第14話バキュアとティル
◎途中からバキュア目線
「ねーね、バキュアは噂の殺人鬼に会ったことあるの?あ、別に話したくなかったら話さなくて良いよ?」
「……。あいつは、俺の仇になるはずの相手だった。だがその情報は俺が周囲のやつらから流されたデマだった。そんなことを知らない俺はあいつを、ティルを殺しにいった。まぁ、完膚なきまでに負かされたがな…。」
殺人鬼ことティルの話をするバキュアの横顔は昔を懐かしんでいるようである。
ーー2年前ーーーーーーーーーーーーーーーー
「クッ、殺せ。妹もおまえに殺されもういない。こんな世界に未練なんかない。」
首元に刃が当たる。
「はて、妹?なんの話ですか?ここ最近女性を殺した覚えはありませんよ?」
しっかりとめんと向かって交わした会話。殺人鬼の顔は信じられないほど、普通だった。特別美形を想像していたわけではなく、醜い見た目で、世界に恨みを持つような屈強な男をばかり想像していた。口調も丁寧であるため、どこかきが抜ける。
それよりも、殺人鬼の言葉の方が気になる。妹がここにいないと分かったとしても、ほかにどこがあるというのだろうか?
「あのー。聞いてます?妹さんの容姿を知らないので確かなことは言えませんが、私はおそらく殺していませんよ。」
「嘘だ!おまえ以外あり得ないだろ。ほかに誰がいるって言うんだ。」
行き場のない感情が渦巻く。
「あなたのその情報、誰に聞いたものですか?私は基本的に私が殺したと世間に知られている人以外は殺していませんよ。例外として私の両親がいるにはいますが…。」
俺に情報を流したのは、いつも難癖つけて構ってくるやつらだ。信用できないやつらだが、今回ばかりは信じられると思っていた。病気で1人で出歩くこともできない妹がある日突然姿を消た。それに、その数日前には目の前にいる殺人鬼により1人殺されている。疑うなと言う方が無理な話だ。
「なら、俺の妹はどこに消えたんだ?あいつは動けないのに、1人でどこかに行くわけないだろ?おまえが拐ったんじゃないのか?いや、それ以外考えられないだろ。」
口許に人差し指を当て考えるような仕草をしてから殺人鬼がまたも口を開く。
「私は殺すとき、相手が最期に居た場所で殺しますよ。どうして拐うなどという面倒で見つかる可能性の高い行動をしなくてはいけないのですか?常識的に考えてあり得ないでしょう。第一私は殺人鬼とは言われていますが、無闇に人を殺すということはしていませんよ。ちゃんと相手は選んでいます。」
言われてみれば、こいつの噂にはおかしなところがあった。こいつを英雄視する声が多いのだ。
「私の殺す相手の基準はその者が良からぬことをしたか否です。私は殺人欲求を満たし、世間は、不要で不浄なものを排除できる。なんて合理的で理想的な世界なんでしょう。」
ゾワッ
そうだった。見た目と口調で忘れかけていたがこいつはいま世間を騒がせている殺人鬼。普通な感覚をもっているわけがない。だが、いま重要なのはそんなことではない。妹はいまどこにいるのだろうか。
「そうそう。あなたに偽の情報を教えた方を教えていただけませんか?」
「なぜだ?」
「いえ、ただ、殺人鬼なんて職業をやっているわけですが、やってもいないことを擦り付けられて怒りがわかない程私は聖人ではないってことです。今からその方のところへ行き、少々殺そうかと思いまして。あっ、そうだ!あなたも一緒に来ます?なかなかに強かったですし、その方が確実ですし。貴方にとっても悪い話ではないはずです。妹さんを見つけられるかもしれませんよ?」
(私の予想が外れていたらですが。)
「…もちろんだ。俺も行く。」
「では、よろしくお願いします。私の名前はティルです。貴方のお名前を伺っても?」
「バキュアだ。早速だが行こう。俺についてきてくれ。」
約40分ほどで、目的の場所についた。結構走ったが、ティルは息切れひとつしていなかった。(どういう体力してんだこいつ?)
目の前に若干大きめな鉄扉があったが関係ない。ティルが蹴破ってなかに入っていった。遅れず俺もついていく。
「…ッ」
見覚えのあるシルエットを見て、俺は走り出しそいつの胸ぐらをつかんで尋ねた。
「おい、俺の妹をどこへやった。おまえの行っていた場所にいったが居なかったぞ。どういうことだ?」
「…おまえ。まさか本当に信じたのか?良く無事で帰ってきたな?」
「そんなことは良い。俺の妹はどこだ?」
「おまえの妹?あぁ、良い体してたなぁー。おかげで楽しめた。まぁ、何回かヤったら壊れて動かなくなっちまったから、殺して売ってやった。良い酒代になってくれた。感謝してるぜ。」
何をいっているんだこいつは。犯して殺した?誰を?妹を?ただただ放心するしかない。
「本当に貴方はクズですね。お初にお目にかかります。私があなたがこの方に紹介してくださった殺人鬼です。始めましてですが、死んでください。」
「…。プッ、ガッハッハー、ヒー。おまえが殺人鬼?嘘も休み休み言え。そんなわけないだろ?しょうこ…」
「話している途中で、申し訳ないのですが、そのうるさくて臭い口を閉じていただけますか?おそらく証拠はと言いたかったのでしょう。これが証拠では不十分ですか?って、もう死んでますか。すみません。」
妹の仇は頭が真っ二つになって動かなくなっていた。
「大丈夫ですか?立てます?」
ティルが手を差し出す。俺はその手をとり立つ。
「これからどうします?妹さんのことは残念ですが、こんなところでウジウジしていてもなにも始まりませんよ。なんなら私と一緒に来ます?この数時間貴方と過ごしてどうやら私は貴方を思いの外気に入ったようです。」
「…てくれ。」
「すみません。もう一度お願いします。
「俺を、俺を強くしてくれ!」
そういって俺はティルの手をとった。もう二度と俺からはなにも奪わせない。その思いを胸に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます