第17話信仰心

 「…。それで?結局何が言いたいわけ?」


 「うーん。伝わらなかった?ごめんね?僕はただ、今ならまだ降参するって手もあるよって言いたかったんだー。僕が勝つってわかってるのにわざわざ勝負して無駄に血を流す必要なんて無いでしょ?」


 「随分な言いぐさだね?俺が負けるみらいの方が想像できないけど?」


 互いに一歩も引かない。その時シンの後方から声が響く。


 「俺にやらせてくれ。シン、おまえには鍔迫り合いを演じるだけの余裕があるのはわかっているし、おまえが直接やった方が早いのもわかっている。たが、俺もナイフを投げられた手前おとなしくしてやる義理はない。なんなら、フィルの敵討ちと言うことで、殺さないまでも、痛め付ける権利はあるはずだ。だから、俺にやらせてくれ、いや、殺らせろ。」


 少し怒気を含んだ声でバキュアがシンを睨み付ける。


 (あーぁ。相当起こっちゃってるなー。まぁ、良いかなー、やらせてあげても。)


 「勝てるの?」


 「…誰に向かっていっているんだ?当然だ。」


 バキュアの声は自信に満ちていた。パンッと手をたたく小気味良い音が響く。その音の発生源はロフォンスだった。


 「話が付いたようだね。おれとしてはどっちでもいいんたけどね。どうせ2人とも俺に殺されるんだから下らないおしゃべりなんてしてないで残りの短い人生を神に懺悔でもしながら過ごせばー?」


 「神…か。」バキュアが神と言う言葉に引っ掛かりを覚えた。

 「戦うまえにおまえに面白い話をしてやろうか?」


 バキュアの纏う雰囲気が変わる。闘志のような熱く燃え上がるような感情ではなく、ただ現実を受け止めるだけのために存在しているような必要最低限の感情だけが表層に表される。バキュアが口を開く。そしてポツリポツリと、話し始める。


 「まず、ロフォンスつったっけ?とにかく、おまえは神を信じているのか?」


 「…この問答になんの意味があるのかはわかんないけど、うん、そうだね。俺は神様を信じてるよ。だから、人殺しや窃盗なんてもっての他!悪いことはしちゃいけないんだ。」


 「…いや、おまえ人殺してんじゃん?まぁいい。仕切り直して…。実はな、俺にはマフィアの知り合いがいてな、ソイツは俺とは違って神を信じてるんだとよ。そいつの信仰している神様とやらは、悪いことをしても、懺悔すればぜーんぶ帳消しにしてくれるんだと。実に都合の良い神様だ。」


 「…だから?」


 「まぁ、つまり、神なんてものは心の弱い人間によって作られ空想上の存在で、なおかつ自分に都合の悪い事象が起きた時にそれは"運命だった"。"今回は運が悪かっただけだ"。とか、言い訳ができる。俺はな常々思うんだよなー。神に懺悔すれば人殺しが正当化されるのならば、神を信仰した上で殺しをするヤツは正義を笠に着た偽善野郎か、いつか自分の番になるんじゃないかって怯えて夜も眠れない憐れなヤツのどちらなんじゃないのかって。今の流れから俺が言いたいことは伝わったか?」


 「君は俺がそのどちらかだと言いたいわけだ。だけど、残念だね。俺は理解してるから、この世で起こる不利益はすべて自分のせい。他の誰のせいでもなく、自分の能力不足。だからこそ、理解しているからこそ、現実から目を背けたくなるんじゃない?」


 ロフォンスが少し困ったような、悲しさを隠したような目でこちらを見る。彼の過去には何があったのか、そう考えさせるには十分な表情と声色だった。


 「思ってた解答とは違ったが、面白い反応が見れて嬉しいぜ。おまえにとっては別にそうでもなかったようだが…。まぁいい。続きを始めるか?それとも降参するか?どちらでも構わないができれば降参なんて野暮なことしないでもらいたいな。なんせ俺はお前を正面からたたき潰して過去の自分に清算を着けたいからな。」


 (これは俺の自己満足だってわかってる。フィルと出会うまえの俺ならフィルが死んだのだってアイツの力不足や環境的要因だって関係している、俺のせいだけではないはずだ…。なんて考えてただろうな。俺が今こうして誰かのために力を振るうことができるのはフィルがあの時俺を見捨てないで拾ってくれたお陰だ。)


 「感謝してもしきれねーな。」


 ボソッとバキュアが呟く。ロフォンスは先程の調子を取り戻し、上機嫌に頷く。


 「もっちろんさ。俺は早く殺りたくて仕方がなかったんだから。それじゃー続きを」


 「ちょっと待った。1つ条件を付け足したい。」


 「はぁ⤵、まだあるの?…わかったよ、ためしに言ってみて。それを呑むかは聞いてから決める。それで良い?」


 「もちろんだ。俺が提示する条件とは、お前が俺に負けた場合お前には仲間になってもらう。まぁ?自分が勝つみらいしか見えないって言うお前ならこの条件があろうが無かろうが関係ない話だろうが‥。どうする?乗るか?」


 「いいけど、こっちからも条件を足すね。これが呑めないなら俺はその条件を飲まない。条件は、お前が俺に負けたとき死んでいなかったら俺の下僕になれ。」


 「…わかった。」


 バキュアが息を吐く。ロフォンスを見据えお互いの目が合う。


 「「 さぁ、殺しあいのはじまりだ‼ 」」


 両者が同時に攻めかける。そばでシンが勝負の行方を見届ける。


 (これはこれでなかなか面白い展開だね!どっちが勝つのかなー?楽しみだね☆)


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