第18話記憶

 途中からバギュア視点


 (はやい。)先に相手の懐にはいったのはロフォンスだった。バキュアが少し驚き間合いをとるために体制を上げると顎で隠れた死角からナイフが一直線に振り上げられる。バキュアは寸前のところで避けたがあがりきったナイフはロフォンスの手元に戻ることはなく持ち方を変えてバキュアに打ち付けるように振り下ろした。間一髪で躱したが避けきれなかったため肩に少し血が滲んだ。ナイフを振り下ろしたお陰でロフォンスの目線は若干下の方へ向いている。この機会を逃すはずもなくバキュアはロフォンスの両肩をつかみ腹をめがけて膝蹴りをかます。ロフォンスが少し怯んだところでバキュアが手を離し、素早く右横へと移動しかかと落としをする。しかし寸前のところで避けられロフォンスが懐に隠していた親指ほどの恐らく牽制用であろう小さいナイフを投げる。バキュアは避けはしたがそのうちの1つが頬を掠めた。お互いがバランスを崩したため図らずしも同時に数メートル後方に飛び距離をはかりなおした。


 「なかなかやるねー。少し息があがってるけどだいじょぶそ?」


 「…ハァ…ハァ 問題ない。お前こそあれだけ豪語しておきながらこの程度か?」


 「まぁ?俺は優しいから少しだけ休憩をいれてあげるよ。こっからが楽しんだから早々にへばられたら困るもんねー。」


 「フーッ...」


(心を整えろ。俺ができることは限られている。身体能力は五分といった感じだが如何せんアイツは俺よりも体力がある。長丁場は危険だ。それに今までの会話からしてアイツは頭脳派だ。反射って言うよりは俺の行動パターンや思考を読んで躱してる感じがする。…それなら俺はどうしたらアイツに勝てる?てわけティル。おればどうすればアイツに勝つことができる?教えてくれ…。)

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 「バキュア!今までもさんざん言ってきたはずです。どうしてあなたは勝てないとわかりきっている相手に喧嘩を売るんですか?もっと命を大切にしてください。」


 「いや、人殺しが命大事にしろとか説得力無さすぎだろ。それにティルの助けがなくてもアイツらぐらい俺一人で十分だったし…。」


 「たしかに私は人殺しですが、それは死んで当然の屑どもなんですから許されるんですよ。それに今の話にこれは関係の無いことでしょう?とりあえず傷の治療をします。ほら、その右腕を早くだして下さい。」


 懐かしい。いつの記憶だろうか。どうしてこの時の光景が今脳裏に浮かんだんだ?なにか見落としていることがあるはずだ…。たしかこの後フィルが俺になにか言っていた気がする。たしか…


 「バキュア。あなたは力の差がある相手に勝つにはどうすれば良いと思いますか?」


 「…不意打ちをする?」


 ティルの目が見開かれる。ものすごく不思議そうな顔でこちらを見つめる。


 「わかっているのにどうしてやらないんですか?少しだけ理解に苦しみます。何事も命あっての物種でしょうに…。」


 「俺は卑怯な手を使ってかつなんて嫌なんだよ。強いお前には理解できないだろうが、弱くてもプライドを守るために命を懸けるのは男として当然のことだろ?」


 「あなたはまた…。いえ、なにを言っても無駄ですね。ですが1つだけ覚えておいてください。もし、自分より強い相手に喧嘩を売って死なずに勝ちたいのならばなりふりかまっていないで相手を欺くことだけ考えてください。相手との力の差が大きければ大きいほど相手はあなたの一挙手一投足にそれほど注意を払いません。たまに例外もいるので注意が必要ですが…。」


 ティルはいつになく真剣だ。本当に俺のことを心配していってくれているのだと思うとどこか歯がゆい感じがするがとても嬉しいとも感じる。


 「あなたの戦いかたはよくも悪くも真っ直ぐです。考えてみてください。そんな相手がいきなり暗器や毒、罠などを使うわけです。油断が大きく慢心している相手こそそれらにひっかかりやすくひっかからなかったとしても動揺を誘い体制を崩すことはできます。」


 ティルの言うことはもっともだ。だが俺には暗器や毒、罠を扱う知識が無い。無駄だ。

 この心情を読み取ったのかティルの目元が緩み、少し微笑む。


 「あなたのことです。暗器や毒、罠の扱い方がわからないのでしょう。私も専門外ですが多少の心得はあります。一緒に練習しましょう?」


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 「おっ、そろそろ良いようだね?」


 「あぁ、待たせたな。それじゃあ、続きと行こうか。」


 「でも、その前にそろそろだよ。」

 パチン ロフォンスが指を鳴らす。


 「なにがだ…ゴフッ」


 バキュアが血を吐く。


 「油断したね?俺があんな意味の無い攻撃すると思う?毒が聞いてくれて良かったよ。ちょっとドキドキしてたんだ。一向に毒が聞いている素振りがなかったからね。」


 バキュアが膝から崩れ落ちる。口からは未だに血を吐いている。


 「いいの?君は助けなくて。大切な仲間なんでしょ?」


 ロフォンスがシンの方に振り向き尋ねる。


 「うーん。良いんじゃない?これはバキュアおにーさんの勝負な訳だし、なにより、こんなとこでこんな相手に負けるくらいなら要らないからね!僕からしたら、どっちが勝とうが別にどうでも良いよ。バキュアが勝てばおにーさんが手に入るし、おにーさんが勝てばより強い仲間をまた探すだけだよ!だから、僕のことは気にせず存分に戦ってねー。応援してるよー。」


 「だって。なんか少し同情しちゃうよ。君はあんなヤツと一緒でほんとに良いの?」


 ロフォンスが本当に同情しているような声音と表情を作って語りかける。そしてバキュアが動けないのだとわかると少しずつ近付く。無意識下で油断した状態で...。



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