアは口を紡ぐ。なにも言えないからだ。


 (俺も置いていくなんて嫌だったんだ。だがあのときはそれ以外にどうしようもなかった。いいわけにしかならないが、あれが一番2人が生き残る確率が高い選択だった…はずだ。)


 ティルがため息をつく。そしてバキュアをかつてない程睨み付け


 「私でなくあなたが死ねば良かったんですよ。」


 ティルの口から溢れたため息混じりの言葉。だがバキュアの心を壊すには十分すぎた。


 強い浮遊感に襲われる。頭をハンマーで殴られるような痛みが広がり思考などできない。現実として受け入れたくとも感情が拒絶する。


 遠くから頭の無いティルの体が歩いてくる。頭の前で止まると手に取る。そのまま頭を首とくっ付ける。そして歩き出す。ゆっくりと。


 バキュアは動かない。動けない。ゴトンッという音と共に力が抜ける。何度も見た景色だ。もちろん他人の転がる首だが…。


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 目が覚める。寝床は汗で濡れている。バキュアは思わず首筋をなぞる。もちろん首はつながっている。


 「…。はぁ、ティル違うんだ…。」


 目が覚める前に見た最後のティルの表情、特に目が忘れられない。


 そとの空気を吸うために外に出ると、丁度朝日が昇っているところだった。昼からシンと落ち合う予定だがそんな気分にはなれない。


 「俺はこのままシンについていっても良いのだろうか?それともティルの死んだこの場所で俺も死ぬべきだろうか?」


 いつになく暗い雰囲気のバキュア。そんなことを知るはずもないシンは着々と準備を進める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「よし!準備完了だー!ちょっと早いけどバキュアのところにいこーっと。」


 シンはバキュアのもとへと出発する。これからバキュアのメンタルケアをする羽目になるとは夢にも思わないで…。

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