第15話殺人鬼の殺人鬼
ー--現在ーーーーーーーーーーーーーーー
「それから俺は二年間ティルと暮らした。五日前俺が守り切れなくれ殺されるまでは。鍛錬してもらったおかげでそこら辺の奴には負けなくなっていた。おかげで少し調子に乗って相手の力量も見極めずに突っ走っちまった。」
バキュアの横顔は髪で隠れて見えない。だが、声音から後悔がうかがえる。そこでシンは聞くことにした。
「バキュアは、ティルおにーさんを殺した相手のこと、恨んでる?」
「…わからない。たぶん、恨んではいない、と思う。俺が恨んでいるのはあの時なにもできずに、ティルを死なせちまった俺にだな。」
自嘲気味に笑う。
「だから、おまえが心配することはねーよ。仲間にしたいんだろ?好きなようにしろ。俺はおまえについていくって決めたんだ。どうしようが文句はねーよ。そんなこんなで、ついたぞ。ここだ。」
2人の目の前には廃れた建物。廃れたとは言ってもそこらの家よりも大きく豪邸とよぶに相応しい外見だった。ただ少し目立つのは伸びたまま放置された蔦や、見渡せばすぐそこらの壁にかかっているクモの巣である。
「うっわー!スッゴい豪邸だね。ティルおにーさんって実は偉い人だったの?」
「俺も良くは知らないが、ここは元々空き家だったのをティルが綺麗にして住んでいただけらしい。お目当ての相手がいるかは分からないがとりあえず中にはいるか。雨も降りだしそうだしな。」
先程までの輝かんばかりの晴天とは対照的に今は黒く重い雲が空で渦を巻いている。雨が降っていないのが不思議なくらいである。
「おっ邪魔しま~す。」
シンに続きバキュアも足を踏み入れる。その瞬間図ったかのように雨が降り、雷が落ちだした。
「とりあえず、1番探してる人がいそうなところへ案内してほしーな。僕的には、1番生活しやすそうなティルおにーさんの部屋で紅茶でも飲んでるんだと思うなー。バキュアはどう思う?」
「よくわからない。とりあえずアドバイス通りにティルの部屋に案内する。」
「マジか。」
「僕ってばすごーい!」
ティルの部屋。そこには人がいた。椅子に優美に腰をかけ、そとを眺めながら紅茶を飲む姿はさながら童話の世界のセットのようだ。
バキュアのときも外見的特徴と行動が噛み合っていなかったが、今回もまた盛大に噛み合っていない。
座ってシン達を待ち構えていたのは男か女かも見分けがつかない中性的な顔立ちで、きつく編み込まれた腰辺りまである長い金色の髪は1本1本が細く、さながら純金でできた金糸のようで、大きく比較的丸い形をした目にはまる瞳は光のあたり方で色が代わり空のような淡い青から、深い海のような濃い青色に変わるとてもきれいな色をしている顔全体で見れば、目鼻立ちの堀が深くいため、それこそドレスなどを着せれば実寸台のビスクドールだと言われても気づかない程整っている。
「君が来るのを待っていたよ。」
発せられた言葉。声音がなんとも心地よい。鈴となる鈴のようだ。口調も敬語というわけではないが、柔らかいためシンのなかでの相手の第一印象は迷子になっていた。
「だってよ、バキュア?何かしたの?」
「いや、俺じゃなくておまえだろ。」
「僕だって違うと思うよ?バキュアの名声があまりないからと言っても、僕はゼロだからね。知られてるわけがないんだもん!」
「まずは、自己しょ…」
「いやだからって俺でもないぞ?第一、俺、あいつと話したの今日が始めてだし。」
「あのー、話を…」
「僕もだけど?」
「グッウ…たしかに。」
2人に無視され続けたせいか拳をワナワナと震わせる。そして意を決したように前を向き口を開く。
「いい加減に俺に話させて。どうしてそこで喧嘩してるのさ。俺を無視しないでよ!」
ついに叫んだ。それを見てシンとバキュアはポカンとする。そして喧嘩をやめ相手に向き直った。
「ごめんねー、つい。ほら、バキュアも謝って?」
「すまん。」
「ささっ!話して話して」
シンに促され納得がいかない様子で話し始める。
「まずは、自己紹介をしよう。」
こちらを見る相手の顔には人懐っこい笑顔が浮かんでいる。否、誰が見ても否定的にとられることのない計算されつくし、もっとも実用的な顔があった。第一声。
「俺が巷で話題だった連続殺人鬼ティルを殺した犯人で、バキュア?君が仇をとる相手に当たる人物になってる。」
最悪な切り出し。そして会話が始まった。
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