第13話 人身売買

 裏路地を歩いていると、大きな袋が覆い被さった。袋の外から声が聞こえる。


 「こんな見目の良い子供はそうそういないぜ、おれたちゃーついてんな!どこぞの変体なお貴族様にでもふっかけてやろう。」


 会話から察するにどうやら男が4人いるようだ。シンは捕まってやる義理もないのでいつももっている短剣で袋を破き脱出した。そのままあくまで自然に、なおかつスピーディーに3人殺した。残った1人は、4人のなかで1番下っ端であろう者だ。

 

「あれ?今確実に殺れたと思ったのになー。すごいねおにーさん、今のを避けられるなんて。そうだ!おにーさん、僕の仲間にならない?こんなところで暮らすよりぜーったい、楽しいよ?」


 「…俺にはメリットがないだろ?」


「そっかー、じゃあ交渉決裂だね?仲間にならないなら要らないや。バイバイ!」


 言い終わるのが早いか走り出すのが早いか。シンは男へ向かって攻撃を始めた。


 右手で振り上げたナイフを男の首もとめがけて下ろした。男はとっさに左に避けギリギリ肩を掠めた。シンはナイフを降り終わりきる前にナイフを持ち変え、男の脇腹を狙った。が避けられた。続いて男が反撃をした。シンの攻撃を避けたときに後に重心が傾くような体制になったため、そこからシンの肋めがけて蹴り上げた。シンはとっさにガードする。その隙に男は体勢を整え、構え直した。


 そこからは、殴り合いの喧嘩のようなものだった。ただし、どちらも強すぎて回りから見れば畏怖の対象だった。今までしたことのない、自分と同等かそれ以上の実力をもつものとの戦いゆえに2人の口角は自然と上がっていた。 

 

 「ヒッ… バケモノ」


 周りからのそんな声には耳を貸さず2人の攻防は続いた。しかし何事にも終わりは訪れる。男がシンの攻撃を避けきれなくなってきたのである。シンはまだ余裕そうだったが、男は満身創痍だった。


 「やっぱり、惜しいよ。もう一度聞くね?おにーさん、僕と一緒に来ない?」


 「…正直、行きたいとは思ってる。だが、さっき断った手前俺のプライドが許さねぇ。それに、俺は俺より弱い奴の下には就かねえって決めてんだ。わりーな。」


 「…」

  シンは少しの間なにか考えるような仕草をしたあとに、手を打ち合わせた。


 「それなら、僕が勝てばおにーさんは僕の仲間になってくれるってこと?」


 男が訳の分からないといった顔をする。


 「だってそうでしょ?おにーさんより強い人ならおにーさんは仲間になるんでしょ?なら、僕がおにーさんをこのまま倒しちゃえば、僕はおにーさんよりも強いってことだよねー。ってことで、歯ーくいしばれ♡おにーさん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 気を失っていたらしい男が目を覚ました。


  (ここはどこだ?)

 布団に寝かされていた。少し歩き、隣のへやへのドアを開けるとそこには洗面台が広がっていた。そのタイミングでシンの声が響く。


 「おはよう、おにーさん!僕のうちへようこそ。まずは、お風呂にはいってね?正直にいって汚すぎるよ。」


 男は自分の姿を見て思った。これはごみの塊かな?っと。


 風呂から上がった男は見違えるようだった。濃い青の髪は光を反射しより深い色になり、長い前髪の隙間から覗く紫色の瞳は神秘的で、シンとはまた違う系統で整った顔立ちをしていた。


 「お帰り、今日から仲間になるんだから、まずは名前だね!なんて呼べば良い?あと、何歳?」


 「…バキュア、18歳。」


 「そっかー、よろしくね?バキュアおにーさん。僕はシン、16歳だよ。改めてよろしく ね?」 


 シンが握手をしようと手を差し出す。バキュアはそれに答えることはしなかったが、どこか少しうれしそうだった。


 「突然なんだけとバキュアおにーさんは最近話題の殺人鬼をしらなちかなぁー?」


 「…知っている。というよりは知っていたという方が正しいが。居た場所も案内はできるぜ。たとえ本人がいないとしても。」


 「ん?どーゆーこと?」


 「殺されたんだよ。」


 「そっかー、なら、その殺した奴を仲間にしようか?噂の殺人鬼君は結構強かったんでしょ?それを倒せるんだから相当強いってことだよね?バキュアおにーさん、案内よろしくね。」


 「…で良い。」


 「ごめんねー、聞き取れなかった。もう一回言ってくれる?」

 

 「バキュアで良い。おにーさんなんてつけなくて良い。」


 「…分かったよ、バキュア。それなら、僕のこともシンって呼んでね?」

 またもバキュアは嬉しそうだ。


 (思ったよりもこいつのもっている情報は使える。もう少し好感度を上げておいても損はないかもな…。)

 「それじゃあ、行こうか?バキュア、案内よろしくね?期待してるよ。」

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